立地の悪さが原因なら高齢者向け住宅への転用が有効
前回の続きです。こうして、周囲の状況を見ながら解決策を検討した結果、空室に悩んでいたアパートはリノベーションを行ったうえで高齢者住宅に転用、賃貸することになりました。
リノベーションには費用がかかりますが、高齢者向けの住宅は介護事業者が運営し、地域密着の経営形態をとることが多いため、一度軌道に乗れば移転することはほとんどありません。長期に借り続けてもらえることが期待できるので、経営面で考えれば安定した収益が見込めます。
また、一般の賃貸住宅と違い、駅や幹線道路、商業施設に近いなどといった利便性を求められることがないので、住宅としては不利な立地でも経営は十分成り立ちます。
立地面の不利から空室が続く物件であれば、高齢者向け住宅への転用は有効な手段のひとつです。
現在の社会、地域のニーズにこたえる高齢者住宅のような施設を提供することは社会貢献にもなります。長らく地域で活躍してきた経営者の方であれば、そうした視点はお持ちのはずですから、非常に親和性の高いビジネスだといえます。
Eさんも、社会の役に立つ施設に転用できたことを満足に思っていらっしゃるとのこと。単に儲けようというだけでなく、社会に役立つことをビジネスにするほうが、経営者としても楽しいはずですし、それが生きがいとなることもあります。可能であれば、社会的にも意義のある仕事という観点も必要かもしれません。
攻めの姿勢で資産を増やしたことが奏功
さらにこのケースでは都心にも良質な収益物件を購入しました。既存物件に加え、タイプの違う2物件を所有することで、安定した収益を上げられるようになりました。これらのソリューションによって相続財産の質は大きく改善されました。
ソリューション前の経常利益は前回説明した通りゼロでした。それが物件をリノベーションしたことによる介護施設への転用、賃貸と、都心物件を購入したことで、賃貸で500万円の経常利益が上がるようになっています。
そのために要した支出ですが、リノベーションには2000万円をかけており、そこから上がる賃料収入は年に1500万円。以前、住宅で貸していた時の賃料が600万円でしたから、大幅に収益は改善されています。
都心物件購入には土地、建物にそれぞれ1億円で計2億円かかりました。これを賃貸して賃料収入は年間1600万円で利回りは8%です。
つまり、賃貸収入の合計で売上高は3100万円に増えており、経常利益はマイナスからの500万円になっています。
MSRで見ても収益度をトップに安全度、安心度ともに改善されていることが分かります。残念ながら、財産の大半が不動産となっているため、換価度での改善はありませんが、その分のマイナスは収益度の向上が補ってくれるはずです。
[図表1]MSRの改善
[図表2]バランスシートで見る改善点
また、収益が改善しただけではなく、相続対策としても大きな効果をもたらしてもいます。ソリューション前の試算では、実子2人が相続した場合の相続税は6080万円になっていましたが、対策後は4360万円にまで圧縮されることになりました。結果的に1720万円の節税につながりました。
ここで功を奏したのは、新しく購入した不動産のためのローンやリノベーション費用、その他の出費が増えたことです。
ソリューションの前後を比べてみると、収益は以前より上がっていますが、そのための投資を行っている分がマイナスとなっているのです。攻めの姿勢で資産を増やしたことが、節税にもつながっているわけです。
一般に節税という言葉からは、現在ある財産を守る「守勢」がイメージされます。しかし場合によっては、資産を増やすことが守りになるケースもあります。もちろん、うかつに攻めて失敗しては元も子もありませんから、十分に検討したうえでの攻めである必要があるのは当然です。
地域ニーズに合った対策をすることが重要に
都心の駅周辺と地方では、住む人も年齢層も異なります。不動産活用をしようと、やみくもに地方に単身用アパートを建てても収益は見込めません。その土地にはどんな人が多いのか、家族住まいが多いのか、単身者が多いのか、高齢者が多いのかをよく調査し、対策が必要です。
都心であれば、デザイナーズマンションやシェアハウスなど、若い単身世帯を狙った方法でもよいでしょう。今回は地方の土地ということから、単身者や家族向けの物件ではなく、「高齢者住宅」へ思い切ってシフトし、成功しました。
またこの事例のように、1つの企業や大学の近くの物件の場合、その企業や大学が撤退してしまうと、一気に空室が増える可能性があります。入居者を限定しすぎることなく、ニーズに合った不動産の活用が重要です。
やはり、自分だけで判断せず、専門家の力を借りながら優良な資産をつくっていくことをおすすめします。