医師の働き方を再考する時が来ている
――他の病院の救急科も、同じく人手不足が課題なのでしょうか?
ある地方の病院などは、救急科の先生が皆辞めてしまって崩壊してしまったという話も聞きますし、深刻な問題になっていると思います。中部地方の病院に行ったときは、東京の医療との差に愕然としました。東京であれば、スタッフや施設も充実しているケースが多いので、重篤な患者さんでも粘って治療をするのですが、地方ではそうもいかない。
医師が一人しかいないからです。仮に蘇生しても、続けてケアができない状況なので、治療するよりも見送るというイメージに近かったですね……。とはいえ、どちらがいいのかは患者さんによって異なる部分もあるので、難しいところではあります。
――そうなんですか……。リクルーティングで他に行われていることありますか?
来てくれる医師へ払うバイト代を高めに設定しています。これはかなり喜んでもらえます。
――やはり、お給料面も重要なのですね。
どうしても勤務医は、開業医と比べると給料が低いですから。厚生労働省のデータによると、大学病院で初めて医局に所属すると、年収は300~700万円になるそうです。それなりに年収があればいいですけど、そうではないドクターたちは、忙しくてもアルバイトせざるを得ないんです。ハードワークな医師が多いのは、この辺りにも問題があると思います。
――医師の方々のハードワークは、昔から続いていることなのでしょうか。
私の例でいうと、100時間、200時間連続勤務はざらにありました。3日間不眠という日もあり、帰宅しても部屋までたどり着かずに、玄関から半分足を出したまま寝たこともありましたね。バイトに行くときも、電車だと乗り過ごすし、車だと必ず事故を起こすと思っていたので、基本タクシーを使っていました。タクシーだと安心して寝られますから。遠方の病院に行くときなどは、バイト代が7万円なのに、タクシー代が4万円以上かかっていたときもありました。何やっているんだろう、って感じですよね……。
食に関しても、時間がなくてカップラーメンしか食べなかったり、逆に食べ過ぎてしまったりと、ある意味最低の生活だったかもしれません。といっても、そのころはもっと勉強したい、スキルを高めたいという気持ちが強かったので、そんなに辛いとは感じませんでした。周りのドクターも似たような生活でしたし。
――いまは、そのような状況から変わっているのでしょうか?
変わり始めたのは、15年くらい前に、新医師臨床研修制度ができたころですかね。無理な当直などがなくなり、長時間労働から若い医師が守られるようになったのです。そのころから、長く働くことがいいことではないという風潮に変わり始めました。若い医師の中には、もっと勉強したいのにできない、と不満を持った子もいるようですけどね。働き方改革に2024年4月から医師も適応になるとのことで、「年間の時間外労働960時間以下」を目指すことになります。ただ、救急医療機関などは、「年間1860時間以下」の特例になるようです。それでも、2035年には960時間まで引き下げると聞いています。その流れにあって、医療の現場、とくに救急の現場にはQOLが求められているのだと思います。