キャンパス内に寮を有し、学業だけでなく、共同生活を通じて社会性の育成までをサポートするボーディングスクール。多様性を重要視する富裕層が、我が子を通わせたいと注目しています。本記事では、SAPIX YOZEMI GROUPの海外事業開発部長・髙宮信乃氏が、新型コロナウイルス流行下における、北米ボーディングスクールの対応について解説します。

米国ボーディングスクール「オンライン授業」の現状

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大をうけ、北米の多くのボーディングスクールは3月中旬に休校を決定、日本人を含めた留学生は帰国を余儀なくされました。

 

対面での授業ができないという未曽有の事態にも臨機応変に対応し、現在は緊急措置としてDistance Learningと呼ばれるオンライン授業を実施しています。生徒一人ひとりの個性・能力を最大限引き出すための教育を実践してきたボーディングスクールならではの、進化するオンライン授業をご紹介しましょう。

 

「ボーディングスクール」で
対面での授業ができない状況下で、どのような対応をしているのか

 

一般的に授業は現地時間の午前8時頃から開始されます。留学生はそれぞれの国からPCやタブレットなどのデバイスを介してリアルタイムで参加しますが、時差の関係で参加できない場合でも、録画した授業の様子を後で確認することもできます。

 

また、チェックイン(簡単な確認)のみで、課題やタスクなどに自主的に取り組む科目もあります。

 

ボーディングスクールでは、毎日2~3時間のスタディ・ホール(Study Hall)と呼ばれる自習時間が設定されていますが、オンライン授業でも同様に、決められた時間に交代で教師が質問などに対応します。また、定時の参加が難しい場合にも、各教科担当教師へのメールでの質問も随時受け付けています。

 

授業開始時には出欠の確認があり、体調不良や時差の問題で授業に出席できない場合には、決められた時間までに学校へメールをするよう求められます。また、授業中の身だしなみや姿勢、言葉遣いについては、平時の学校規則が適用となります。例えば、ベッドの上に寝転がっての参加は禁止されています。

 

静かで
周囲の生活音が入らないよう配慮した、静かで落ち着いた環境の中、日本時間の夜から始まる毎日の授業に参加
 

教科書についても、事情があって現物を持って帰国できなかった生徒のため、Google Classroomなどプラットフォーム上にデジタル版教科書にアクセスするためのリンク、あるいはPDFバージョンが共有され、生徒全員が同じ環境で授業を受けられるよう最大限配慮されています。

 

オンライン授業ではどのように成績評価を行うのでしょうか。

 

通常通りの評価を実施する学校から、対面授業の休校期間中は教科の成績を付けないとする学校まで、対応は様々です。評価する場合、授業への積極的な発言や期限内の課題提出のほか、普段と異なる環境下で、前向きかつ周囲に敬意を払いながら授業に参加できているか等が基準になります。

平常時以上の、生徒への配慮やメンタルケア

北米のボーディングスクールの特徴の一つとも言える、アドバイザリー・プログラム(The Advisory Program)も、この非常時において重要な役割を果たしています。

 

このプログラムは10人前後の生徒グループに対し、1人の教職員(アドバイザー)が付いて生徒の悩みや問題に対応するもので、通常の学校生活では、週1回程度、個別、またはグループ単位で自身のアドバイザーとのミーティングが実施されます。

 

オンライン授業に切り替わった後、時差を理由にリアルタイムの授業への参加が難しい生徒もいる中で、このアドバイザリー・プログラムへの参加はほとんどの学校が原則必須としており、ビデオ通話を用いてのFace to Faceでのタッチベース(意思確認のための話し合い)にこだわっている学校も少なくありません。

 

オンライン授業では、時差に負けずリアルタイムで授業を受けようと努めたものの、いつの間にか寝てしまっていた、といった想定内の事態の他、教室で受けるよりも横道に逸れることがない分授業の進度が早く、宿題の量が通常よりも多くて大変、といった想定外の事態も起きています。

 

そんな時だからこそ、アドバイザーは平常時以上に頻繁に生徒と直接繋がることに重きを置いており、学習の進捗や授業を受ける上で困っていることはないかを確認すると共に、環境の変化や先の見えない状況、行動範囲が制限される中で知らず知らずのうちに溜まっている緊張やストレスといかに上手に付き合っていくかといったメンタルケアについてもアドバイスを行います。

 

平時とほぼ変わらないオンライン授業のタイムテーブル。Advisor check-in meetingへの参加が難しい場合、個別にスケジュールの調整が行われる(The Winchendon School)
平時とほぼ変わらないオンライン授業のタイムテーブル。「Advisor check-in meeting」への参加が難しい場合、個別にスケジュールの調整が行われる(The Winchendon School)

 

また、外出自粛が求められる中での運動不足解消を目的として、体育教師やコーチが自宅で簡単にできるエクササイズの動画を頻繁にアップしたり、ヨガやマインドフルネスなどストレス軽減に繋がるオンラインでのライブイベントを企画したりする学校も珍しくありません。

コロナ影響下でも貫く「Student First」の姿勢

先行きの見えない混沌とした状況が続く中、いかにして物理的な距離を乗り越え、コミュニティの士気と一体感を高めることができるかー。突如現れた課題を、北米のボーディングスクールでは普段と変わらない“Student First”の姿勢を貫くことで乗り越えようとしています。

 

これまで紹介した時差のある生徒への配慮やメンタルケアなどは、今回の非常時に限っての特別な配慮ではありません。

 

北米のボーディングスクールでは、平時と変わらない姿勢で普段以上のアイデアとクリエイティビティをもって目の前にあるニーズに取り組もうとしています。テクノロジーはそのための手段に過ぎないのです。

 

たとえば、コミュニティへの所属意識を高めるため、決まった曜日にスクールカラーの洋服を身に着けてオンライン授業を受けるよう生徒に奨励したり、大学受験を間近に控えた11年生(高2生)を対象に、名門大学へ進学した卒業生と繋げるウェブセミナーを企画したり、といった取り組みが挙げられます。

 

普段から最新テクノロジーの活用に重きを置くボーディングスクールであっても、今回のオンライン授業を開始するにあたっては、年配の先生方への遠隔でのトレーニングも含め、多くの困難があったといいます。

 

ただ、普段からボーディングスクールが重んじているものを世界中に散らばったコミュニティに届けるべく、一丸となってこの難局を乗り越えようとしています。

 

5月末に予定されている卒業式についても、キャンパスでの開催が難しいことを見越し、卒業生、そして彼らを見送る在校生に、今年の卒業式の在り方についてアイデアを募集する学校も出てきています。

 

多くのボーディングスクールが卒業までに生徒に獲得して欲しいと願う資質は“Independency”(独立心・自主性)、“Community-Contribution”(コミュニティへの貢献)、“Self-Advocacy”(自らの意見や感情を言動によって表現すること)ですが、新型コロナウィルス禍でさえ、問題解決を通じて子ども達はそれらを身に付ける機会にしています。

 

 

SAPIX YOZEMI GROUP 海外事業開発部長

Triple Alpha 副会長

髙宮 信乃

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