兄嫁に父の通帳を預け、後悔…使い込まれる前に取り戻したい

近年では相続税の課税はますます重く、また、これまで許容されていた対策にも規制がかかるなど、非常に厳しいものとなっています。大切な資産を減らすことなく無事に相続を乗り切るには、どのような手段があるのでしょうか。「相続実務士」のもとに寄せられた相談実例をもとにプロフェッショナルが解説します。※本記事は株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

兄亡きあと、相談者の実家でひとり暮らしする兄嫁

筆者のもとに相談に来られたAさんは、60代の女性です。実家の父親の相続をどうすればいいか、というのが主な内容でした。Aさんの母親は3年前に亡くなっており、兄は母親よりも前に亡くなっていて、父親の相続人となるのは、Aさんと亡兄の2人の子どもです。

 

 

兄家族は両親と同居してきたため、兄が亡くなったあとも兄嫁と子どもたちは一緒に住んでいました。その後、兄の子どもたちは仕事や結婚を機に家を離れてしまい、現在では、父親も体調を崩して入院し、そのまま介護施設に入所してしまったため、実家は兄嫁がひとり暮らしとなっています。

 

◆「実家は兄家族が相続」で納得しているものの…

 

Aさんは結婚して実家を離れており、車で3時間ほどかかる場所に住んでいます。両親が元気なときでも、なかなか実家には行けなかったため、長男家族が同居してくれることをありがたいと思っていました。

 

残念ながら、兄は若くして病死してしまいましたが、実家で育った甥が実家を継いでくれるという暗黙の了解もあり、Aさん自身も、実家は兄家族のものでよいと思ってきました。

 

◆すぐに駆けつけられない…兄嫁に預けた「父の通帳」

 

Aさんの父親が入院するとき、通帳はAさんに預けたいとの希望を口にしました。それまでは父親自身で管理してきたため、同居する兄嫁であっても、預けるつもりはなかったようなのです。

 

しかしAさんの自宅は、実家へ行くにも、入院先の病院に行くにも車で3時間かかります。そのため、何かあってもすぐに駆けつけることができないかもしれないと思い、Aさんのほうから兄嫁に父親の通帳を預けてしまったのでした。

 

◆通帳を預けた途端、兄嫁は預金を使いたい放題に…

 

父親の財産は、相続評価500万円の自宅と預金700万円です。兄嫁は父親の通帳を預かったことを利用して、実家の屋根の修理や塗装などを依頼し、あっという間に200万円が使われました。

 

事前に相談や報告はなく、数ヵ月ぶりに実家に寄ってみたところ、工事業者が入っていて、修繕工事が行われたことを知ったのでした。

 

支払いはどうするのかと聞くと、父親の預金からすでに払ったと平然といわれ、はじめてAさんは父親の通帳を預けたことを後悔しました。

 

亡兄の子が実家を相続し、兄嫁が住み続けることに異論はありません。それだけにAさんは、自分は預金を相続したいと考えています。それがどんどん使われてしまえば、残らないかもしれないと思いはじめました。

 

このような場合、一体どうすればいいのでしょうか。

 

あああ
父親の預金通帳を兄嫁に預けたばっかりに…。

 

 まず通帳を取り戻し、父親に遺言書作成の依頼を 

 

父親の意思で通帳を兄嫁に預けたのではありませんので、筆者からは、「いったん父親に通帳と印鑑を見せる」などの理由をつけ、すぐにでも兄嫁から戻してもらうようアドバイスしました。

 

これ以上父親の施設の費用以外のことに使われてしまうと、預金がどんどん目減りしてしまい、最悪底をついても不思議はありません。

 

幸い、Aさんの父親はまだ認知症ではないということでしたので、すぐにでも遺言書を書いてもらうこともおすすめしました。

 

そのうえで、預金が父親以外の用途で減らないように管理しながら、残りはAさんが相続できるよう、遺言書に明記してもらえれば、不安は解消できるでしょう。

 

●できる対策

父親の預金通帳や印鑑を兄嫁から戻してもらう。
父親に遺言書を作成してもらう。
預金はAさんに、家は甥にと指定してもらう。

●注意すべきポイント

預金通帳やキャッシュカードなどを預かった人が勝手にお金を引き出すことがないよう注意する、情報共有するなどの方策が必要。

面倒を見ている同居の母から「贈与」を受けられるか

50代の女性、Bさんは二世帯住宅で母親と暮らしています。1階が母親の自宅で、2階がBさん家族の自宅となっています。

 

二世帯住宅は父親が元気な頃、父親の土地に、Bさんの兄がローンを組んで建てたものです。ところが完成後ほどなく、兄は仕事の都合で遠くへ転勤となり、2階が空き家になってしまったため、両親の老後を考え、娘のBさんが住んだ方が安心ということになり、夫婦で同居をはじめたのです。

 

◆兄が建てた二世帯住宅に、家賃を払って暮らす妹家族

 

父親は8年前に亡くなり、自宅の土地は母親と兄が半分ずつ相続することで手続きされました。兄がすべて段取りしたため、Bさんはいわれるままに印を押した覚えがありますが、あまり記憶が明確ではなく、そのまま現在に至ります。

 

建物が兄名義でローンの返済もあるため、Bさんは兄に毎月家賃を払っています。兄家族は仕事の関係で当分の間、実家に戻る予定が立たないといいます。

 

母親も80代後半にさしかかり、いつ相続が発生するかわかりません。そうならないうちに不安を解消しておきたいと、Bさんはおひとりで相談に来られたのです。

 

◆母親の介護は娘である自分が、母親は財産を娘へ

 

「父親が亡くなったときは母親も元気だったので、とくに父親の介護の不安はなかったのですが…。80代後半の母親はとても元気ですけれど、これから介護が必要になるかもしれません」

 

Bさんは心配そうにおっしゃいました。

 

母親の介護を担当するのは同居しているBさんになるので、母親も頼りにしてくれていて、ご自分の財産はBさんに渡すといってくれているそうです。

 

 

「私の母親の財産は、土地のほかに預金が1000万円ほどです。でも、これからの生活や老後資金に充てる予定ですし、残らないと思います」

 

◆「相続時精算課税制度」の活用を検討

 

筆者からは、母親に遺言書を書いてもらい、亡くなったときに相続するということもできると提案しましたが、相続になると兄の意見が強くなるかもしれず、遺言書があっても不安だとBさんはいいます。

 

もっとも、母親は相続になる前に贈与してもいいといってくれているそうですが、Bさんは、高額な贈与税の発生を懸念されていました。

 

Bさんがお住まいの土地の評価は約2000万円で、半分の1000万円が母親名義です。贈与税は約170万円になります。しかし、「相続時精算課税制度」を利用すれば、2500万円までの贈与でなら贈与税は課税されず、相続時に相続税で納税することになります。財産が基礎控除以内であれば相続税もかからないので、結果、贈与税も相続税もかからず財産をもらえるということです。

 

  贈与の手続きが終わったあと、母親から兄に伝えてもらう 

 

贈与の手続きにかかるのは、名義替えの費用と、あとで課税される不動産取得税です。相続よりは割高になりますが、Bさんは、それよりも不安をなくしておきたということでしたので「すぐに母親に説明して、必要な書類を揃えます」といってお帰りになりました。

 

Bさんの兄には、贈与の手続きが終わってから母親から伝えておいてもらうようアドバイスしました。母親の意思を伝えてもらうと余計な争いにはなりにくいからです。

 

●できる対策

土地に関して母親から贈与を受ける。
贈与契約書を作成、司法書士の意思確認もする。
相続時精算課税制度を利用して、贈与税は納税なしを選択。
翌年、税務署に申告をしておく。

●注意すべきポイント

兄と感情的な争いにならないよう、母親から贈与の意思を伝えてもらう。
預金などのほかの財産については、生活費や老後資金に充て、残りを子ども2人で分ける等の遺言書を作ってもらうと、争いになりにくい。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 
相続対策専門士

京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。著書50冊累計38万部、TV・ラジオ102回、新聞・雑誌420回、セミナー500回を数える。近著に『いちばんわかりやすい 相続・贈与の本'18~'19年版』(成美堂出版)、『増補改訂版 図説 大切な人が亡くなったあとの届け出・手続き』(宝島社)ほか多数。

著者紹介

連載相続実務士発!みんなが悩んでいる「相続問題」の実例

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