投資対象としての株式と債券は、そのしくみにさほど大きな違いがあるわけではありませんが、リスクやリターンにはそれぞれ理解しておくべき差があります。ここでは、株式と債券のしくみについて解説します。

社債を起点に株式について考えてみよう

自分の住む地域を応援するために地方債を買う人がいれば、自分の好きな会社を応援するために社債を買いたいという人もいるでしょう。例えば、ホンダのバイクに乗っている人が本田技研工業の社債を購入し、任天堂のゲームのファンが任天堂の社債を購入することで、好きな会社の一助になればと考えるのは当たり前の気持ちです。

 

しかし、問題が一つあります。例えば本田技研工業のウェブサイトを見ても社債を発行している様子がありません。どうやら最後に社債を発行したのは2009年6月で、すでに2012年には償還されてしまっています。せっかくホンダの応援をしたくても本田技研はデット(借金)を必要としていないようなのです。


もちろん企業はおりにふれてお金を必要としますが、社債を発行するよりもつきあいの長い銀行から融資を受けるほうがいろいろな面で都合がよいので、日本では社債の発行はそれほどポピュラーではありません。例にあげた任天堂に至っては無借金経営を標榜していて、もう長いこと社債どころか、銀行からの借り入れもほとんど行っていないようです。

 

このように、社債というものは購入したいと思っても、世の中に出ていないことがよくあります。またソニーのように比較的よく社債を発行している会社であっても、せいぜい1年に1回程度なので、時機を逸してしまうと買えなかったりします。狙った会社の社債をタイミングよく買うのは至難の業といえそうです。

 

もちろん、発行された社債を購入した人が、途中で売却したくなることもありますが、債券の場合は株式のように統一された市場があるわけではないので、売却したい人を探すのも大変ですし、適正な価格で買えるかどうかも分かりません。社債の購入は、投資初心者には困難であるといえるでしょう。

企業への応援としても買える「株」

そこで、通常は特定の企業を応援したいと思った投資家は、社債ではなく株式を購入することになります。

 

株式も発行時に狙いを定めて購入することは難しいのですが、証券取引所という統一市場があって常に売買が盛んに行われているため、好きな企業の株を手に入れることが容易だからです。ましてや、デットである債券は単なる資金の融通ですが、エクイティである株式を購入ることはその会社に本参加することを意味します。

 

本田技研工業の株を買うことは本田技研工業のオーナーの一人になることであり、任天堂の株主になることは任天堂の所有権の一部を持つことに等しいのです。


そのように考えれば、応援したい企業があるのであれば、社債よりも株式を購入したほうがいいことが分かるでしょう。企業の株主になることは、その企業の将来性を見込んで出資することと同じなのですから。

投資対象としてなら、株式と債券の違いは大きくない

とはいえ、基本的には元本が保証されている社債(デット)に対して、株式(エクイティ)は元本保証のない投資です。銀行預金しか経験のない人にはややハードルが高く感じられることでしょう。


しかし、株式と債券とは、リスクとリターンの大小こそあれ、実は投資対象としてはそれほどの違いはありません。株式と債券との最も大きな違いは、債券は満期(返済期限)があるのに対して、株式にはそれがないことです。

 

それでは株式はいつまでたっても元本を取り戻せない投資なのかといえば、そんなことはありません。株式には統一市場があって、買い手さえいればいつでも好きなときに売ることができるからです。

 

一方、債券には統一市場がありませんから、国債以外の債券は、途中で売りたくてもなかなか買い手が見つからないこともあります。努力すれば売れないこともないでしょうが、足元を見られて買いたたかれることだってあります。つまり、債券とは「満期があらかじめ決められている」投資商品で、株式とは「好きなときに売れるし、いつまでも保有できる」投資商品です。

債券と株式の性格を併せ持ったハイブリッド証券も登場

株式や債券の満期の有無という違いは、リターンを考えたときに大きな意味を持ちます。


例えば、安定配当をする鉄道会社の株式のような、毎年1万円の配当金をもらえる株式を100万円で購入することと、金利1%の10年債券を100万円分購入することとは、100万円を投資して毎年の収入が1万円という意味ではまったく等しくなります。

 

このとき、債券の場合は10年後には必ず満期が来て償還されますが、株式の場合はいつまでも持っておくことができます。つまり11年目以降も毎年1万円の収入が得られることになります。もし100年間持ち続けたとしたら、配当金の分だけでも元が取れることになります。


もちろん、債券だって10年目で償還された後に、すぐさま同じような債券を買い直すことはできます。しかし、問題は、その10年後にも同じような債券があるかどうかです。もし現在よりも低金利の時代になっていたとしたら、金利1%の債券なんて存在せず、金利0.5%の債券しか買えないかもしれません。その場合、11年目からの収入は5000円になってしまいます。一方、この仮定における株式における配当金の金額は変化しませんから、いつまでたっても年間1万円の収入があることになります。


もちろん、その逆のパターンもあります。10年後に金利が上昇していて、金利2%の債券に買い替えることができれば、11年目以降の収入は2万円になります。しかし、株式の配当金は変わらず1万円のままです。それでは、やはり債券のほうが有利なのかといえば、そうとも言い切れません。

 

例えば、5年目で金利が2%に上がったとしても、金利上昇時には売却価格が下がってしまいます。ですから10年間は金利1%のままで我慢するしかありません。

 

しかし、株式の場合、より利回りのよい商品があると思えば、いつでも売却して買い替えることが可能です。もし購入時と同じ価格で売却できて、金利2%の債券に買い替えた場合、6年目からの収入は2万円になるでしょう。


どちらが有利、不利ではなく、株式と債券にはそのような違いがあることを理解してください。ただし、最近はローリスク・ローリターンの債券と、ハイリスク・ハイリターンの株式の中間としてミドルリスク・ミドルリターンを狙ったハイブリッド証券というものも登場しています。


ハイブリッド証券とは、基本的には債券のようなデットなのですが、債券のように返済義務がついていなかったり、あるいは発行元が破綻した場合は、返済の優先順位が債券よりも後になるように設定されていたり、信用リスクが高くなっているものをさします。逆に、基本的には株式なのですが、議決権が制限されている代わりに、配当金の高い優先株などもハイブリッド証券の範疇に入ります。


ハイブリッド証券は、債券よりもリスクが高い代わりに、利回りも高いことが特徴です。そのため、ハイブリッド証券を組み込んだ投資信託などがミドルリスク・ミドルリターンの金融商品としてここ最近は急速に人気が出てきています。

本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

インフレ時代の投資入門

インフレ時代の投資入門

杉浦 和也・前野 達志

幻冬舎メディアコンサルティング

仮に今、あなたに1000万円の預金があるとしましょう。安倍内閣が掲げるインフレ目標2%が今後毎年達成された場合、その預金の価値は毎年2%、つまり20万円ずつ目減りしていくことになります。預金の金利はもちろんつきますが、現…

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