「資金対策」「争続対策」も併せて行うことが必須
前回の続きです。相続の際には、相続税対策だけではなく納税やその他の資金対策もしっかりしておくことです。
前回紹介した事例では、思わぬ葬式や登記の費用、贈与税が発生してしまいました。過大な税金が発生しないように対策するのももちろんですが、かかる税金・費用をきちんと賄える現金を確保しておくことが重要です。
生命保険の金額や土地活用などを、必要に迫られてから計算していたのでは遅すぎます。生命保険の内容確認や年末の控除のタイミングなどで、年ごとに精査する習慣をつけるとよいでしょう。
また兄弟姉妹が2人以上いる場合は、争続対策も万全にすべきです。「兄弟仲がよいから心配ない」「自分のいうことは聞いてくれるだろう」などという思い込みは禁物です。あらかじめ資産を分配できるようにしたり、遺言を作成するなど、前もっての準備は必須です。
どんなトラブルが起こるか分かりませんから、家一軒持っているだけ、と思っていても対策は考えておきましょう。今回のように身内に判断能力がない場合は、準備しておいて損はありません。
納税資金の予測とも大きく関わりますが、所有する不動産の内容をきちんと把握しておく必要もありました。もし、財産目録をつくり、そこから相続税納付の金額を試算する作業をしていれば、Fさんが地代を支払っておらず、評価減を受けられないことにも気づいたでしょう。
そして、もしその時点で気づけていれば、相当の地代を支払うことで、評価減が使えるようにもできたはずです。知識不足、準備不足が大きな税負担につながってしまったというわけです。
「知らなかった」では済まされない・・・
もうひとつ、成年後見人の問題ですが、これについては相続税を申告する前に裁判所に遺産分割協議の内容について相談をしておけば、ここまでの事態には発展しなかったと思われます。事前に確認が行われていれば、分割終了後に裁判所が口を挟むことはなかったでしょう。
そうすれば、相続終了後に贈与という形でHさんに土地を分けることはしなくても済んだはずです。もちろん、贈与税も不要ですから土地を売る必要もなく、資産の散逸は防げたでしょう。
ほんの少し確認作業を怠ったことが、大きな損失につながってしまったのです。
相続が起こってから行動に移すのでは失敗する・・・。この事例は、先手を打った対策の必要性を物語っています。土地の評価や法改正など、相続を巡る状況は年ごとに変化します。また、家族状況も変化するでしょうから、確定申告のような感覚で、毎年確認をしておくことをおすすめしています。
もし、資金の用意、評価減が利用できる状況設定、裁判所との事前協議が行われていれば、ゼロだった税対策度は大きくアップ、安心して相続に臨めたと思われます。
このケースでは納税資金の準備は必要でしたが、それさえできていれば兄弟間の仲もよく、経営上に取り立てて大きな問題もありませんでした。本来、資産の切り売りに至るまでの相続ではなかったはずです。
「知らなかった」で済まされないのが相続の怖いところです。十分注意して備えていきましょう。