前回は、投資を行う上での基本となる「企業価値」の計算方法を紹介した。今回は、企業価値を測るための柱のひとつ「経営者」の見極め方を取り上げたい。

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経営者次第で企業の成長力は大きく変化する

企業価値を測るための柱として①経営者、②ビジネスモデル、③市場の3つの柱を見ていきます。

 

【価値を測るための柱 ①経営者】
企業を分析する上で、経営者は非常に重要な存在である。企業は経営者次第だと思わされた経験も少なくない。これは規模が小さく、未成熟な企業であれば説明するまでもないだろう。新たな事業機会を見出し、そこで競合に打ち勝つビジネスモデルをゼロから築き上げるプロセスは、経営者の資質と直結している。

 

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同様に、伝統的な成熟した大企業であっても、同じように経営者は企業の未来を握っている。ゼロから事業を生み出すプロセスとは異なるが、企業の方向性を再定義し、社員のマインドを変え、社内の資源配分を一から見直すことで、再び成長を取り戻したケースも多々存在している。つまり経営者は、現時点では誰にも分からない企業の将来における成長力に最も大きな影響を与える存在なのである。

 

筆者は、経営者に求められるのは、①ビジョン構築力、②目標志向力、③人間性、の大きく三つであると考えている。この三つのうち一つでも疑問符が付くのであれば、その企業の中長期での成長性は慎重に見たほうがよいというほど、重要だと考えている。

欠けてはならない「3つ」の資質とは?

①ビジョン構築力
ビジョン構築力を一言で表すと、時代の大きな流れを捉え、自社の事業機会を見出した上で、最終的にたどり着くべき姿とそこに向けた道筋を明確に描き、伝える力ということである。

 

そのためには頭脳だけではなく、商売人としての嗅覚や、前例や常識にとらわれない大胆さといった感性・エネルギーのようなものも不可欠だと考える。ソフトバンクの孫正義氏は、日本では稀有なビジョン構築力に優れた経営者である。通信・IT領域における成長市場を見抜き、一から独自の発想で巨大ビジネスをつくり上げてきた実績には驚嘆せざるを得ない。

 

②目標志向力
目標志向力とは、明確な高い目標を掲げ、妥協することなくその達成にまい進する力ということである。前述の通り、経営者には企業を変える力がある。

 

しかし、企業規模が大きくなるほど、経営者自身が日々の事業に直接影響を及ぼすことは難しくなり、経営幹部や現場社員の努力が業績を左右するようになる。そのため、いわゆるサラリーマン企業では、経営者が目標の未達についてどこか他人事のように説明するのを目にすることがある。もちろんそれぞれに言い分はあると思うが、経営者には目標達成の最終的な責任は自分が負っているという使命感が必要である。そして、達成を阻む阻害要因があれば何であっても解決するという気概が求められる。

 

目標志向力という点で卓抜した経営者として、ファーストリテイリングの柳井正氏を挙げたい。柳井氏の成長に対する使命感があるからこそ、同社は現状に甘んじることなく、思い切った変革で成長の壁を次々と乗り越えてこられたのだと考える。

 

③人間性
人間性については、感覚的になってしまうが、尊敬、信頼できる人物かどうかということである。株主は自ら企業の舵取りを行うことはできず、経営者に一任することとなる。尊敬、信頼できない人物に任せたいという株主はどこにもいないだろう。

 

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信頼という点で欠かせないのが、ステークホルダーに対して誠実かつ率直に接しているということである。特に株主に対して、悪いことでも包み隠さず、実態を正直に伝えてくれる経営者は評価に値すると考える。

 

ウォーレン・バフェットは、「誰かを評価する時には、ポイントが三つあります。誠実さ、知性、そしてエネルギーです。もし誠実さを欠けば、あとの二つはとんでもないことを起こすでしょう」と言っているが、同感である。

 

経営者の人間性ということで、最も強い印象を与えたのはトヨタ自動車の豊田章男社長のリコール問題での米国議会公聴会においての対応だろう。氏の誠実な受け答えが米国議会を説得し、トヨタに批判的論調に傾倒していたメディア・世論の空気を一変させる様子を私たちはライブで見た。その後のトヨタ自動車の収益V字回復は、やはり経営者の人間性が巨大企業をも大きく変え得ることを学ぶケースとなった。

 

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本連載は、2015年1月22日刊行の書籍『株しかない』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

株しかない

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阿部 修平

幻冬舎

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