近年では離婚や再婚が増加傾向であり、それに伴って家族関係が複雑になるケースも増えています。いまは円満な関係でも、相続となった段で問題が生じるリスクもあるため「遺言書」の作成は非常に重要です。「親族と絶縁してしまった」「財産を手放す羽目になった」といった後悔をしないためにも、トラブル事例を見ていきましょう。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
懸念点は、自分亡きあとの「家族関係の変化」
40代とまだ働き盛りのY崎さんですが、母親違いの子どもがいる家族構成を考え、万一自分が事故などで亡くなった場合、そのままでは家族に不安が残ると思い、自分の意思を明確に遺しておきたいと考えるようになりました。
もちろん妻のことは信頼していて、家族仲も円満です。とはいえ、妻との間に子どもが生まれてから、義理の関係である連れ子との間には、見えない溝ができてきたようにも感じられます。
「子どもたちの父親である自分がいる限り、大きなトラブルはないと思います。ですが、もし自分に万一のことがあったらわかりません。いまの妻と先妻の子たちとの関係が悪化する可能性だってゼロとはいい切れませんし、あの子たちが成人するには、10年近くかかりますし…」
そのように心配するY崎さんに、筆者は遺言書の作成をお勧めしました。家庭の主軸となっている方が亡くなり、残された家族の関係が変化するというのはよくあるケースです。奥さんや子どもたちの不安を解消し、無用な争いを防ぐには、遺言によって分与を決めておくことが効果的です。
一般論ではありますが、義理の親子の関係はしばしば複雑になりがちで、仲よく暮らしてきた年月があったとしても、決裂するときは決裂します。また、義理の関係が一度こじれると、修復は容易ではありません。
Y崎さんは、自分がいなくなったあとに、先妻の子どもたちといまの妻との共同生活がむずかしくなることも想定し、所有するマンションは売却、預金、生命保険とともに後妻と子どもたち全員で等分に分けるようにしました。法定割合とは少し異なりますが、熟慮の結果であり、きっと妻は理解してくれると考えています。
遺言書を執行するときに、子どもが未成年だった場合には後見人が必要となるため、自分の考えを理解してくれている実姉を後見人として指定する内容も盛り込み、遺言書は無事に完成しました。
実際に遺言書を書く段になると、思いのほか財産分与の決め方がむずかしく、かなり時間がかかってしまいました。無事に公正証書遺言が完成したときには「これで肩の荷が下りました」と、ほっと安堵の表情を見せました。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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