近年では相続税の課税はますます重く、また、これまで許容されていた対策にも規制がかかるなど、非常に厳しいものとなっています。大切な資産を減らすことなく無事に相続を乗り切るには、どのような手段があるのでしょうか。「相続実務士」のもとに寄せられた相談実例をもとにプロフェッショナルが解説します。※本記事は株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

自分亡きあと、相続人となる強欲な妹から妻を守りたい

相続実務士である筆者のところに相談に見えた50代のE本さんは、大学を卒業後、商社に就職し、地方勤務や海外勤務などの経験をお持ちです。30代後半に本社に栄転して以降、実家に戻って両親とE本さんと妻の4人で生活していました。社内結婚した妻は現在専業主婦となり、同居する両親の世話や家事全般をしてくれています。

 

E本家の問題は、わがままに育った妹です。妹は親の反対を押し切り、駆け落ち同然で結婚したものの、子どもが生まれてすぐに離婚。母親らしい生活を送ることなく、子どもを母親やE本さんの妻に預けては好き勝手に出かけることが多く、常にトラブルメーカーでした。

 

 

数年前に父親が亡くなったときは遺言書がなく、母親と妹の3人で分割協議をしましたが、妹は自分の権利の主張ばかりで、住んでもいない実家を欲しがって譲らず、結果、土地は母親、自分、妹の共有名義となっています。

 

E本さん夫婦には子どもがありません。高齢の母親が亡くなれば、E本さんの相続人は妻と妹になります。妹の性格では、必ず財産の請求をしてくると思われるため、妻が妹に対抗できるよう、「自分の全財産は妻に相続させる」という遺言書を残し、妻に苦労をさせないようにしたいと考えています。

 

【財産と家族の状況】

遺言作成者:夫 E本さん 50代 会社役員

推定相続人:妻 50代、妹40代 

遺言作成の理由:自分の財産はすべて妻に残せるようにしたい

 

【遺言がないと困ること】

★子どもがいない夫婦の相続人は、配偶者と親あるいは兄弟姉妹となる

★自分が築いた財産であっても、遺言がないと配偶者が全部を相続できない


また、これまでずっと息子夫婦と同居し、サポートを受けてきた母親は、自分の財産は疎遠になっている妹ではなく、E本さんに相続させたいということで、同時期に公正証書遺言を作成されました。

 

あああ
子どもがいない夫婦の場合、親やきょうだいも相続人になる。

 

 相続実務士からアドバイス 

 

●子どものいない夫婦は、遺言があれば兄弟姉妹と話し合うことなく相続の手続きができる。

●兄弟姉妹には遺留分の請求権がないので、感情的なもめ事には発展しにくい。

●父親の相続で共有になった不動産は、遅くとも母親の相続時に、売却、買い取りなどで共有の解消をしたほうがよい。

 

作成した遺言の内容〈遺言者 E本さん〉

 


 

遺 言 書


遺言者 E本正夫は下記のとおり遺言する。

 

第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産のほか預貯金を含む全財産を、遺言者の妻・由美子に相続させる。

 

【土地】

所在   〇〇〇〇一丁目

地番   〇〇〇〇

地目   宅地

地積   〇〇

遺言者の共有持ち分 4分の1

 

【建物】

所在   〇〇〇〇一丁目

家屋番号 〇〇〇〇

種類   居宅

構造   木造スレート葺2階建

床面積  1階 〇〇

     2階 〇〇

 

第2条 遺言者は、本遺言の執行者として、妻・由美子を指定する。

2 遺言執行者は、不動産の名義変更等、本遺言を執行するために必要な一切の権限を有する。

3 遺言執行者が任務遂行に関して必要と認めたときは、第三者にその任務を行わせることができる。

 

付言事項

妻由美子には、私の両親や姪に至るまで面倒を見てもらい、心から感謝している

 

令和〇〇年〇月〇日
〇〇市〇〇町〇〇
遺言者 E本正夫

 


同居してくれた「後妻との間の娘」に自宅を残したい

N田さんは最初の妻との間に2人の娘に恵まれましたが、子どもたちがまだ幼い頃、妻が病死してしまいました。その後再婚し、もう1人娘に恵まれました。娘は3人とも嫁いで家を離れましたが、4年前に後妻が体調を崩したころから、後妻の娘・真由美が実家に戻って介護してくれるようになりました。その後、後妻は亡くなってしまいましたが、真由美が離婚し、孫を連れてN田姓に戻ってくれたため、N田さんは頼りにするようになりました。

 

 

N田さんは3人とも平等にしてきたと思っていましたが、先妻の子である2人の娘たちからは、後妻の子ばかりかわいがってきたという発言があり、娘たちだけになると相続でもめるのではないかと不安に思いはじめました。

 

【財産と家族の状況】

遺言作成者:父 N田博さん 80代

推定相続人:後妻との子…長女 真由美 40代

 先妻との子…長女 50代、二女 50代

遺言作成の理由:面倒を見てくれた後妻の子に少し多めに財産を残してあげたい

 

【遺言がないと困ること】

★先妻の子を含め等分に相続権が発生してしまう

★相続させる財産を特定しておかないと、後妻の子に自宅を確実に残せない可能性がある

★遺産分割協議が必要となり、感情的な対立を招きかねない

 

N田さんの財産は自宅と隣接するアパート、預貯金です。3人の娘に財産を等分に残したい気持ちはありますが、同居して妻亡き後も面倒を看てくれた真由美に自宅を相続させ、祭祀継承をしてもらいたいと思っています。そうなると、残るはアパート1棟しかないため、先妻の子2人にはそれを2分の1ずつ相続させるようにすれば、遺留分に抵触することはありません。自宅よりも少なくなりますが、それで遜色はないと考えました。

 

計算してもらうと、小規模宅地等の特例を生かすと相続税はかからないため、預貯金も家を継承する真由美に相続させるようにしました。

 

相続実務士からアドバイス 

 

●相続させる財産を明確にしておくことで、後妻の子に確実に自宅を残すことができる

●先妻の子には遺留分に配慮した財産を指定することで、遺留分侵害額請求を未然に防ぐ

●当人同士の遺産分割協議では、感情的な対立を生んでしまうことが多い点に注意

 

作成した遺言の内容〈遺言者 N田さん〉

 


 

遺 言 書

 

遺言者 N田博は下記のとおり遺言する。

第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、遺言者の長女真由美に相続させる。

【土地】

所在   〇〇〇〇一丁目

地番   〇〇〇〇

地目   宅地

地積   〇〇

 

【建物】

所在   〇〇〇〇一丁目

家屋番号 〇〇〇〇

種類        居宅

構造   木造瓦葺2階建

床面積  1階 〇〇

     2階 〇〇

 

遺言者は、遺言者の有する下記不動産を遺言者と前妻○○との間の長女○○及び同二女○○に等分の割合で相続させる。

 

【土地】

所在   〇〇〇〇一丁目

地番   〇〇〇〇地目     

地目   宅地

地積   〇〇

 

【建物】

所在   〇〇〇〇一丁目

家屋番号 〇〇〇〇

種類   共同住宅

構造   軽量鉄骨造スレート葺2階建

床面積  1階 〇〇

     2階 〇〇

 

第2条 遺言者は、遺言者の有する現金・預貯金等の金融資産から遺言者の未払い債務、葬儀費用等を控除した残余の金融資産を、長女真由美に相続させる。

 

第3条 遺言者は、遺言者の有する第1条から第3条までに記載した財産以外の動産等の財産全部を、長女真由美に相続させる。

 

第4条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、長女真由美を指定する。

 

第5条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長女真由美を指定する。

1 遺言執行者は、不動産の名義変更、預貯金等金融資産の解約、払戻し等、本遺言を実現するために必要な一切の権限を有する。

 

付言事項

妻亡き後、長女真由美は献身的に面倒を看てくれたことに感謝し、自宅や祭祀継承は真由美に託すことにしました。○○と○○は状況を理解しているはずで、アパートを等分に相続することで納得してもらいたい。私亡き後は3人で協力して姪に至るまで面倒を見てもらい、心から感謝している

 

令和〇〇年〇月〇日
〇〇市〇〇町〇〇
遺言者 N田 博

 


 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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