巷間にあふれる健康情報。民間伝承的なものからテレビ等で話題となった比較的新しいものまでさまざまですが、実際の効果・信ぴょう性はどうなのでしょうか。オタク気質の医師が、体を張って挑戦・結果を分析します。第一線の医師による渾身のレポート!※本記事は『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎MC)から一部を抜粋・再編集したものです。

「寝酒を飲むと熟睡できる」というのは本当か?

●眠る前に「缶ビール1本」を飲み、記録を取ってみた

 

寝る前に飲酒をすると、「よく眠れる」と考える人は多いと思います。特に日本人は世界的に見ても寝酒をする割合の多いことが、睡眠に関連する行動調査※1でも分かっています。どうやら日本には「寝酒神話」が根強く残っているようです。

 

そこで、寝酒をするとよく眠れるのかを確かめてみることにしました。寝酒ですから缶ビールを1本程度とし、飲んだ日と飲まなかった日の脈拍や体調などをチェックしました。

 

すると、確かにアルコールを飲むと寝つきは良くなります。スーッと眠りに落ちたのですが、数時間後には目が覚めてしまいました。それ以降もウトウトする程度で眠りは浅く、すぐに目が覚める状態が朝まで続くこととなったのです。

 

アルコールには利尿作用があり、睡眠中の尿の量を増やすので尿意を催して目が覚め、睡眠が途切れ途切れになったのも原因の一つと考えられます。

 

また、脈拍も本来は下がるはずなのに、ビールを飲んだ日は下がり切ることはありませんでした。これは、深い眠りを得られていないことを意味しており、実際に翌朝は体がだるく、前日の疲れが十分に取れていませんでした。つまり、寝る前の飲酒は睡眠の質を大幅に低下させてしまうのです。

 

※1 「眠れないときにどうするか」の各国比較。10ヵ国、3万5,327人を対象にしたSLEEP(SLEep Epidemiological)Survey のデータから。(提供:三島和夫)

 

●「百薬の長」のはずが、少量でも発がんリスクに

 

昔から「酒は百薬の長」というくらいなので、少量なら良いのではないかと思う人もいるでしょう。実際に、「アルコールが動脈硬化の進行を防ぎ、脳梗塞や心筋梗塞などの循環器疾患の発症リスクを下げる」とする研究結果が、過去には発表されています。

 

このほかにも血管を拡張して血流を良くするとか、リラックス効果があるなど、さまざまな発表がされてきました。ところが、それらの説を覆す信頼性の高い論文が2018年8月に医学雑誌『ランセット』に発表※2されたのです。

 

それによると、健康リスクを最小化する飲酒量に関して、最も信頼のおける値は1日0杯という結果。心筋梗塞に関しては、少量の飲酒をしている人ほどリスクが低く、ある程度以上になるとリスクが高くなるのが分かりました。しかし、女性では少量でも乳がんのリスクが上がり、男性では口腔がんのリスクが上がっていました。

 

医療の分野には絶対はなく、「今日の常識が明日の非常識」ともいわれています。ですから論文一つで判断はできませんが、世界的権威のある雑誌なだけに波紋を広げています。

 

しかも、アルコールを飲むと寝汗をかきやすくなることで体は脱水状態となり、血液が固まりやすくもなります。これにより血管が詰まる恐れがあり、睡眠中の脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めることにもつながります。

 

私の実験でも寝酒は睡眠の質を低下させる結果が出ているので、アルコールに頼らず、生活習慣を改善することで良い睡眠を確保することをお勧めします。

 

※2 GBD 2016 Alcohol Collaborators[2018]

 

寝る前の一杯は健康に良い!?

→ ウソ

 

習慣にしよう!

●寝酒の習慣はやめましょう。夜中に何度も目が覚め、記憶や学習にとって大事なレム睡眠を妨げることとなります。日中のパフォーマンスが低下するなど、仕事や勉強にも悪影響となりデメリットのほうが多いと考えられます。

 

睡眠に悩みを抱える人は多い
睡眠に悩みを抱える人は多い

「いびきは熟睡の証拠」というのは本当か?

●家族に「いびきがうるさい!」といわれた自分が検査を受けてみた

 

「いびきをかくのは熟睡している証」という人がいますが、いびきで目が覚めるということは睡眠が浅くなり、決して熟睡できていないと思われます。

 

ちょうど私がクリニックを開業して忙しく、出前で食事を済ませていたことでメタボになった頃は、いびきをかいており、よく自分のいびきで目が覚めていました。そんなある日、家族からは「いびきをかいていると思ったら突然、静かになって呼吸が止まっていた」と指摘されたのです。

 

その時期、新幹線の運転手が睡眠時無呼吸症候群が原因と思われる居眠り運転で、オーバーランをした事故が起こりました。

 

この事故で私自身も不安になり、睡眠時無呼吸症候群の程度を調べる「終夜ポリグラフィー」という検査を受けたのです。この検査は、指に酸素飽和度を調べる器具を付け、鼻には酸素チューブを付けて呼吸をしているかどうかを気流で確認するというもの。これを一晩中測ることで、睡眠時無呼吸症候群の重症度が分かります。

 

その結果、私は中等度の睡眠時無呼吸症候群であることが判明しました。治療の必要があるので、CPAP(シーパップ)という酸素マスクのようなものを睡眠中に装着し、酸素を無理やり気道に送り続けることで、呼吸が止まるのを防ぐ治療を続けていました。これを、痩せるまでずっと着けて寝ることとなったのです。

 

この検査では、睡眠時の無呼吸低呼吸指数は20.0回/時だった
[図表1]終夜ポリグラフィー検査のデータ この検査では、睡眠時の無呼吸低呼吸指数は20.0回/時だった

 

●いびき=狭くなった軌道を無理やり空気が通るときの摩擦音

 

睡眠時無呼吸症候群は文字通り、睡眠中に呼吸が止まる病気で、その原因のほとんどが肥満です。いびきは、空気の通り道である気道が何らかの理由で狭くなり、そこを空気が無理やり通るときに空気抵抗が大きくなることで生じる摩擦音です。

 

太っていると、喉の周囲にも脂肪がつくために気道が狭くなります。ですから太っている人はいびきをかきやすく、睡眠時無呼吸症候群にもなりやすいわけです。なかには顎が小さくて気道も狭くなり、いびきをかきやすくなるなどが原因の場合もあります。

 

[図表2]睡眠時無呼吸症候群でいびきをかく仕組み

 

呼吸が止まるということは、その間は体に酸素が供給されないことを意味します。試しに30秒、息を止めてみてください。息苦しくて、30秒を待たずに息を吸い込んだことでしょう。これが寝ている間に起こっていると思うと怖くなります。このとき、血液中に含まれる酸素量(酸素飽和度)は通常98~100%のところ、90%程度になっています。

 

睡眠時無呼吸症候群が怖いのは、先の例のように十分な睡眠がとれないので日中に眠気を催してしまうところです。車の運転中に起これば、交通事故につながる危険があります。

 

その後、私自身はダイエットで20Kg量に成功し、さらにマラソンをするようになってメタボを卒業したことで、いびきもかかなくなり、睡眠時無呼吸症候群も治りました。

 

いびきは熟睡の証!?
→ウソ


 

習慣にしよう!

●いびきをかき、日中に強い眠気に襲われる人は、睡眠時無呼吸症候群を疑いましょう。肥満の人は減量をし、痩せている人は検査をして原因を知り、いびきの改善が急務です。

 

 

 コラム  夜中に目が覚めてしまい、睡眠不足というけれど…

 

高齢者に多いことですが、いつも夜中の2時、3時に目が覚めてしまって寝不足なので、朝まで眠れるように睡眠薬を処方してほしいと訴えます。

 

ところが、よくよく話を聞くと、寝るのが夜の9時だというのです。つまり、5~6時間は寝ていることになります。しかも、3時に目が覚めるので、睡眠薬を飲んで再び寝て、起きるのが9時といいます。つまり、トータルで12時間も寝ていることになるのです。

 

これでは睡眠不足どころか寝過ぎです。そこで私が、「寝る時間を遅くして10時、11時にしてはどうですか」と提案すると、「そんなに遅くまで起きていても、何もやることがない」というのです。長生きするには、何をやるのか準備しておくことも必要と痛感しました。

 

永野 正史
練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医

 

110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

永野 正史

幻冬舎メディアコンサルティング

その健康法は本当に正しい?巷でよく聞く健康法の“真偽"を61歳内科医が自らの体を張って検証! 血圧は運動後に上がらない!?肉の食べ過ぎは血糖値には関係しない!?…etc.「健康で長生き」が多くの人にとって関心の高い…

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