未来社会のコンセプト「ソサエティ5.0」
AI、5G、IoTといった新しいIT・ITC技術が普及することで、私たちの暮らしや産業は大きく変わっていきます。その具体的なイメージが「Society(ソサエティ)5.0」です。
これは日本政府の「第5期科学技術基本計画」(2016年)で登場し、今や官民挙げて未来社会のコンセプトとして定着しつつあります。「ソサエティ5.0」は、狩猟社会(ソサエティ1.0)、農耕社会(ソサエティ2.0)、工業社会(ソサエティ3.0)、情報社会(ソサエティ4.0)に続くものです。
20世紀の後半から情報社会(ソサエティ4.0)の到来ということがいわれてきましたが、そこでの情報はどちらかというと個別に収集・管理されるものでした。インターネットの普及でクラウドサービスも登場してきていますが、そこでは同時にセキュリティやプライバシーの問題が浮上してきています。
より本質的な課題は、情報の絶対量が増えるとともに、その中から信頼できるもの、本当に必要なものを見つけ出すのが難しくなっていることです。むしろフェイクニュースやインターネット世論操作、選択的接触の広がりにより、社会の分断が促進されているとする議論もあります。そもそも日本では、少子高齢化や地方の過疎化が深刻になっており、社会全体として新しいソリューションが求められています。
こうした閉塞状況を打破するのが、「ソサエティ5.0」なのです。ソサエティ5.0は基本的に、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合したシステム(プラットフォーム)がベースとなる社会です。
5GとIoTですべての人とモノがつながり、物理的な距離や時間を超えてさまざまな知識や情報が共有されます。集められたビッグデータをAIが解析し、私たちの活動にさまざまな形でフィードバックされます。
そのことで、これまで難しかった社会課題の解決や新たな商品、サービスなどの開発が可能になるのです。
「電子的データ交換」で伝票の起票や郵送も不要に
「ソサエティ5.0」は、データ駆動型社会ともいわれます。あるデータを別のデータとつなげることで、より幅広いデータの活用が可能となります。しかし、データ形式がそれぞれ違うと、連携がうまくいきません。そのため、共通のデータ基盤を作り、各データをその基盤に合わせる形に標準化することが不可欠です。そうした変化はすでにビジネスの世界では始まっています。
一つの例が、EDI(Electronic Data Interchange)、「電子的データ交換」です。B to Bの企業間取引においては、受注と発注、出荷と納品、請求と支払いといったさまざまな取引情報が発生します。こうした情報のやり取りは以前、伝票や電話・FAXで行われ、膨大な手間とコストがかかっていました。それに代わり、企業間を専用回線でつないで取引情報のやり取りを自動化するのがEDIです。
EDIを導入すれば、取引のたび伝票などを書き起こし、郵送したりする必要がなくなります。EDIにより受発注が効率化されますが、さらに大きなメリットもあります。それは、取引企業の間で、需要予測、生産計画、販売計画、在庫計画などの最適化をスムーズに行えるようになることです。
例えば、自動車部品メーカーなら、完成車メーカーからEDIを通して提供される翌月の生産計画を見ながら、日々の部品生産を調整することができます。グローバル企業のEDIでは、海外のサプライヤーに発注情報をEDIで送り、そのサプライヤーに在庫がなければ、すぐ他国のサプライヤーに自動で再発注をかけます。そうしたやり取りがわずか数秒でできるのです。