今回は、「国外転出時課税」の対象者はどのように規定されているのかをみていきます。 ※本連載は、2015年12月に刊行された、税理士・菅野真美氏の著書、『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』(中央経済社)の中から一部を抜粋し、国際転出時課税や国際相続に関するQ&Aをご紹介します。

平成27年7月1日以後の国外転出から課税対象に

Q:日本国籍の方が国外転出時課税対象者になる場合は?
山田太郎さんは長年、日本の商社に勤めていましたが、退職し、奥様と一緒に海外に移住する予定です。主な資産は自宅、預金、上場株式、投資信託があります。移住時に確定申告して税金を納める必要はありませんよね。


A:山田太郎さんが、移住前10年以内に5年超日本に住んでおり、かつ、移住時に有する上場株式と投資信託の時価の合計額が1億円以上である場合は、移住時に譲渡したものとみなして所得税が課されます。

 

【解説】

平成27年度の税制改正で、国外転出時課税が導入されました。これは、日本国内で有価証券を売却した場合、売却益に20.315%の税率で課税(所得税・復興特別所得税・住民税)されますが、海外移住後に売却した場合は、諸外国の税制等により非課税とされ、富裕層の課税逃れが問題となったからです。欧米ではすでにこのような課税逃れを防ぐために出国税が設けられており、日本も先進国の中では遅ればせながら導入され、平成27年7月1日以後の国外転出(国内に住所または居所を有しなくなる)(所法60の②)から適用されています。

 

対象になる人の要件は大きく分けて2つあります。1つは、国外転出する日前10年以内において日本に住所または居所を有していた期間が5年を超えている人であること。もう1つは、国外転出時に保有している有価証券、匿名組合の出資持分、未決済の信用取引、デリバティブの時価相当額が1億円以上であること。山田太郎さんが上記要件を満たしている場合は、国外転出時課税の対象となります(所法60の2⑤)。

納税猶予を受けた期間は国内居住者とみなされる

それでは、海外赴任の期間が長い人の場合はどうなるでしょうか。所得税法では納税義務者の範囲を非居住者と居住者に分け、居住者は非永住者と非永住者以外の居住者に分け、現行税制では非永住者に日本人はなれません(所法2①三、四、五)。しかし、国外転出時課税は国籍制限がありません。ですから,山田太郎さんが国外転出時前に日本に住んでいた期間が過去10年以内に5年以下である場合は、国外転出時課税に該当しないことになります。

 

なお、国外居住期間でも納税猶予を受けた期間は国内に住んでいた期間とみなされます(所令170②二)。5年の居住期間は、暦に従って計算し、1月に満たない期間は日をもって計算し、日本での居住期間が複数ある場合は、これらの年数、月数、日数を合計し、日数は30日で1月、月数は12月で1年というように計算することになると考えます(所基通2−4の3)。

本連載は、2015年12月20日刊行の書籍『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました

税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました

菅野 真美

中央経済社

国際転出時課税は外国に移住後に株式を売却することにより日本の所得税課税を回避すること等を塞ぐための税制です。この税制の主たるターゲットは外国移住者ですが、同じようなことは贈与又は相続でも可能であることから、贈与…

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