遺産相続において、「遺言書」は強力な効力を持ちます。「死後、財産のことで争う姿なんて見たくない……」と考えて遺言書を記したはずが、思わぬ事態が発生してしまうケースも。本記事では、相続・事業(医業)承継コーディネーターの芹澤貴美子氏の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』より一部を抜粋し、遺言書によって姉妹の仲が悪化してしまった事例を紹介します。

遺言書の内容を読んだ二女、顔色がみるみる変わり…

遺言書に書かれていたのは、家業と長女のことばかりでした。「会社の資産は長女に相続してほしい。自分に代わって会社を守っていってほしい。この自宅は長女にそのまま住んでもらいたい」など、最後まで読んでも二女の名前は一度も出てきませんでした。読んでいくうちに二女の顔色がみるみる変わり、硬く表情をこわばらせたまま押し黙ってしまいました。

 

長女は長女で、自分のことばかり書かれていることが申し訳なく、妹に何と言葉を掛けていいかわからずに、こちらも押し黙ってしまいました。

 

二人とも、お父様を偲んでこぼれた涙が、すっかり乾いてしまいました。そうして皮肉なことに、遺言書が出てきたことで、姉妹の間に大きなわだかまりができてしまったのです。

 

遺言書では長女が自宅や会社関連の財産を受け継ぐことになっていましたが、財産はそれ以外にも預貯金や賃貸マンションなどいくつかあり、そちらを二女が相続すれば、額に多少の偏りはあるにせよ、それほど不公平な遺産分割でもありませんでした。しかし、二女は自分の存在が遺言書で無視されていたことに強いショックを受け、遺言内容を素直には聞けなくなってしまいました。

 

この段になって、長女から私に相談がきたのですが、私が二女に話を聞くと、「お父さんは結局、お姉ちゃんのことだけが大事で、私のことなんてどうでもよかったのよ。私だって病気の身体を抱えながら、父の介護を頑張ったのに。お姉ちゃんが悪いわけではないけど、どうしても釈然としない」と訴え、ポロポロと涙をこぼされました。

 

長女のほうも「妹の前で遺言書を読んだのは間違いだった。でも、まさか父があんな遺言書を残しているとは思わなくて。お父さんは、自分だけでは遺言書なんて書けないから、遺言書の書き方をアドバイスした弁護士に怒りを覚える」と妹に同情を示しながら、「それでも、妹に会社の財産が渡ってしまったら、この先やっていくのが難しくなる。どうにか妹には引き下がってほしい」と言います。

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開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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