税制改正により、2021年から、海外中古物件を利用した節税スキームが封じ込められることになっていますが、2020年も残すところ約100日。米国不動産を所有する日本居住者はどのようなことに留意すべきなのでしょうか。弁護士法人佐野&アソシエーツの弁護士である佐野郁子氏が解説します。

2020年度の税制改正…何が変わるのか

米国の不動産は土地よりも建物の価値が高く、日本とは土地と建物の比率が逆であるため、法定耐用年数を超える木造米国不動産の加速度却と損益通算を利用した節税スキームはこれまで高所得者に好まれていました。

 

税制改正により、2021年から個人で所有している米国不動産に対し『減価償却費は生じなかった』とみなされるため、所得との損益通算ができなくなり、米国不動産購入時の目論見が外れた人も多くいます。

 

しかし、法人所有の米国不動産には影響されることなく従来通り加速度償却と損益通算が適用されます。

今後の米国不動産所有は法人名義か、個人名義か

今般の税制改正に伴い、急遽法人名義に変えようと試みる方が増加しましたが、必ずしも法人名義が望ましいとは限りません。不動産の所有目的により、法人名義か個人名義のどちらを選ぶか判断をすることが望ましいでしょう。

 

まず、すでに個人名義で所有している米国不動産を日本法人名義に変更するには、日本法人への譲渡になるため、不動産が所在する州のTransfer Tax (譲渡税)が課税されます。さらに不動産鑑定士による譲渡価額の算定 も必要となり費用が発生します。日本側にすでに法人がなければ、法人設立や譲渡に掛かる費用や税金等、多額の出費が伴うことになります。

 

また、日本法人名義で米国不動産を所有する場合、不動産が所在する州においてその日本法人を「外国法人」として登録をしなければなりません。複数の州に米国不動産を所有していると、各州に外国法人登録が必要となるため、その都度費用と手間が発生します。売却予定の米国不動産の場合、そこまでの手間暇をかける価値があるでしょうか。

「米国不動産」を売却する際の留意点

個人所有の場合、5年以上所有していた不動産であれば売却時の税率は20%で、法人税より低い税率です。

 

さらに、税制改正によって個人所有の米国不動産の減価償却は生じなかった、とみなされるため、売却時に課税される譲渡益も法人所有に比べて少ないのです。

 

そのため、キャピタルゲインを目的とした米国不動産投資の場合は、個人名義で所有することが好ましいといえるでしょう。

 

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