不動産を買うには「地歴」が大切な理由
2000年以降に建設されたマンションの多くが、東京五輪以降は築20年を超えて大規模修繕の時期を迎える。外壁の修繕には足場が組めないために、屋上からゴンドラを吊り下げての工事になるが、湾岸部で高層建物ともなれば、上空は常に風が強く作業日は限られ、工期は通常マンションの数倍かかるといわれる。
多くのタワマンでは大地震等での停電に備え、非常用発電装置が備えられている。
いざというとき安心の設備であるが、これも経年劣化が激しい。築15年から20年程度で交換するにあたっては、1基数千万円から1億円の負担となる。
また、メンテナンスをしっかりと施さないと、その「いざ」というときに役に立たない。あるビル会社が東日本大震災の後、運営管理しているビルの非常用発電装置を実際に動かしてみたところ、多くの設備が規定通りの時間作動することがなかったという。それだけメンテナンスが難しい設備であるということだ。
タワマンに装備されているエレベーターは、超高速のもので、高性能であるぶん、更新する場合には大変な金額となる。普通のマンションのエレベーターがプリウスなら、高層用のものはポルシェのような差があるのだ。
今後、これらの問題をすべて負っていくのは、分譲したデベロッパーではなく、一人ひとりの所有者なのである。
築地市場の移転問題で、すっかり負の話題を提供されてしまった東京の豊洲であるが、豊洲に限らず、タワマンが林立する土地の多くは埋め立て地で、しかも以前の工場や倉庫などの跡地だ。大地震が発生したときは、多くの土地で液状化現象が生じることが予想される。
液状化で地下から噴出する「液」というと、あの豊洲市場の地下水を連想する人が多いのではないだろうか。自分たちがどんな土地の上に住んでいるのかも、クローズアップされるのだ。
実は昔からの東京人で、湾岸エリアのタワマンを買う人は少ない。このエリアの以前の姿をよく知っているからだ。お台場が東京だと憧れる、「東京を知らない地方の人」が買うのがタワマンなのである。
不動産を買うには、地歴が大切だ。地歴とは、昔その土地に何があったのか、どんな歴史が潜んでいるのかを語る重要な資料だ。タワマンは地歴で買うには「お買い得」ではけっしてないのである。
牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役