遺産相続において、「遺言書」は強力な効力を持ちます。「死後、財産のことで争う姿なんて見たくない……」と考えて遺言書を記したはずが、思わぬ事態が発生してしまうケースも。本記事では、相続・事業(医業)承継コーディネーターの芹澤貴美子氏の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』より一部を抜粋し、遺言書によって姉妹の仲が悪化してしまった事例を紹介します。

二女の旦那が横から口出し「お前は娘なんだから…」

私も何とか話し合いで穏便に解決してさしあげたいと思いました。けれども、事はそんなにうまく進みませんでした。事態を聞きつけた二女の旦那さんが横から口出しをしてきたのです。

 

二女に対して「お前は娘なんだから、もっと財産をもらえる権利がある。君のお姉さんは私立の大学に行ったり、留学させてもらったりで、たくさんお金をかけてもらっているじゃないか。それに比べて、君は短大しか出してもらっていない。だから、その分も多くもらっておかしくない」などと情報を吹き込み、二女を焚(た)きつけました。

 

こんなことになるなんて。
こんなことになるなんて。

 

二女の中で、父に愛されなかったという悲しみの気持ちが、次第に長女への嫉妬に変わり、やがて「姉にばかりいい思いはさせない」という恨みや憎しみへと変わっていきました。結局、私の手には負えないところまで関係がこじれてしまい、その後は信頼のおける弁護士の先生を紹介することくらいしか、私はお世話させていただくことができませんでした。

 

私が思うに、お父様は長女も二女も等しく愛しておられたと思います。きっと「そんなことは言わなくても伝わっている」「愛しているよ、ありがとうなんて、今さら改めて言わなくても」と思っておられたのでしょう。だから、あえて事務的なことしか遺言書にお書きにならなかったのだと推察します。

 

けれども、これは私が他人で、客観的な立場にいるからわかることで、当事者はそうはいきません。

 

遺言書を受け取る側としては、「お父さんの最後の言葉だからこそ、私の名前を一度でも呼んでほしかった」と思うのは当然の気持ちです。下手に遺言書を残して遺族の気持ちを傷つけてしまうと、円満な相続どころか、生前の楽しかった思い出や美しい思い出までが、すべて台無しになってしまうこともあるのです。

 

大事なのは、遺言書を過信して頼りすぎないことです。私が「遺言書は不要」といった真意は、遺言書なんて書いても役に立たないという意味ではなく、「遺言書が不要なくらい、生前から家族に意思や気持ちを伝えておきましょう」という意味とご理解ください。

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開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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