高齢化が進む日本社会。中小企業庁の調査によると、今後10年間で、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業の経営者は、約245万人になると想定されています。未曾有の危機が迫っているにも関わらず、「まだまだ現役」と考えている経営者は多いものです。そこで本連載では、『〈4訂版〉税理士が見つけた!本当は怖い事業承継の失敗事例55』(東峰書房)より一部を抜粋し、令和時代の「事業承継」について、辻・本郷 税理士法人の楮原達也氏が解説します。

「生涯現役」と心勇むワンマン社長に、疲弊する息子

【事業承継を考える】

 

私の父は、製造業を営むA社のオーナー経営者です。いわゆるワンマン経営者であり、年齢は68歳になりますが、常に生涯現役を言葉にしており、事業承継のことは一切口にしません。

 

私は息子で専務という肩書きはあるものの、経営に関する権限は一切なく、従業員の一部は、会社の将来を心配しているという声も耳にします。また、同業他社の二代目同士でよく会社の株価や相続税の話題があがりますが、実際A社株の株価が今いくらなのか、ましてや父の相続税がいくらになるのかもわからない状況です。

 

さらに、父個人の土地建物がA社の本社としての事業用資産になっています。したがって、他の2人の兄弟との遺産分けのバランスについても悩みどころです。当然、父にもそのような話を一切口にすることはできません…。

 

父のことを考えると頭が痛い…
父のことを考えると頭が痛い…

 

【×失敗のポイント】

① 後継者が決まっていない、あるいは意思表示をしていないことは、会社内部の人間だけでなく、外部の取引先等に対しても不安を生じさせる結果となります。

② 後継者以外の子供に自社株が承継されてしまうと、後継者である子供は、株主総会における議決権を行使できずに意思決定を行えなくなる可能性があります。

③ 自社株の評価額が高いと後継者は多額の相続税を負担することになってしまいます。

④ 自社株は換金性がないことから、後継者は多額の相続税を払えず、会社存続の危機に陥る可能性があります。

⑤ 後継者以外の子供にも自社株や事業用資産を取得する権利がありますので、遺産争いに発展してしまう可能性があります。

 

【〇正しい反応】

会社の事業承継については、まずオーナー自身が真摯に考え、取り組む必要があります。また、事業承継を考える上では、次のポイントを考えてバランスよく多面的に取り組むべきです。

① 後継者をどうするのか?

② 経営権対策をどうするのか?

③ 株価・相続税をどうするのか?

④ 納税資金をどうするのか?

⑤ 争族対策をどうするのか?

換金性のない資産の「納税対策」、大丈夫?

事業承継を考える上での大切なポイントは、次のとおりです。

 

① 後継者の選択

「誰に会社を引き継がせるのか?」

 

まず後継者を決めないことには、事業承継をスタートすることができません。子供など親族へ承継するのか、または会社をよく知る従業員に承継するのか、さらには、第三者へのM&Aを検討するのかを意思決定する必要があります。

 

② 経営権対策

事業を引き継いだ後継者が安定的に経営をしていくためには、後継者に自社株や事業用資産を集中的に承継させる必要があります。特に自社株は、会社が意思決定する際の株主総会における議決権に影響しますので、後継者以外の子供がいる場合の遺留分などにも配慮して、いかに後継者に集中させるかが、事業承継を考える上での大きなポイントとなります。

 

③ 株価・相続税

自社株の評価額が高い場合、後継者は多額の相続税を負担することになる場合があります。将来、相続が発生した場合、自社株や事業用資産にかかる相続税の負担をいかにして軽減させるのかがポイントとなります。

 

④ 納税資金

一般的に中小企業オーナーの財産構成は、自社株や事業用資産が大半を占めており、これらの財産は換金性がないため、どのようにして相続税の納税資金を確保するかがポイントになります。仮にオーナーが金融資産を所有していたとしても、自社株や事業用資産の後継者への集中を考えると、後継者でない子供への配慮もしなければなりませんので、多額の資金が必要になる場合があります。

 

⑤ 争族対策

子供の1人を後継者として、自社株などの財産の承継を集中させる場合、後継者でない子供の遺留分を侵害しないよう配慮をし、相続発生後の親族間の財産争いが生じないようにすることがポイントになります。

 

【事業承継を考える上での5つのポイント】

① 後継者の選択・・・誰に事業を引き継がせるのか?

② 経営権対策・・・後継者の経営権について、いかに集中・安定化させるのか?

③ 株価・相続税・・・将来、相続が発生した場合、自社株などの会社関連財産にかかる相続税をいかに合法的に圧縮するのか?

④ 納税資金・・・相続税の納税資金を、いかにして捻出するのか?

⑤ 争族対策・・・相続発生後の親族間の財産争いを回避するためには、どうしたらよいのか?

「何とかなるだろう」は後継者に問題を残しているだけ

◆事業承継に際してのスタートライン

 

近年、事業承継についての問題がクローズアップされ、国による支援も民法特例の創設・事業承継税制の拡充がなされてきています。しかし、このような新しい制度を検討する前に、下記の項目を一つひとつ考え、どのような方向が自社の事業承継に最も適しているのか、明確にしておくべきでしょう。

 

 「いつ」事業承継するか

現・代表者の方にとって、いつ事業承継するべきかを決定することが、一番に重要な項目です。いずれ、身体的・能力的・社会的・経営感覚的な限界はやってきます。また、それがやってきたとしてもすぐに後継者へ会社を引き渡せるわけではありません。事業承継をソフトランディングさせるため、後継者を補助していく期間も必要かと思います。その時間の制約を先に把握しておくことが重要ですし、ゴールの時期を明確にすることで、対策の方法も変わってきます。

 

② 「誰に」事業承継するか

ここが最も悩ましいところかと思われます。全ての企業に望ましい後継者が必ずいるわけではありませんし、後継者が決定しているわけでもないかと思われます。ご意思として親族内に承継していきたいという場合もありますし、そのご意思はない、もしくは親族内承継が無理という場合もあります。

 

親族内承継が無理なのであれば、古くからその会社を一緒に経営してきた役員の中に引き継ぎたい方がいらっしゃるかもしれません。それもいないようであれば外部から後継者を募る、もしくは会社ごと売却するなども考慮すべきでしょう。

 

③ 「何を」承継するか

会社経営においては、「自社株」とその会社の事業に使用していた「不動産等」が重要な承継資産となります。「自社株」は後継者の方の経営権を確保するために重要な資産ですが、順調な経営を続けている場合評価額が高くなっていて、相続により取得する際に納税資金不足に悩むケースが発生する可能性があります。

 

また「不動産等」も経営に必要な場合が多々ありますので、相続に際してその不動産等を売却しなければ納税資金が確保できないとなれば、以後の会社経営に多大な影響が発生してしまいます。

 

④ 「どのように」事業承継するか

①〜③の段階を経て具体的な方法の選択を行う方向性が見えてきたかと思います。これに基づき、どのような事業承継方法が経営上、組織上、税制上、スムーズであるか検討する必要があります。

 

⑤ 「①〜③が未確定」

後継者等が決まっていない場合でも承継しやすい形に変えておく必要はあるかと思います。具体的には、複雑になっている会社組織形態を再編する、少数株主の持株を金庫株で買い取りをし経営の安定化を図っておく、現・代表者と会社との金銭貸借を解消して流動性を持たせておく、などが挙げられます。

 

事業承継については会社ごとに望ましい形があるはずです。そこを念頭に置かず、何とかなるだろうと思っているだけでは、後継者に問題を残しているだけです。また、大きな会社ともなれば後継者の問題だけでなく、従業員及びその家族の人生にも関係してくる問題です。なおのこと経営者として先んじて考えておかなければならないことです。

 

 

楮原 達也

辻・本郷 税理士法人 執行理事

 

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