キャンパス内に寮を有し、学業だけでなく、共同生活を通じて社会性の育成までをサポートするボーディングスクール。多様性を重要視する富裕層が、我が子を通わせたいと注目しています。北米のボーディングスクールでは、新型コロナウイルスの流行により、学習体制に変化が生じました。本記事では、SAPIX YOZEMI GROUPの海外事業開発部長・髙宮信乃氏が、北米ボーディングスクールの「新しい日常」について解説します。

進学先決定のためのイベントを「オンライン」で開催

新型コロナウイルスは、現在北米のボーディングスクールに在籍する生徒だけでなく、この9月に進学予定の生徒にも大きな影響を与えています。

 

多くのアメリカのボーディングスクールは出願締切を設けています。具体的には1月上旬までにすべての出願書類を提出し、その結果は3月10日に一斉に発表されます。5~10校に出願し、複数の学校から合格を得ることが一般的で、合格者が最終的に学校を決定するために活用するのがRevisit Day(合格者が学校を再訪問できる日)です。

 

3月下旬から4月上旬にかけて実施されるRevisit Dayは、面接時の訪問とは異なるリラックスした雰囲気のなかで実際の授業を見学し、在校生や教職員から話を聞くことができる貴重な機会です。今年3月、新型コロナウイルスの影響により例年通りのRevisit Dayの開催が難しいと判断したボーディングスクールは、すぐにオンラインでの実施に切り替え、校長や教職員、コーチ、在校生やその保護者と繋がる機会を提供しました。

 

オンラインによるRevisit Dayは、学校の施設や雰囲気を直接自分の目で確認することができないというデメリットはあるものの、チャットボックスで気軽に交わされる質問内容と回答がその場で全員に共有されたり、時間や距離的な制約からRevisit Dayを諦めていた合格者家族も参加できるという、オンラインならではのメリットもあります。

 

必要に応じて、後日個別に特定の教職員や在校生とのミーティングも設定され、これらの機会を活用することで、弊社でサポートさせて頂いている今年の合格者は、無事に進学先を決定することができました。

バーチャルイベントによって高まるコミュニティの連携

在校生対象のオンライン授業(参照記事:コロナ禍さえ学びの機会に…北米ボーディングスクールの凄み)やRevisit Dayを皮切りに、多くの北米のボーディングスクールは様々なバーチャルイベントの実施を加速しています。そしてその内容は、コミュニティへの所属意識を大切にしているボーディングスクールらしく、新入生、在校生とその家族、教職員、卒業生など、あらゆるコミュニティメンバーに関連するものになっています。

 

たとえば、ニューハンプシャー州にあるセントポールズ・スクール(St. Paul’s School)は、4月からほぼ毎週、Zoomなどを用いてのオンラインセッションやウェビナーを開催しています。その内容は、新型コロナウイルスに関連する情報のアップデートはもちろん、次年度のコースセレクションや大学出願に関する情報、同窓会イベントや保護者同士がバーチャルで繋がりながら夕食(時差によっては朝食)とカクテルを楽しむといったユニークなものまで、多岐に亘ります。

 

この流れは、アメリカ国外に住む留学生とその家族にとって特にメリットが大きいように思います。これまでもボーディングスクールでは、卒業式や大規模な学校イベントなどをライブストリーミング等で配信してきました。しかし、進路や大学進学に関するちょっとした(ただし非常に重要な)説明会などについては、わざわざアメリカ国外から渡航して参加するというのは難しいのが実情でした。

 

もちろん時差の問題はありますが、物理的な距離なくオンラインで提供される様々な機会が、これまで以上に学校と留学生を繋げ、より一層コミュニティの連携が高まることが期待されます。

9月の新年度に対面での授業を再開できるのか

新学期から対面での授業を再開できるのか――。多くのボーディングスクールでは、コミュニティの力を結集し、医学や科学、法律、教育、施設管理といった各分野にまたがる専門家を招集する形でタスクフォース(委員会)を立ち上げました。9月の対面授業再開を目指し、刻々と変わっていく状況に応じた包括的な戦略と計画を含めた複数のシナリオを用意しながら、最善策を講じるべく日々議論を重ねています。

 

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9月の対面授業再開にこだわり、適用可能で柔軟な戦略と計画立案に取り組む(Miss Hall’s School)

 

もし学校で感染者が出てしまった場合、どのように隔離をし、検査と治療を提供するのか、またその感染経路をどのように追えばよいのか……。各学校が9月までに考えるべきことは山積しています。また、ダイニングホール(食堂)や全校集会、寮のコモンルーム(談話室)等でのSocial Distanceを意識した距離の取り方、感謝祭休暇を含めた長期休暇にこれまで通り寮をクローズすべきかなど、すべて再検討の必要があり、まさに今、「新たな日常」が生み出されようとしています。

 

あるボーディングスクールでは、「新型コロナウイルスによる制約はこれからも続いていくが、それにより生徒の経験を減少させるのではなく、むしろ向上させるような方法での柔軟な革新が求められる」と語りました。あくまでも9月のオン・キャンパスでの学校再開にこだわって日々奮闘するボーディングスクールですが、常にその思考の原点には“Student First”があります。

新型コロナウイルスの影響は「大学出願」にも…

新型コロナウイルスは、アメリカの大学出願にも影響を与えています。

 

UCバークレー(UC Berkeley)を含むアメリカ最大規模の州立大学システムである University of California(カリフォルニア大学)は、新型コロナウイルスの影響で5・6月に実施予定のテストがキャンセルされたこと、また家庭内収入の減少などによりこれまで通りテストを受けられない家庭が増えていることを理由に、2021・22年入学の出願者についてSAT®やACT®などの共通テストの結果提出を任意にすると決定。

 

その後、この機会に改めて大学と学生が現在の共通テストによって最善の結果を得ているかを精査し、2025年までにこれらの共通テストに頼らない独自の新テストの導入を目指す方針であることを発表しました。

新型コロナウイルスの状況下も、変わらず校内のカレッジカウンセリング部門がオンラインで生徒の進学をサポートする(The Peddie School)
新型コロナウイルスの状況下でも、変わらず校内のカレッジカウンセリング部門がオンラインで生徒の進学をサポートする(The Peddie School)

 

今回の決定は、新入生に期待される知識と能力を新テストで適切に測り、教育の質を保つことを目的としており、今後はこれまで当たり前とされてきた共通テストに対する議論が加速するかもしれません。

 

新型コロナウイルスによって新たな世界の扉を開けようとしているまさにこの時、扉の先に待ち構えているものは未知ではあります。しかしどんな時代が来ようとも、獲得した知識と能力を最大限活用しながら自分の道を切り拓き、世界を舞台にリーダシップを発揮できる人間を育てるべく、ボーディングスクールの挑戦は続きます。

 

 

SAPIX YOZEMI GROUP 海外事業開発部長

Triple Alpha 副会長

髙宮信乃

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