税務会計は財務会計をベースにしています。しかし、税金は財務会計で計算された利益にそのままかかるのではなく、税法の規定に従って調整を行います。
例えば、減価償却費について、財務会計では減価償却の年数は企業が独自に算定できますが、税務会計では法定耐用年数を用いて処理します。
引当金について、財務会計では将来の損失の発生などを見越して計上する必要がありますが、税務会計では基本的に計上を認めていません。
こうした違いから、税法(税務会計)では収益を「益金」、費用を「損金」、利益を「所得」と表現し、財務会計とは算出の基準などが異なります。
税務会計における「益金」と「損金」は、財務会計における「収益」と「費用」とズレがあり、税務会計における「所得」と財務会計における「利益」は一致しない部分が必ず出てきます。
そこで税務申告では、財務会計のデータをもとに、各種調整をしたうえで納税額を計算します。
①税務会計
税務申告と納税のため、税法に基づいて処理する(財務会計をベースとしつつ一定の修正を加える)。
②財務会計
株主や金融機関に経営状況を報告するため、会社法に基づいて処理する。
③管理会計
経営者が経営判断の参考とするため、それぞれの企業で使いやすいように処理する。
以上のことから、中小企業の経営者が経営判断を行うにあたって、「税務会計」の数字をベースにするのは非常に問題です。
例えば不良在庫があった場合、経営状況を把握するためには、評価減した数字を試算表や決算書には記載すべきです。しかし、税法では一定の基準を満たさないと在庫の評価減はできないことになっており、「税務会計」で作成した決算書では正しい経営判断ができないのです。
ところが、日本の中小企業では「税務会計」が中心になりがちな傾向があります。なぜなら、会計を依頼している多くの会計事務所は、税務申告をメイン業務にしているからです。
結果として、貸借対照表と損益計算書が、会社の財務状態と経営成績を正しく表していないケースが多いのです。
税務署が調査に入っても、税務処理が適正かどうかしか見ません。貸借対照表と損益計算書が経営の実態をきちんと反映しているかどうか、会社の経営状態が健全かどうかは関係ありません。
中小企業の経営者は、「税務会計」で経営判断を行ってはいけませんし、むしろ危険ですらあります。