新型コロナで小松左京本人が迎えた「復活の日」
『ペスト』のカミュ、『大河の一滴』の五木寛之と、新型コロナウイルスは文壇のビッグネームをランキングに蘇らせたが、もう一人忘れてはならない人がいる。『復活の日』(1964年、角川文庫、ハルキ文庫)の小松左京だ。ランキング上位には届かなかったが1月以降じわじわと売れ出し、今もコロナ関連ブックの平台に見つけるのは難しいくらいだ。
「ピーク時は週1回の重版ペース。今年に入って新装版を4刷、1万1000部刷りました」(ハルキ文庫編集担当者)
『復活の日』はこんな話だ。アルプス山中で発見された遭難機。壊れたジュラルミン製トランクには、感染症を引き起こす「MM菌」が。雪解けとともにヨーロッパで原因不明の死者が続出し、被害はやがて全世界に拡がり人類滅亡の危機に至る。コロナ禍で明日の世界が見通せなくなった現代人が手に取りたい気持ちはよく分かる。しばらく表舞台に出ることのなかった小松左京(1931~2011)という稀有な作家に、再びスポットライトが当たった形だ。
日本のSF御三家は誰かと問われて、団塊の世代なら即座に星新一、筒井康隆、そして小松左京と答えるはずだ。ハヤカワミステリで産湯に浸かり、既存の文芸ものとは異なる小説の面白さに魅かれた。その中心に小松左京がいた。小松左京の魅力はなんといっても、本業のSF作家ですら尻込みする壮大な未来の虚構ストーリーに果敢に挑み、科学的裏付けのあるエンタテイメントとして成立させる圧倒的想像力と筆力にある。
代表作の『日本沈没』(1973年)では、沈みゆく日本列島から日本人を海外に移住させようとした。『さよならジュピター』(1982年)は、太陽に突入しようとするブラックホールに、木星をミサイルにして打ち込むことでコースを変えようとする話。半径30㎞の正体不明の雲に覆われた東京が、首都機能を喪失し混乱する『首都消失』(1967年)。異星人と人類の戦いを描いた『見知らぬ明日』(1989年)など、想像の翼は限界を知らない。オールドファンはもちろん、『復活の日』で小松ワールドを初体験した若者たちがこれを機に傾倒していくのは時間の問題だ。“復活の日”を迎えたのは小松左京本人なのである。