投資商品にはさまざまな種類がありますが、なかにはリスクの高いものあり、選択には専門的な知識が必要です。しかし投資信託は、費用が適切であれば初心者にも取り組みやすい商品であるといえます。ここでは、投資信託の仕組みを専門家がわかりやすく解説します。本連載は、松本大学松商短期大学部経営情報学科の藤波大三郎教授の著書『投資初心者のための資産運用[改訂版]』(創成社)から一部を抜粋・再編集したものです。

コスト…投資信託にかかる運用管理費用

『いまさら聞けない「投資信託」のしくみと特徴…大学教授が解説』の記事において投資信託の仕組みについてその概要を述べましたが、投資信託による資産運用に取り組んでいく場合には3つの着眼点があります。それは①リスク、すなわち価格変動性、②リターン、すなわち収益性、③コスト、すなわち費用です。

 

コストから先に説明しますと、投資信託には運用管理費用(信託報酬)が、日々、かかります。これは累積すると大きな額となりますが、その額は長期の収益性と比較すると運用収益の少なくない部分を投資の成果から奪うことになります。

 

ところが、一般の方にはこのコストの重要性があまり認識されていません。また、販売業者もその事実を説明しない傾向にあるのではないかといわれています。株式投資や債券投資の収益性、特に長期的なビルディング・ブロック法*1による収益性の推計や、ファンダメンタル・リターン*2の考え方が一般の方々に知られていませんので、こういうことが起こるのかと思います。

 

*1 ビルディング・ブロック法:資産の収益性をいくつかの構成要素(ブロック)に分解し、個々の要素に予測値を置き、それを積み上げて(ビルディング)将来の収益性の推定を行う手法のことです。本記事では、実質GDP成長率2%、インフレ率2%、債券投資リスク・プレミアム2%、株式投資リスク・プレミアム2%と予測し、債券投資の収益性は6%、株式投資の収益性は8%との推定値を用いています(リスク・プレミアムとは投資の不確実性を引き受けることに対する報酬のことです)。

 

*2 ファンダメンタル・リターン:配当利回りと内部成長率の合計値のことであり、内部成長率は自己資本利益率(ROE)に内部留保率をかけることで算出されます。内部留保率は「1-配当性向」で算出されます(配当性向は当期純利益のうち配当金の支払いにあてる割合のことです)。株式の収益性は企業の生み出す配当金と内部留保による資本の成長との考え方によるものです。

 

ビルディング・ブロック法での収益性の推計では、株式、債券に均等に分散した運用の投資収益は年率7%程度でしょう。それを考えると、年率1%を超える運用管理費用(信託報酬)は大きな影響があるのです。

 

なお、ビルディング・ブロック法は債券、株式について日本の債券と海外の債券、日本の株式と海外の株式と分けて考えるのですが、その差はわずかです。厳密に計算すれば、国内・外の債券、株式に分散投資を行った場合の収益性は、7%よりやや高くなると思われますが、1%の差もないでしょう。

 

この運用管理費用(信託報酬)は、信託銀行が受け取る部分、運用会社が受け取る部分、および販売会社である銀行、証券会社が受け取る部分に分かれています。そして、わが国の運用管理費用(信託報酬)は世界的にみても高いと考えられています。

 

米国のモーニングスター社は、2013年5月に世界の投資信託の市場について格付を行い、その結果は、日本は総合評価で8段階の下から3番目の「C」でした。特に、コストの項目で「D+」とされました。これはタイが「A-」、中国、南アフリカが「B-」ですから、コストの面では新興国の投資信託市場にも劣る状況ということです。そこで、金融庁はつみたてニーサの導入において対象商品の運用管理費用の上限を決め、その結果、インデックス運用型では平均で0.31%、アクティブ運用型では1.03%となっています(2019年7月)。

 

この状況の原因は、販売者が売りやすい投資信託が、運用者によってつくられているからと思われ、「運用管理費用の販売奨励金化」が起こっていると報道されています。

 

なお、購入時に一度しか払わない販売手数料についても、短期に売買を繰り返せば大きな負担となります。金融庁は、その監督指針で手数料を稼ぐために、別の投信への乗り換えを勧める回転売買は市場の発展になじまないとしています。販売業者がこうした指摘を受けるようでは、販売手数料についての課題は大きいといえます。

 

また、ファンド・オブ・ファンズと呼ばれる投資信託は、この運用管理費用(信託報酬)が二重に発生します。ファンド・オブ・ファンズは投資信託の投資対象が株式や債券でなく、投資信託となっている商品です。つまり、複数の投資信託に分散投資を行う投資信託です。これですと、投資対象の投資信託の運用管理費用(信託報酬)に加えてその投資信託の運用管理費用(信託報酬)がかかることになります。したがって、ファンド・オブ・ファンズの投資信託は問題のある商品だという意見の人もいるのです。

 

しかし、ファンド・オブ・ファンズの商品のすべてが、運用管理費用(信託報酬)が高いというわけではありません。トータルでも、つみたてニーサの対象商品のように運用管理費用(信託報酬)の小さい商品が増えています。

 

米国の投資信託は規模が大きい場合が一般的です。日本の投資信託の運用管理費用(信託報酬)を引き下げるには、人々がもっと投資信託を購入するようになること、そして、その状況の中で業者間の競争原理が働くことが必要でしょう。また、投資家となる購入者の方々が長期投資の重要性を意識し、ファンダメンタル・リターンやビルディング・ブロック法による収益性の推定方法を理解して、収益性との対比において運用管理費用(信託報酬)の大きさに気が付くことが求められると思います。また、そうした投資教育が行われることが求められていると思います。

リターン・収益性…基準価額と分配金は正しく理解を!

第二に、リターン・収益性についてですが、これは基準価額と分配金によって表されます。基準価額は投資信託の運用成績が良ければ上昇し、反対に運用成績が悪ければ下落します。運用成績が良ければ分配金が支払われ、そのため基準価額は下落します。

 

なお、投資信託の販売において、分配金が支払われた直後は単価が下がったので、多くの投資信託が買えると説明されることがありますが、これはあまり意味のないことであり、不適切です。

 

また、長期投資の観点からは無分配型か分配金再投資の仕組みがある商品を活用することが、投資信託を購入する時には重要なポイントになります。

 

とはいえ、シニアの方についていえば、年金受給者の立場にありますので、分配金収入に魅力を感じる方が多いわけです。そのため、海外債券への投資を対象とする、毎月分配型の商品が人気になっているわけです。

 

分配金については一般の人々の誤解も多いのですが、その例として、分配金の多い投資信託が運用成績の良い投資信託という考え方です。通常はその理解で問題はないのですが、毎月分配型の商品で、分配金を維持するために元本部分の払い戻しを行う形で、分配金の水準を維持していることがあります。この元本の払い戻し部分については、かつては特別分配金と呼ばれていましたが、現在は、元本払戻金(特別分配金)と呼ばれ、投資家が誤解しないようになっています。

 

また、これに関しては金融庁が、分配金と値上がり益の合計についての総合的収益性、いわゆるトータルリターンの表示を行うようにする規制を、2014年12月から行っています。そしてさらに金融庁は、2017年3月に「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、それを客観的に評価できる成果指標(KPI=キー・パフォーマンス・インディケイター)を公表するよう金融機関に働きかけています。

 

また、分配金については通貨選択型の投資信託という商品の問題もあります。これは通貨ごとに異なる短期金利の差を利用し、分配金の額を多くする投資信託です。専門的には為替ヘッジといって、外国通貨建ての投資の為替リスクをなくす手法があります。その手法にはコストがかかるのですが、この方法を使って、金利の低い通貨の運用の成果を金利の高い通貨に変換すると、今度はプレミアムといって金利差相当の利益を得ることができ分配金を大きくすることができるのです。

 

あああ
為替ヘッジは分配金の額を多くし、外国通貨建ての投資の為替リスクをなくす

 

しかし、これは長期投資には不適切な手法でしょう。長期的には為替相場は物価上昇率の差によって決まることが多いとされます。高金利の通貨に変換しても、その通貨の物価上昇率が高ければ、その通貨に対してやがて円高が発生してしまうのです。そして、多くの高金利通貨の国のインフレ率は高いのです。

 

たとえば、トルコ・リラが高金利通貨といわれますが、2018年のトルコのインフレ率は約15%と大変高く、今世紀で最も低かったのは2009年の6%台であり、最高の年は2001年の約54%でした。

 

オーストラリア・ドルも高金利通貨といわれますが、オーストラリアのインフレ率は、2018年は2%台であり、今世紀に入って最も低かったのは2012年の1%台後半、最高の年は2008年の4%台半ばでした。いずれの国もわが国と比べれば高いインフレ率の国といえます。

 

為替差益には、長期的には収益性はないというのが、年金基金のような長期の資産運用における考え方ですが、一般の方々のライフプランのための資産運用は、長期投資を考えますので、こうした商品は一般の方々の資産運用には向かない投資信託といえるでしょう。その点の説明がわかりやすく行われていないために、一般の方々には理解できず、高い債券の利率のメリットを長期的に得られると勘違いしているのだと思います。

 

また、前に述べたビルディング・ブロック法では、金利平価説の考え方をとり、こうした為替のコストやプレミアムは短期金利と相殺されて、国内・外の短期金利に差はないと考えるわけです。通貨選択型の投資信託の為替による部分は、本当に収益性があるとはいえないでしょう。為替リスクは海外の債券、株式に投資を行う時に必要なだけ取ればよいリスクです。この商品のようにあえて積極的に為替リスクを取って、収益を獲得しにいくという姿勢は一般の方々には向いていないと思います。

 

なお、海外債券投資は短期的には為替投機に近いといわれるくらいリスクが大きい取引です。そこで海外債券投資に意義をあまり認めない考え方もあります。

リスク・価格変動性…分散投資である程度は軽減可能

そして、第三にリスク・価格変動性について述べますと、現代の投資理論では通常、投資のリスクは投資成果のブレ具合として考えます。投資信託の最大のメリットは、分散投資によってこのリスクを小さくすることができる点です。分散投資がリスクを低減することを理論的に明らかにしたのはハリー・マーコウィッツ氏で、シャープ氏とともに1990年にノーベル経済学賞を受賞しています。

 

金融資産運用の対象となる債券、株式の収益性は、企業の経済活動の水準によって決まるのであり、何かテクニックを用いて改善することはできないものです。それに対してリスクは分散投資を用いると、ある程度低減できるわけです。

 

まず、株式であれば、東京証券取引所第一部に上場するすべての企業に分散投資を行うことで、個々の企業の持つリスクをこれらの株式の範囲においてはなくすことができます。そして、ある市場の株式全体に投資した場合のリスクは、マーケット・リスクすなわち市場リスクと呼ばれますが、これは他の資産市場、たとえば債券市場と分散投資を行うことによって小さくすることができるわけです。株式と債券ヘの分散投資、つまり資産分散、そして国際分散投資が求められるのはこのためです。

 

現在の投資信託では、国内・外の株式、債券の4資産に分散投資を行うバランスファンドが、リスクの点から考えると収益性が比較的良い投資信託といえると思います。こうした国内・外の債券、株式への分散投資を個人で行うことは困難なことですが、バランスファンド型の投資信託を用いれば誰でも容易に行うことができます。

 

こうして投資信託は、リスク、リターン、コストの点から検討していくことがポイントになります。そして、その検討は相互に関連しながら行うことも重要です。

 

 

藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師

投資初心者のための資産運用[改訂版]

投資初心者のための資産運用[改訂版]

藤波 大三郎

創成社

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