「Transfer on Death Deed」は、不動産の登記所有者が亡くなった時、その不動産を受け取る人をあらかじめ指定しておく書類のことを指します。通称で「TODD」と言われます。
TODDを利用するとやっかいなプロベートなしに相続の手続きを済ませることができますが、州ごとに適用が異なるため注意が必要です。
今回は、TODDを利用した相続の事例をご紹介いたします。
TODDは所有者が亡くなる前に登記を完了しないと無効
【事例1】
ハワイ不動産の所有者:父の単独名義
依頼者:娘
父が高齢で病気になり、相続を気にして、亡くなる間際に急いでTODDを作成しました。TODDで娘を不動産の受取人と指定しましたが、登記が完了する前に父は他界しました。娘はプロベートを経て相続をする結果となりました。
◆ポイント1◆
TODDは所有者が亡くなる前に、不動産が所在するCounty(郡)の登記所で登記が完了していないと有効ではありません。
◆ポイント2◆
きちんと登記がされていても、指定された相続人が先に亡くなった場合や、相続放棄をした場合は、死亡時の受取人が指定されていなかった、つまりTODDが存在しなかったとみなされ、プロベートの手続きをすることになります。
TODDで指定された受取人が優先される
【事例2】
ハワイ不動産の所有者:父の単独名義
依頼者:息子
父はTODDで母をハワイ不動産の受取人として指定し、きちんと登記をしました。一方、父の遺言書ではハワイ不動産を息子に託す、と明記されていました。
そして、父が他界しました。母と息子は二次相続を考慮して遺言書を優先させ、ハワイ不動産を直接息子に相続させようとしました。
しかし、TODDが優先され、ハワイ不動産は母が相続する結果となりました。
◆ポイント3◆
遺言書で「その不動産を誰々に託す」と明記されていても、TODDで指定された受取人が優先され、相続することになります。
TODDを利用するには、委任状を用意すると望ましい
【事例3】
ハワイ不動産の所有者:父の単独名義
依頼者:娘
父は日本の不動産管理会社の創業者であり、株主でもあります。父がかつて個人で購入したハワイ不動産は、TODDで娘を受取人と指定し、登記されていました。
父が高齢になって認知症が進み、資産管理ができなくなりました。そこで、節税対策を兼ねて父の存命中に、ハワイ不動産を父が所有する不動産管理会社に譲渡することを試みました。
しかし、父は認知症のため、譲渡手続きに関わることができず、存命中に不動産を譲渡することはかないませんでした。
◆ポイント4◆
TODDが登記されていれば、所有者の死亡時にはプロベートの必要なくその不動産を相続することができます。しかし、病気などの理由で所有者の存命中に、資産管理や不動産の売却手続きができなくなった場合には問題が派生します。TODDを利用するには委任状をセットで用意することが望ましいでしょう。
カリフォルニア州は2021年1月1日廃止が決定している
TODDを利用するとプロベートを経ずに相続手続きをスムーズに進められる利点もありますが、このように細かな点で注意が必要です。また、TODDが利用できる州は限られており、ハワイ州ではTODDが一般的に活用されていますが、2016年に導入されたばかりのカリフォルニア州では、すでに2021年1月1日での廃止が決まっています。
TODDの規定は州によって異なるため、どのような形態が適しているかは専門家に相談しましょう。
参考までに、TODDが利用可能な州は以下の通りです。前述のとおり、カリフォルニア州は2021年1月1日廃止が決定しています。
・アラスカ州
・アリゾナ州
・アーカンソー州
・カリフォルニア州
・コロラド州
・ワシントンD.C.
・ハワイ州
・イリノイ州
・インディアナ州
・カンザス州
・ミネソタ州
・ミズーリ州
・モンタナ州
・ネブラスカ州
・ネバダ州
・ニューメキシコ州
・ノースダコタ州
・オハイオ州
・オクラホマ州
・オレゴン州
・サウスダコタ州
・バージニア州
・ワシントン州
・ウェストバージニア州
・ウィスコンシン州
・ワイオミング州
佐野 郁子
弁護士法人佐野&アソシエーツ 弁護士