あらかじめ返済期限と金利とが決まっている「債券」はデフレ時に有利ですが、インフレリスクのヘッジには適しません。今回は、その理由を詳しく見ていきます。

債券が「元本割れ」となるケースとは・・・

本連載では、株式と債券という二大投資商品について説明してきましたが、筆者があなたに勧めるのはあくまでも株式投資です。なぜならば、債券投資はインフレリスクのヘッジになりにくいからです。

 

債券とは銀行の定期預金と同じように、あらかじめ返済期限と金利とが決められたものです。例えば、銀行の10年定期預金100万円(金利1%)と、個人向け10年日本国債100万円(クーポン1%)とは、10年間に得られる金額が110万円とまったく同じものになります。

 

違いがあるとするならば、中途解約をした場合です。定期預金の場合は、中途で解約すると金利がほとんどつかなくなりますが、元本割れはしません。なぜならば、銀行が定期預金に対してそのようなルールを設定しているからです。定期預金とは、あくまでも銀行とあなたとの1対1の取引になります。

 

一方、債券の場合は、中途解約しても、それまでに得られたインカム収入に変更はありませんが、元本割れする可能性があります。なぜならば、債券とは契約の時点であなたが購入するものであり、中途解約とは満期が来る前に市場で売却することだからです。そして解約時点の市場での売却価格(時価)は、元本よりも低くなっている可能性もあれば、高くなっている可能性もあるのです。

債券は現金や預金と同じ種類の資産と考える

国債という借用証書は、満期になれば額面(元本)が満額返済されることが約束されているのに、なぜそのようなことが起きるのでしょうか。

 

市場価格とは、何度も繰り返してきたように、需要と供給の関係で決まります。もしも日本国債の信用がなくなっていて、たくさん売りに出されていた場合、その価格は下落します。あるいは、そのときの金利が上がっていた場合も、金利の低い昔の国債は人気がなくなって価格が下落します。

 

具体的に見てみましょう。先ほどの10年日本国債100万円(クーポン1%)を、5年経った時点で売却(中途解約)することにします。5年目までに得たインカム収入は5万円です。残りの5年間でさらに5万円の利子がつき、満期には100万円が戻ってくるので、この国債の価値は合計で105万円になります。

 

ところが、売却しようとしたときはインフレが進行していて、国債の金利も2%になっていたとしましょう。新しく5年国債100万円を買えば金利が2%つくのであれば、わざわざ残存期間が5年間の国債100万円(クーポン1%)を額面価格で買ってくれる人はいません。なぜならば、新しい国債のその後5年間の収入は110万円であるのに、この古い国債の5年後のリターンは105万円でしかないからです。

 

そこで、この古い国債をどうしても売却しようと思えば、時価は95万円になってしまいます。95万円で買えば、5年後の利益は10万円(105万円︱95万円)となるので、新しく100万円の国債と買ったときと利益の金額が同じになります。こうして、額面100万円の国債でも、状況によっては95万円でしか売れなくなってしまうのです。

 

国債はインフレリスクをヘッジできるどころか、むしろ現金や預金と同じように、インフレ時には価格が下落してしまうものなのです。逆に、デフレ時には国債の価格は上昇します。先ほどとまったく逆なのですが、もしも5年後に国債の金利が0.5%になっていた場合、その時点で新しい5年国債を買うよりも、金利が1%ついていた昔の国債を市場で購入するほうが有利になります。需要があれば価格は上がりますから、額面よりも高い金額で売却できることでしょう。

 

インフレに弱く、デフレに強いという意味では、債券は現金や預金と同じ種類の資産ということになります。債券のリターンの金額が、銀行の定期預金とよく似ていることを思えば、不思議なことではありません。債券の購入は、デフレ時にはよい資産の保全方法だといえますが、インフレ時にはリスクヘッジにはなりにくいのです。

 

もちろん、途中売却をせずに償還期限まで持ち続けるのであれば国債で損をすることはありません。その意味では、流動性リスクさえとれるのであれば、国債は銀行預金と同じように安全な投資商品であり、なおかつ、リスクのあるぶんだけ、利回りも銀行預金よりは多少はよいものになりえます。

 

流動性リスクだけでなく、信用リスクをとれば、さらに債券の利回りは高くなります。信用リスクとは、企業など債券の発行元が破綻するリスクのことです。債券は、発行元が破綻するとお金が戻ってこない可能性があります。このような信用リスクが高ければ高いほど、利回りのよい債券になるといえるでしょう。

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    本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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