ハワイ物件購入時にエージェントから勧められたのは…
プロベート回避のため、Joint Tenancy with Rights of Survivorship(合有所有権・生存者取得権付)で対策をしたハワイ不動産の相続の事例をみていきましょう。
【事例】Joint Tenancyの形式で、ハワイ不動産を購入した家族
家族構成:父、母、兄、娘(依頼者)
Joint Tenantsとしての所有権:それぞれ25%ずつ
依頼者:娘(ハワイ不動産に居住)
【経緯】
父が昔「Joint Tenancy」という所有形態でハワイ不動産を購入したことに始まります。これは家族全員の名前を入れておけば、父の死亡時、つまり相続が発生したときに、「プロベート」の必要なく家族に残せる、と不動産エージェントから勧められたのです(関連記事『米国に資産がある人は要注意!相続の壁となるプロベートとは?』参照)。
Joint Tenancyとは、二人以上の共同所有者(Joint Tenants)が不動産を合有する形態で、全員で全体の権利を有し、持分の割合は必ず平等になります。Joint Tenantsは個人に限られ、法人は利用できません。
数年前に父が亡くなり、ハワイ不動産の父の所有権はプロベートの必要なく、母、娘(依頼者)、息子(兄)が均等に相続し、結果それぞれ1/3ずつの所有権を有することになりました。
その後、母も亡くなり、母の所有権もプロベートの必要なく、娘(依頼者)、息子(兄)が均等に相続しました。結果、依頼者と兄が半分ずつ所有権を有することになりました。
Joint Tenancyの最大のメリットは、このように一人の共同所有者が死亡したときに、裁判所の関与なく、プロベートの必要なく、残された共同所有者に所有権が移転することです。不動産が所在する州およびカウンティ(群)の登記所に死亡証明を提出し、名義変更の手続きを行います。残された共同所有者は、余計な時間も費用もかけずにスムーズに相続できます。
ハワイの家は娘に、不動産価格の半額を息子に
【問題点】
このハワイ不動産には、娘(依頼者)が配偶者と子供達と住んでいます。娘(依頼者)に不動産を引き継がせたいため、父と母は存命中に息子の名義を外すことを前提に、自分達の所有権は娘(依頼者)に託す、という遺言書をそれぞれ作成しました。不公平にならないよう、息子(兄)にはハワイ不動産の半分の価値に相当する金融資産をX円残す、とも遺言書に明記しました。
しかし、兄の名義は父母が勝手に外すことはできません。兄が自分の名義を外すことに承諾しても、贈与か売却の問題が発生してしまいます。そして、息子の名義を外せないまま、両親は他界してしまいました。
不動産の所有形態が「Joint Tenancy」であるため、厄介なプロベートの必要なく、ハワイ不動産の相続は実行されました。しかし、Joint Tenancyでは相続人を指定することはできません。遺言書にハワイ不動産の相続人を明記しても、父と母の所有権は娘(依頼者)と息子(兄)がそれぞれ50%ずつ相続することになり、ハワイ不動産の所有権は最終的に娘50%、息子50%という結果になりました。
Joint Tenancyという所有形態は遺言書より優先されます。遺言書で特定相続人が指定されていても、法定相続人がいても関係なく、不動産の共同所有者が相続します。
兄の名義をハワイ不動産から外し、100%依頼者の名義にするという行為は、兄の持分50%を依頼者に譲渡するということになります。つまり、兄は自分の持分50%を依頼者に贈与するか、売却するかという選択肢になります。
①贈与する場合
贈与となると贈与税の課税対象となり、依頼者が贈与税を払うことになります。
②売却する場合
依頼者が兄の持分を買い取るには、依頼者が兄に売却額を支払うことになります。
いずれにせよ、依頼者にとって不利な相続となりました。兄は両親の遺言書でより多く金融資産を相続しているのに対し、依頼者は自分が不動産の価値の50%も兄に払ってまで兄の持分を買い取ることや、贈与税を払うことに不満を抱いています。父も母もこうなるとは想像もしていなかったと思われます。
米国不動産を購入するときにプロベート回避を念頭に入れることは極めて重要ですが、本件のようにJoint Tenantsで家族の名前を入れるだけでは後々問題になりかねません。他にも、リビングトラスト、TODD、法人名義など多くの対策があります。
ハワイをはじめ、米国不動産を購入される前には、どのような所有形態が適しているか、専門家に相談しましょう。
佐野 郁子
弁護士法人佐野&アソシエーツ 弁護士