従来のがん検診は身体的にも時間的にも負担が大きく、なかなか気軽に受けられるものではありませんでした。しかし近年、負担のすくない検査方法が登場。オタク気質の医師が実際に受診してみました。第一線の医師による渾身のレポート! 本記事は『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎MC)から一部を引用し、内科医である永野正史氏の自ら体をはった検証と、医学的な根拠を解説します。

少量の血液でがんの有無がわかる検査がある?

●世界初の技術、高い精度でがんの有無を判定する「マイクロアレイ血液検査」

 

がんはいうまでもなく日本人の死因の第1位です。がんの中でも特に日本人に多いのは、大腸がん、胃がん、肺がん、男性では前立腺がん、女性では乳がんと子宮がんです。したがって、少なくとも日本人に多く発生しているがんについては定期的に検診を受けることが望ましいといえます。しかし、現実にはそれぞれの検査を受けるとなると、時間的にも身体的にも負担が大きくなって大変です。

 

そこで、近年開発されたのが、少量の血液から一度に数種類のがんの有無を調べられる「マイクロアレイ血液検査」です。

 

この検査は、がんに対する体の反応を遺伝子レベルで測定するもので、金沢大学大学院医学部が開発した世界でも注目されている最新の技術によるものです。

 

がん細胞が発生すると、体内では免疫細胞が働いて排除しようとしますが、免疫細胞が活動するときにはⅿRNAという遺伝物質が作られます。遺伝物質は数万種類見つかっており、そのうち数千種類はがん細胞があるときに特定のパターンで発現することが明らかになっています。つまり、がん細胞特有のⅿRNAが発現するので、これを利用して血液からⅿRNAを抽出し、反応パターンからがんの有無を判定することができるのです。

 

2020年1月現在、対象となっているのは胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がんの4種類ですが、がんの有無についての感度・特異度は90%を超えており、高い精度で判別できるといわれています。

 

がんに対する体の反応を遺伝子レベルで測定し、高精度の判定を下す
がんに対する体の反応を遺伝子レベルで測定し、高精度の判定を下す

 

●近い将来、13種類のがんを一度に判定できるように

 

私がマイクロアレイ血液検査を受けたのは、膵臓がんの有無が分かるからでした。膵臓がんは本当に発見が難しく、大学病院で半年前にCT検査を受けても見つからなかった人がいました。しかも、進行が早く、半年後に見つかったときには、進行がんで手の施しようがない状態でした。

 

このようなこともあって検査をしたいと思ったのです。その結果、4種類ともにがんは見つかりませんでした。

 

一般には血液を使ったがん検査というと、腫瘍マーカーが知られています。これは、がん細胞が作り出すタンパク質などを測定することで、がんの有無を診断します。前立腺がんの指標となっているPSAの検査は有効ですが、ほかのがんに関しては腫瘍マーカー単独でがんを診断するのは難しいとされています。そのため、がん診断の補助的な検査や治療後の経過観察の検査として使用されているのが現状です。

 

それを考えると、血液検査でがんの有無を調べられるのは画期的なことです。実は、国立がんセンターでも開発が進められており、こちらは肺がん、乳がんや卵巣がんなど13種類のがんを一度に判定できるとして期待が高まっています。

 

少量の血液でがんの有無が分かる検査がある?
→ホント

 

習慣にしよう!

●膵臓がんが心配な人、忙しい人や家族にがん患者がいる人は血液検査を活用してみましょう。今は費用も高く、消化器がんの4種類ですが血液検査のみで済みます。

 

 コラム  血液検査でいろいろなことが分かる理由

 

血液の色は赤いはずなのに、採血した血液が黒っぽく見えるのはどうしてでしょう? そもそも血液が赤いのは、ヘモグロビンという鉄を主成分とした色素を赤血球が含んでいるからです。ヘモグロビンは酸素と結びつくとより鮮やかな赤色になり、酸素を放出すると黒っぽくなる特徴があります。したがって、全身の組織に酸素が豊富な血液を届けている動脈血は赤く、組織に酸素を運び終えて心臓に戻る途中の静脈血は黒っぽいのです。

 

つまり、採血では静脈血を採っているわけです。その理由は、全身の臓器を回って不要な老廃物や二酸化炭素を回収している静脈血には、各臓器のさまざまな情報が詰まっているからです。そのため、静脈血を調べることで、全身の臓器の健康状態を知る手がかりになるのです。

内視鏡不要の「バーチャル大腸内視鏡検査」がある?

●CT画像から3D画像を作成して大腸内を観察

 

大腸がん検診の第一歩は「便潜血検査」です。いわゆる「検便」のことですが、痔のときにも便に血が混じるため、大腸がんかどうかの判断は難しいのが現状です。

 

実際に、「ただの痔だから大丈夫」と言い張り、検査を受けない患者さんがいました。しかし、直腸がんの可能性があるため無理やり大腸内視鏡検査を受けていただくと、やはり直腸がんだったのです。しかも進行がんで、内視鏡を入れなくても分かる状態でした。すぐに大学病院を紹介して手術を受け、元気に回復し活躍しています。

 

私も便秘を解消するまでは、たまに痔が出て便に血が混じっていたことがあります。「これは痔だろう」と思いつつ、やはり大腸がんが心配でした。そこで、以前から興味のあった最新の検査である「バーチャル大腸内視鏡検査」を、良い機会なので試してみようと思ったのです。

 

大腸内視鏡検査は通常、肛門から内視鏡を入れて腸の中を観察します。大腸の中を直接、しかも拡大して見られるので小さな病変も発見できるうえ、ポリープなどの病変があったときは、その場で組織を採取して顕微鏡検査に回せるのが大きなメリットです。つまり、検査と治療を同時に行えるわけです。

 

大腸がんを早期に発見するには実に有効な検査ですが、内視鏡を肛門から入れることと、1メートルほどのファイバースコープを大腸に挿入するので、人によっては恥ずかしいとか、苦痛を感じることがあります。特に女性は敬遠しがちで、それが大腸がんの発見を遅らせる一因にもなっています。

 

これに対してバーチャル大腸内視鏡検査は、肛門から炭酸ガスを注入して大腸を膨らませたあと、内視鏡は使わずに最新のマルチスライスCT撮影をします。これで得られたデータをもとに、あたかも内視鏡を入れたかのようなバーチャル画像を作成し、大腸の中を観察するというものです。

 

憩室(大腸壁にできた袋)があることがよく分かる
[図表]バーチャル大腸内視鏡の画像 憩室(大腸壁にできた袋)があることがよく分かる

 

●病変を見つけても即手術はできないが、身体に負担がかからないというメリット

 

ただ、画像からはポリープなのか便が残っているのかが判別しにくいことがあり、ポリープだったとしてもCT画像のため、その場で取ることはできません。結局、大腸内視鏡検査を行うことになるので、病変が見つかった場合は二度手間になってしまいます。

 

しかし、体験してみると非常にラクなうえ、出てきた画像のリアルさに驚きました。なにより、便潜血では痔と区別できませんが、バーチャルとはいえCT撮影しているので痔とはっきり区別ができ、進行がんになると、ほぼ判断がつくとされています。

 

また、開腹手術をした経験のある人は、腸が癒着していることが多いため、大腸内視鏡検査を受けるとファイバーが通りにくく、苦痛を感じる人が少なくありません。こういう人にも、苦痛のないバーチャル大腸内視鏡検査はお勧めです。

 

内視鏡不要の「バーチャル大腸内視鏡検査」がある?
→ホント

 

習慣にしよう!

●いきなり大腸内視鏡検査を受けることに抵抗のある人や痔で便潜血検査に引っ掛かった人は、バーチャル大腸内視鏡検査を試してみるとよいでしょう。大腸がんと見極めるのには効果的です。

 

 

永野 正史
練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医

 

110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

永野 正史

幻冬舎メディアコンサルティング

その健康法は本当に正しい?巷でよく聞く健康法の“真偽"を61歳内科医が自らの体を張って検証! 血圧は運動後に上がらない!?肉の食べ過ぎは血糖値には関係しない!?…etc.「健康で長生き」が多くの人にとって関心の高い…

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