株式投資、FX、不動産投資など、さまざまな投資を自ら実践してきた医師が語る、不透明な時代を生き抜くためのお金の知識。本連載は、現役の医師で、大見医院院長の大見貴秀氏の書籍『失敗から学び続けた、資産家ドクターの投資術』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋し、医師に最も適している資産形成法を教えます。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

「病院の花形」救急医療、リアルな声

テレビドラマの題材に取り上げられることも多い、救急医療の世界。そのドラマティックなイメージもあり、病院の花形ともいえる部門だ。しかし、現在の職場環境に危機感を感じているドクターたちもいる。

 

今回、お話を伺ったとある大学病院に勤めるK医師もその一人だ。K医師への3時間近い取材は、救急現場の実態、開業医と勤務医の関係、東京と地方の医療の違い、そして働き方改革による医師の変化など、多岐にわたった。

 

そこでわかったのは、比較的医師の多い東京であっても、職場環境を変えなければ人が集まらないこと。そして、さまざまな医療改革を控えるいま、医師に求められる能力が変わりつつあることだった。

 

2020年の年始に、勤務先である大学病院の研究室で取材をさせていただいた。ここで、K医師が語った現在の医療と医師の問題に対する見解、そして医師はこれからどう働くべきか? という内容は、状況や立場が違うドクターの皆さんにも大いに参考になるのではないかと思う。

 

取材相手:某大学病院救命救急科勤務K医師

救急医療の責任者は何をしているのか?

――長らく救急の現場で働かれていますが、いまどのような問題意識を抱えていますか?

私は、救急科の責任者として働いています。とくに問題意識を感じているのは、現場医師たちの働き方ですね。これは救急科だけではないと思いますが、患者さんのために長時間働くことが常態化してしまい、働き続けるのが難しい。この状況を変えようといま、力を入れているのが、リクルーティングです。しかし、なかなか人が来てくれません。

 

――救急科は、人気の科だという話を聞いたことがありますが……。

 

いや、そうでもないですよ。救急は、何件も同時に救急車を受けると、一晩中、眠れないどころか、水分すら摂れない状態が続く過酷な仕事です。体力的にも精神的にもタフな仕事ですから、医療のスキルを磨きたい、勉強したいという志のある人しか来てくれません。そういう志のある人でも、体調面での問題だったり、子どもができるなど、ライフステージの変化があると長く続けられないという現状があります。その厳しい環境の中で、急患を断らない地域医療を提供するにはどうしたらいいかを考えなければいけません。その答えの一つが、リクルーティングなんです。

救急科は体力的にも精神的にもタフな仕事。
救急科は体力的にも精神的にもタフな仕事。

――具体的にはどのようなことをなさっているのでしょうか?

 

人材を確保するためには、待つだけではダメで、拠点の異なる病院にも積極的に口説きに行かなければいけません。魅力的な職場であることをアピールしながら、その人のキャリアプラン、生活環境のニーズを聞いて、見合った条件を提示する。毎回、真剣勝負です。そうやって人数が揃って初めて、ハードワークになりすぎないように調整できるんです。救急医療はマンパワーで回っていますから。いまいるスタッフが長く勤められる環境をつくるには、一人ひとりのQOLを上げるしかないと思っています。もう一つ大切なのは、育成という観点です。育成というのは、部下の自己実現を叶えることだと思います。そのためには、「自分はできる」という自己有能感と「やりたいことをやっている」という自己決定感を持ってもらうことが大切です。つまり、「今日も職場に行きたい」と思える心理的安全性の確保ですね。ただ、これが難しい……。

 

――といいますと?

 

私の経験からもそうなのですが、上司は部下の行動をどうしても否定してしまうんです。部下がエラーしたときや、意見が衝突したときは、とくにそうだと思います。ただ「今日も職場に行きたい」と思われるような環境をつくるには、原則、上司が譲らねばならないんです。すなわち、ムッとしているときでも「好きなようにやっていいよ」と言えるかどうか。そのうえで、「責任は私がとる」と思えるかが大事です。

 

――それは、なかなか難しいですよね。

 

なぜ自分が部下を否定してしまうのかを振り返ってみると、それは私の「自尊心」や「羞恥心」が原因だと気づいたんです。しかし、組織ということを考えた際に、自分への執着をなくすことが使命なのだと考えを改めました。私の感情や気持ちではなく、相手を尊重しなければならない、と。いま、医療現場のリーダーには、こういう「見えない努力」が求められているのではないかと思います。その思いは、ある程度部下たちにも伝わっていると感じています。

 

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