日米間にまたがる相続財産は、両国の法律が準拠法となるため事情が複雑化します。本連載では、日米間の相続対策の基礎知識から、米国トラストを利用した資産形成や相続対策などを見ていきます。

裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続き

米国では、人が亡くなり、その人の所有資産の総額が州法に定められた一定額を超える場合、通常は「プロベート」という裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続きが必要となります。遺言書の有無に関わらず、州法の規定に従い、プロベートの手続きを経て行われます。

 

また米国内の資産に関する相続は、被相続人が米国非居住である場合も、資産が所在する州のプロベートを経て遺産分割を行う必要があります。

 

たとえば、ご自身の遺言書に「米国の不動産は長男に託す」「米国の金融資産は長女に託す」などと明記されている場合でも、プロベートは必要です。もし裁判所の手続きを経ていない場合には、実際の相続(名義変更や売却)を行うことはできません。

 

プロベートによる遺産分割・相続手続きは、日本の相続手続きとは大きく異なります。さらに、プロベートは州法に基づいて行われるため、手続きを行う州によって内容が異なることにも注意が必要です。今回は、米国の一般的なプロベートの流れについて見ていきたいと思います。

 


 
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時間・費用がかかるだけでなく、プライバシーも公に…

遺産分割の手続きは、現地の裁判所に「ペティション」という申立を行うことから始まります。遺言書がある場合には、その原本を裁判所に提出することが義務付けられています。またペティションと同時に、州法に基づく通知を遺族に行うことや、新聞広告などで債権者に対し債権回収の機会を与えることも法律で定められています。

 

プロベートの開始から約3ヶ月後には公聴会が行われ、裁判官より「アドミニストレーター」と呼ばれる遺産分割の総括責任者が任命されます。アドミニストレーターへの就任は、遺族に優先順位がありますが、米国居住者に限られます。また、身辺調査が行われ、裁判所からボンド(保証金)を収めることを要求されるケースも珍しくありません。

 

裁判所にアドミニストレーターとして認められたら、次に被相続人の遺産と債務の目録を作成し、裁判所に申請します。それを基に裁判所が遺産の価値を確認・認めたら、不動産などの資産の売却や債務の清算が行われます。また、被相続人の最後の確定申告を行い、税金の未払いがないかどうかも確認します。

 

債務の清算が済み、最終的に残った遺産を相続人に分配することになりますが、その前に裁判所で公聴会が行われ、債務や税金の清算確認と相続人の確認が行われます。最終的な遺産分割は、このプロセスを経ないと行われません。遺産分割が行われる前に、弁護士料やアドミニストレーターの報酬、その他プロベートに掛かる費用が清算されます。残ったものが相続人へと分配されます。

 

遺言書があり、かつその遺言書が裁判所に認められた場合は、遺言書で定められた人が相続人となりますが、遺言書がなかったり、遺言書が認められなかった場合には、州法に基づく法定相続人が相続人となります(日本法に基づく法定相続人とは異なります)。原則として、遺言書はその州法の規定に基づいた形式でないと認められません。

 

プロベートの手続きが完了するまでは、スムーズに行われても数年かかります。この間、遺産は全て凍結されます。不動産がある場合は管理費や固定資産税などがかかるため、出費ばかりが重なるケースも珍しくありません。

 

また、プロベートには多くの費用と時間がかかるだけでなく、個人情報や家族構成、遺産目録などが公になるため、プライバシーが一切守られません。そのため米国では、プロベートを回避する手段として 「リビングトラスト」という生前信託を用いることが一般的です。

 

 

佐野 郁子
弁護士法人 佐野&アソシエーツ 弁護士

 


 
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