今回は、国外転出時課税と贈与税はダブルで課税されるのかみてみます。 ※本連載は、2015年12月に刊行された、税理士・菅野真美氏の著書、『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』(中央経済社)の中から一部を抜粋し、国際転出時課税や国際相続に関するQ&Aをご紹介します。

非居住者に贈与で資産移転を行うと転出時課税の対象

Q:国外転出(贈与)時課税と贈与税はダブルで課税されるの?

谷沢五郎さん(日本居住)の次女の裕子さんは、外国人と結婚して、外国に住んでいます。今回、孫ヘンリー君が生まれたので、保有している外国債をプレゼントしようと思います。贈与税だけ心配すればいいのでしょうか。

 

A:もし、谷沢さんが、贈与時に有価証券等を1億円以上有していた場合は、贈与時に谷沢さんが国外転出(贈与)時課税を受け、贈与を受けたヘンリー君には贈与税がかかることになります。

 

平成27年度の税制改正で、国外転出時課税が導入されました。海外移住後に有価証券を売却することにより、日本の所得税の課税逃れがおこることを防ぐためです。海外で所得税をかけずに有価証券等を移転させる方法は、国外に移住する場合に限られません。贈与により非居住者に移転し、その後、売却した場合の売却益も日本で課税することはできません。そこで国外転出時課税の範囲は、国外転出だけでなく、非居住者に贈与による資産移転がある場合も含まれます。

日本での居住期間と保有資産で課税対象者が決まる

非居住者への贈与について国外転出(贈与)時課税の対象となる人の要件は大きく分けて2つあります。

 

1つは、贈与する日前10年以内において日本に住所または居所を有していた期間が5年を超えている人であること。もう1つは、贈与時に保有している有価証券や、贈与時に未決済の信用取引やデリバティブ取引の時価相当額が1億円以上であること。

 

この2つの要件を満たしている人が国外転出(贈与)時課税の対象となるので、これに当てはめて谷沢五郎さんが対象になるかどうかを判断することになります(所法60の3⑤)。注意してほしいのは、谷沢五郎さん本人が贈与時に1億円以上の国外転出(贈与)時課税の対象となる資産を保有しているかどうかで判断され、贈与した資産の価額が1億円以上かどうかで判断されるのではないことです。

贈与税には債務控除は適用されない

それでは、谷沢五郎さんが孫のヘンリー君に外国債を贈与した場合はどうなるのでしょうか。もし、谷沢五郎さんが贈与前10年間のうち5年超日本に住んでおり、かつ、谷沢さんが1億円以上の有価証券等課税対象財産を保有していた場合は、ヘンリー君へ贈与した外国債の価額にかかわらず、贈与した外国債の部分については、国外転出(贈与)時課税の対象となって谷沢さんに所得税の納税義務が生じます。

 

さらに、ヘンリー君は、外国籍の日本非居住者ですが、贈与した谷沢五郎さんが贈与時に日本に住所を有していた場合は、ヘンリー君側には贈与を受けた外国債について日本において贈与税の納税義務が生ずることになります(相法1の4①二ロ)。また、贈与税については、相続税のように債務控除というものがないことから、資産移転について贈与側と受贈側の二重課税が生ずることになります。

本連載は、2015年12月20日刊行の書籍『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました

税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました

菅野 真美

中央経済社

国際転出時課税は外国に移住後に株式を売却することにより日本の所得税課税を回避すること等を塞ぐための税制です。この税制の主たるターゲットは外国移住者ですが、同じようなことは贈与又は相続でも可能であることから、贈与…

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