経営者仲間の「生涯現役」宣言に自分もつられ…
【事業承継を考える】
私は町工場を営むT社の経営をしております。T社を創業して40年、妻とともに始めた会社ですが現在は従業員も100人に迫り、技術では有名な会社となりました。
先日、税理士から念押しのように「社長、本当にそろそろ後継者を決めなければなりませんよ」と言われました。私自身、最近70歳を迎えましたが、私たち夫婦には数年前に嫁いでいった娘が1人だけで後継者もおりませんし、周りの経営者仲間も生涯現役と言っているので、事業承継をあまり真剣に考えておりませんでした。
【×失敗のポイント】
後継者がいないから、周りが事業承継を進めていないからといって、事業承継を先送りにすることは、百害あって一利なしといえます。中小企業において、事業承継先は一番に子供が思い浮かぶと思いますが、最近では従業員や第三者に承継していくケースも増えております。
事業承継を先送りにしてしまうと、後継者への引き継ぎの期間がしっかりと取れなかったり、自社株以外の事業用資産が会社外部に流出してしまったりと、せっかくこれまで続いた会社が廃業ということにもなりかねません。
【〇正しい反応】
親族に後継者候補がいない場合には、早い段階で従業員への承継や外部(M&A)の活用可否について検討すべきでしょう。従業員への承継の場合、親族内承継よりも資金負担が必要になってくるので、直ぐに自社株や事業用資産の承継を実行できない可能性も高くなります。
外部(M&A)を活用する場合にも、所謂企業のお見合いですから会社の方針を理解いただける売却先を見つけるには相応の時間が必要となります。早め早めの対策検討が肝要といえます。
事業承継は「引退の3年前」からスタートするべき
現在、中小企業経営者の高齢化が進んでおり、今後10年間の間に70歳(平均引退年齢)を超える中小企業の経営者は約245万人になります。事業承継は一朝一夕には解決しないので、仮に平均引退年齢で事業を引き継ぐとすれば、遅くとも3年前には着手すべきといえます。
(1)経営者の年齢分布と平均引退年齢について
下の[図表1]及び[図表2]のように、経営者の年齢分布で一番多い年齢は約20歳上昇し、平均引退年齢は小規模企業で70歳を超えて、中規模企業でも70歳に迫る年齢となっております。
(2)承継方法の形態別推移
下の[図表3]にあるように、親族内承継が未だ最多であるものの、その割合は年々減少傾向にあるといえます。自社にはどの方法が合うか、経営者は常に検討すべきでしょう。
親族内に後継者がいる場合でも、後継者が承継を拒む場合もあります。現経営者はより柔軟な判断で、事業の継続と承継方法の検討を行うべきでしょう。
楮原 達也
辻・本郷 税理士法人 執行理事