ピロリ菌を除去したら胃がんのリスクはなくなる?
●日常的に存在するピロリ菌…除去しても再感染する可能性
胃潰瘍や胃炎、胃がんの原因の多くは、胃の粘膜に生息しているヘリコバクター・ピロリ菌とされています。しかし、ピロリ菌は特殊な菌ではなく、私たちの身の周りに存在しているありふれた菌なのです。
昔は井戸水を使用していた家庭が多く、井戸水にピロリ菌が生息していたため、その水を日常的に飲んでいた筆者の年齢(61歳)より上の人たちは、ピロリ菌に感染している可能性が高いといわれています。
通常、細菌などは強い酸性の胃の中では生きていけません。ところがピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を出して胃の中の尿素を分解し、アルカリ性のアンモニアを作り出すことで自分の周囲を中和させて生き延びています。
ピロリ菌が尿素を分解する際、アンモニアと同時に二酸化炭素も作られ、これらは速やかに吸収されて血液から肺に送られ、呼気として排出されます。この原理を利用して、ピロリ菌の有無を調べる検査が「尿素呼気検査」です。
まず、患者さんは検査薬(13C-尿素)を服用します。ピロリ菌に感染している場合は、尿素が分解されるので呼気からは13CO2が多く検出されます。一方、ピロリ菌に感染していない場合は、尿素は分解されないので13CO2の呼気は排出されません。こうして、呼気を調べればピロリ菌がいるかどうかが分かる仕組みです。
健康には気を配っている筆者ですが、時々胃の調子が悪くなるので気になっていました。そこで、考えられるのはピロリ菌と思い、すぐに尿素呼気検査を受けました。
すると、ピロリ菌が発見されたのです。すぐに除菌したあと、ピロリ菌がいないことを確認しました。ところが、数年後にまた胃の調子が悪くなったため、再び検査をすると、またもやピロリ菌が見つかったのです。
ピロリ菌はありふれた菌なので、一度除去しても、再び感染する可能性があります。このように、ピロリ菌が見つかった人は、多くの場合で除去したから「もういない」と安心していますが、一度で終わるとは限りません。井戸水を飲んでいなくても、ありふれた菌なので野菜や果物などにピロリ菌が付着していることがあり、よく洗わずに食べてしまうなど、日常生活で感染するリスクは誰にでもあるのです。
筆者の場合も、何が原因かは分かりませんが、また感染してしまいました。すぐに除菌して、ピロリ菌がいないことは確認しましたが、この先も感染する可能性はゼロではないだけに油断できないと痛感しました。
●ピロリ菌の除去後は、「タンパク質の多い食事」で疾患予防
また、一般には知られていませんが、ピロリ菌を除去すると逆流性食道炎の罹患率が上がるといわれているのです。なぜなら、ピロリ菌がいなくなることで胃酸の分泌が良くなるために、胃酸が増えて逆流するリスクが高まるからです。
胃酸が分泌されるのは胃の働きが活発になった証拠なので、本来なら良いことです。しかし実際には、逆流性食道になりやすいというわけです。これは、食事に問題があるのだと、筆者は考えています。
本来、タンパク質の消化には胃酸が必要ですが、炭水化物の消化には胃酸は必要ありません。しかし、ご飯をたくさん食べるなど炭水化物が主体で、タンパク質のおかずが少ない食事をしていると、胃酸が余ってしまうのです。その結果、余った胃酸が逆流してしまい、逆流性食道炎を招きます。
したがって、ケトン食のように炭水化物を減らしてタンパク質の多い食事に変えれば、逆流性食道炎は防げ、飲み続けている治療薬の服用も必要なくなります。
ピロリ菌を除去したら胃がんのリスクはなくなる?
→ウソ
習慣にしよう!
●胃の調子が悪いときはピロリ菌検査を受けてみましょう。
●野菜や果物を食べるときは、よく洗ってピロリ菌の感染リスクを減らしましょう。
●ピロリ菌を除去した数年後に、胃の調子が悪いときは再度検査をしましょう。
遺伝子解析で自分の病気の発症傾向が分かる?
●2ccの唾液で300以上の罹患リスクがわかる「遺伝子解析検査実験」
人間の設計図といわれる遺伝子には、体に関するさまざまな情報が詰まっています。ですから遺伝子を解析することで、例えば太りやすいなど体質的なことや、がん・高血圧・糖尿病といった病気の発症リスク、また運動能力から先祖のルーツまでも知ることができます。
このような生まれ持った遺伝的な体質や、将来のリスク傾向を知ることは、自分の弱い部分を知ることでもあります。これによって弱いところを強化したり、今から悪くならないように予防したりするといった対策を講じれば、将来のリスクを軽減させることも可能です。
110歳まで元気に生きる予定の筆者としては、自分の体質や病気のリスクをきちんと把握しておく必要があります。そこで、「遺伝子解析検査」を受けてみました。
検査は実に簡単です。検査会社から送られてきた検査キットを使い、自分の唾液を2ccほど採取して送り返すだけ。すると、後日300以上にも上る項目の結果が届きます。
それによると、筆者は高血圧・糖尿病・脂質異常症のリスクが高いという結果でした。実際にメタボの時期もあるし、両親も血糖値やコレステロール値が高いので、検査をするまでもなく、結果は想像がついていました。「やっぱり」という結果でしたが、検査も手軽に遺伝子レベルで受けられる時代が来たことに驚きました。
意外だったのは、がんのリスクが低かったことです。父が前立腺がんになり、これはホルモン療法でコントロールできていましたが、最後は肺がんで命を落としています。父の場合は50歳まで喫煙していたので、これもリスクを高める要因になったと思いますが、筆者もがん体質の可能性があったのです。
●検査結果に一喜一憂するのではなく、リスク低減の努力に活かすことが重要
遺伝的にはリスクが高くても必ず発症するわけではなく、かといってリスクが低いから安心ともいえません。父の喫煙のように、病気や体質には生活習慣など環境的要因も大きく影響しているからです。
例えば、筆者の検査結果では命の回数券といわれる「テロメア」が長いことも分かりました。テロメアは染色体の端にあり、細胞分裂を繰り返すたびに短くなっていくことから、老化と深い関係があると考えられています。つまり、健康長寿のカギとされるので、テロメアが長いと長生きできることになります。しかし、いくらテロメアが長くても、何の努力もせずに不摂生を続けていれば、やがて生活習慣病を引き起こし、本来はリスクの低いはずの脳卒中や心筋梗塞で寿命を縮める結果を招く可能性もあります。
検査結果を参考にして生活習慣の改善や予防の努力することで、リスクを減らして発病の確率を低くしていけばよいのです。
遺伝子解析で自分の病気の発症傾向が分かる?
→ホント
習慣にしよう!
●肝臓がんのリスクが高い人は飲酒を控える、生活習慣病のリスクが高い人は食べ過ぎに注意して規則正しい生活を送るなど、自分の弱い部分を知って生活習慣を見直しましょう。発病を防いで健康維持につながります。
●子どもの場合は将来の適性を知って能力を伸ばしてあげる材料として使いましょう。運動能力、学習、感性などが分かるので、参考になります。
永野 正史
練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医