今回は、相続税の計算における国内財産・国外財産の「区分」の方法についてみていきます。 ※本連載は、2015年12月に刊行された、税理士・菅野真美氏の著書、『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』(中央経済社)の中から一部を抜粋し、国際転出時課税や国際相続に関するQ&Aをご紹介します。

貴金属のような動産は「所在」で判断

Q:国内財産・国外財産の区分はどうするの?

白鳥羽雄さんは、平成28年2月8日に外国で人生を終えました。白鳥さんの財産は日本と外国に預金や株式、投資信託、不動産、貴金属などがあります。日本の相続税を計算する際に国内財産と国外財産の区分をする必要があります。どのような基準で分ければいいのでしょうか。

 

A:財産の所在については日米相続税条約の適用がない場合は、相続税法10条に基づいて区分します。

 

【解説】

相続税を計算する場合において、国内財産のみが相続税の課税対象になる人(制限納税義務者)の場合は、財産が国外財産か国内財産か、判断しなければなりません(相法1の3①三、11の2②)。そのため原則的には、相続税法10条で財産の所在を考えることになります。

 

不動産の場合は、日本の領土内の不動産か否かで判断します。貴金属のような動産も所在で判断します(相法10①一)。ですから、日本にある銀行の貸金庫に金の延べ棒を保管していたら国内財産ですし、チューリッヒにあるスイス銀行の金庫に保管していたら国外財産となります。

預金・株式・投資信託の財産区分の判断基準は?

預金は、預金の受入れをした営業所または事業所の所在(相法10①四)で判断します。ですから、外資系の金融機関の東京支店に預け入れたら国内財産、日本の金融機関のロンドン支店に預け入れたら国外財産となります。

 

株式の場合は、株式の発行法人の本店または主たる事務所の所在(相法10①八)となり、たとえば日本法人が外国で預託証券(たとえば米国預託証券)を発行した場合は、国内財産となります。

 

投資信託の場合は、株式と異なり信託の一種であり、一般に流通される投資信託は税制上「集団投資信託」、主として個別に設計される投資信託は「法人課税信託」に区分され、これらについては、信託の引受けをした営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在(相法10①九)で判断します。一般的には、外国株式で運用されている投資信託でも、日本の法令に基づいて設定された信託は国内財産、外国の法令に基づいて設定された信託は国外財産となります。

 

いわゆる受益者等課税信託に該当する信託の場合は、受託者がどこにいるかで判断するのではなく、信託財産が何かをみて、その財産の種類に応じて相続税法10条の区分に基づき国内財産か国外財産か判断します。

 

日本は所得に関する租税条約を数多く結んでいますが、相続税については米国としか結んでいません。この米国との租税条約の中では、財産の所在について、運送中の動産は、相続税法上は所在地で判断しますが、租税条約では目的地で判定します(日米相続税条約3⒝)。

本連載は、2015年12月20日刊行の書籍『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました

税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました

菅野 真美

中央経済社

国際転出時課税は外国に移住後に株式を売却することにより日本の所得税課税を回避すること等を塞ぐための税制です。この税制の主たるターゲットは外国移住者ですが、同じようなことは贈与又は相続でも可能であることから、贈与…

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