物件の周辺環境の変化、急な修繕、家賃滞納など数々のリスクが潜む不動産投資。資産形成の手段として注目が集まっているものの、事前にリアルな失敗パターンを知ることは必要不可欠です。そこで本記事では、多くの個人投資家にコンサルティングを行い、不動産投資の方法を提案する、株式会社カクセイの平山智浩氏・渡辺章好氏の共著『失敗例から学ぶ 儲かる不動産投資の極意』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、不動産投資の実態を紹介します。

このままだと手持ちの現金が尽きてしまう

【事例1:資金繰りが苦しく現金が手元に残らない】

 

初めてマンションを投資用に購入しました。札幌の中古RC造マンションで、部屋は50平米以上のファミリータイプで入居率も良く、築年数は29年と少し古いのですが、外壁塗装・屋上防水済みということで、修繕費の手間がかからないと思い、購入を決意しました。

 

ところが購入してすぐに3部屋退去。退去するたびに100万円近くの原状回復費がかかります。というのも、入居者は子供のいる家族がメインとなるため、部屋の傷みが激しいのです。住んでいる年数も5年以上が多く、入居者からの負担はほとんど望めません。

 

もともと自己資金として使えるお金が300万円程度しかなく、オーバーローンで融資を受けることが条件でした。購入にはお金を使わず済みましたが、今のような状況では予定していたキャッシュフローが得られませんし、手持ちの現金が尽きてしまいます。

 

予定していたキャッシュフローを得られない
予定していたキャッシュフローを得られない


 

◆現金に余裕のない投資は破産を招く

 

資金ショートして破産する人の多くは、購入時に頭金を入れておらず、フルローンやオーバーローンを組んでいます。本来であれば属性もよく年収も高いはずですが、たまたま自宅ローンの繰り上げ返済をしたとか、子供の大学入学の費用がかかったとか、何らかの事情でキャッシュを持っていなかったケースもあります。

 

特にリスクがあるのは、不動産投資に回せる自己資金が少ない状態で、お金が貯まるのを待たずに数千万から数億円の大規模な不動産投資をスタートした場合です。もちろん、少ない投下資金で始められる不動産投資もありますが、そうした数百万円で済む小規模な投資ではなく、いきなり大規模な投資をしてしまうと、資金ショートしてしまう確率は大幅に高まります。

 

「年収1500万円くらいの投資家がわずかな現金で〇億円の資産を築いた」というブログや書籍を読んでしまうと、自分にもできるのではないかと思ってしまうのかもしれません。しかし、そのブログや書籍を書いた投資家が不動産投資を進めた市況と現在の市況も違いますし、同じ手法で同じような成果を上げるのは不可能です。もう少し資金を貯めたほうが、安全性が高いのは間違いありません。

 

資金がないからフルローンやオーバーローンを組むということが、そもそも間違いといえます。購入する不動産売買価格の2割程度は、資金の余裕があるのが理想です。

 

◆実質収入3カ月分は常にプールしておく

 

結果としてオーバーローンを受けるにしても、ある程度余裕をもった手持ち資金がなくては、安定した運営は難しくなります。シミュレーションする場合は、だいたい家賃(年間の満室の賃料)から、そのエリアで想定される年間の空室を引いたうえで、運営費も引いたNET収入を算出しましょう。そこからローンの返済額を加味して返済比率を計算します。

 

年間家賃収入-想定年間空室による家賃損失-運営費=NET

収入ローン返済額÷NET収入×100=返済比率

 

不動産投資のNET収入とローンの返済額の比率を見ると、70%を超えている人が多いようです。これがもし返済比率100%で収入と返済がトントンになると、想定外の出費や空室が出た瞬間に資金ショートしてしまいます。したがって返済比率は低ければ低いほど、安全性が高いといえます。

 

返済率が50%を切れば、それだけ安全性も高いのですが、結局、返済比率を抑えるためには頭金を入れなくてはいけなくなります。その意味で、やはり投資計画や物件によって必要な頭金の額は変わってきます。

 

良い不動産投資会社では、物件優先ではなく、お客様の投資性向や、堪えうる返済比率はどのくらいなのかの投資計画を優先して提案をしています。ここが見極めのポイントといえるでしょう。

 

例えば、先ほどの返済比率70%もそうですし、毎月20万円を給与から貯金できるというような余裕がある人であれば、80%でもいいかもしれません。別の不動産からの収入がある場合もありますので、お客様の資産背景や年間の貯蓄可能額、生活スタイルまでヒアリングして、その人にとって危なくない投資のスタイルを決めています。

 

あまりにも資金に余力のない人には、正直なところ、投資はお勧めしません。それは物件の問題でも自己資金の問題でもなく、事業として考えたときに成り立たないからです。

 

不動産賃貸業も、新しく店を開くのと同じです。新規開店する場合、もしかしたらすぐには収入が入ってこないかもしれません。そういう期間に備えて、3カ月ぐらいは持ちこたえられる資金をプールしておくべきなのです。

「借り換え」は結果論でしかないことを肝に銘じる

【事例2:業者に金利交渉できると言われたのに、実際は断られた】

 

1棟目の物件を購入する際に、売買仲介の不動産業者から紹介された金融機関から提示された金利は4%以上と高金利でした。その代わりにフルローンで長期間融資ができるということでした。

 

もっと金利の安い金融機関も紹介してほしかったのですが、審査が契約に間に合わないということで、断られたので、悩んでいると、「すぐにより良い条件の金融機関に借り換えや、金利を下げる交渉もできますよ」と業者から話もあったので、そのつもりで購入を決めたのですが、1年経った今、金融機関に金利交渉をしたところ「それはできません」と言われてしまいました。

 

交渉できるといわれたのに…
交渉できるといわれたのに…

 

◆借り換えのハードルは低くなっている

 

この人のケースのように、地方物件を購入する場合に金利が高い金融機関を紹介されて、「地方は使える金融機関が限られます。後で金利交渉すればいいですよ」と借り換えではなく金利交渉をたきつける業者もいますが、これは「絵に描いた餅」です。

 

たしかに金融機関によっては、きちんと金利交渉をすれば金利の引き下げに応じてくれることのあるところもありますが、銀行の方針が変わったり、極端な場合では支店長が代わったりすると、「これからは金利交渉には応じない」というようなこともありえます。ですから、金利交渉による金利引き下げをアテにしすぎるのは、リスクが高すぎるといえます。実際、思うように金利交渉できなかったというケースは多いのです。

 

最近の状況でいえば、ローンの借り換えで成功している投資家が増えています。私たちのところに来る相談も、2%台で借りている投資家から「1%以下で借り換えをしたいといったものが増えています。

 

2、3年前とは状況が変わり、今はメガバンクだけではなく、地方銀行でも低い金利条件で、借り換えに積極的になってきています。借り換えに成功したケースでよく聞くのは、すでに返済が何年か進んでいて、かつうまく黒字で回っているというケースです。

 

私たちもそれを利用して、借り換えをお客様に勧めることもあります。金利4%以上から、その当時でメガバンクの1%台に借り換えたという人もいます。新規で借りたいと打診したときには、総額の3割にあたる頭金を求められたのに、いったん他行で借りたものの借り換えを打診した場合には頭金を求められなかったというケースもあります。

 

このことからもわかりますが、借り換えはやはり条件的にも投資家に有利なようです。おそらく銀行の営業マンが稟議を上げやすいのでしょう。借り換え成功の条件としては、やはり黒字で回っていることが第一ですが、いろいろな要素のバランスもあるので、一概には言えません。

 

逆に一番多いトラブルは、冒頭の事例のように、借り換えを前提にして「今はとりあえずこの条件で買っておいてください」という売買仲介の営業マンの言葉を信じて物件を購入し、結果的にはまったく借り換えができないというパターンです。

 

業者が借り換えを手伝ってくれたけれど、結果的にうまくいかなかったということもあるようです。借り換えというのは結局、結果論です。「将来借り換える予定」といっても、その時点では何も約束されていません。

 

大事なのは、その人がどこに住んでいて、どのくらいの年収で、どこの不動産を買うか、借り換え希望する物件はどこにあるのか。そのバランスがうまく成り立っていれば借り換えも可能ですが、そのうちのたった一つが金融機関にはまらなかっただけで、結果は変わってしまいます。

 

また、借り換えになると、アパートローンという商品ではなく個別の案件として扱われますので、金融機関や支店によって目標や方針があるようです。

 

借り換えで他行の既存客を獲得することに力を入れている金融機関も多いので、そういう金融機関で、担当者がそのお客様に対してちゃんと向き合ってくれれば、すんなり借り換えができる可能性もあるでしょう。

 

◆借り換えは金融機関にもリスクがある

 

借り換えは金融機関側にもリスクがあります。借り換えを打診された金融機関の営業マンが頑張って稟議を通して、「この条件で借り換え可能です」と提示しても、借り換えを依頼した側がすでに借りている金融機関に「他行でこういう条件が出たから借り換えを検討する」と伝えると「うちは金利をそれより下げますよ」と言われて、結局借り換えをしないケースも多いのです。

 

そのため、借り換えを受ける金融機関側も、「この人は、自分が頑張って稟議を通したら、ちゃんとうちに借り換えしてくれるのか?」というところで人を見ている部分もあります。

 

もし「借り換えをすると繰り上げ返済の違約金を取られるから、金利引き下げの交渉カードとしてだけ使われるんじゃないか?」という疑いがある場合、借り換えを打診された金融機関もやる気が起きません。正直そうな投資家は借り換えができて、疑わしい人はできないということもありうるのです。

 

良い不動産投資会社が借り換えのコンサルに入ってうまくいくのは、もちろんいい金融機関を知っていて紹介できるということもありますが、やはり投資家と金融機関の間に入ることによって、投資家の迷い―「違約金は払いたくないけれど、金利は下げたい」という部分―を客観的に分析して、投資家の迷いを振り払い、きちんと借り換えるという着地にもっていくことで金融機関との信頼関係をつくってきたからです。

 

投資家側にだけ立ってしまい、「よく借り換えの案件を紹介してくれるけど、結局いつも元の金融機関が金利を下げてしまって、話がまとまらない」と金融機関から思われてしまうと、その金融機関との取引は難しくなってしまいます。

 

できるかできないか不確定要素の多い借り換えを目標にするのではなく、市場価格に見合った価格かどうかという点で物件の価値を見極めたほうがいいのではないでしょうか。

 

やはり人と人の付き合いなので、簡単に金融機関を金利交渉のダシに使うと、結局信用を失います。金融機関に限った話ではありませんが、金融機関も、見ているのは結局「人」です。借り換えしたとしても、ちゃんと筋を通していたり、人柄がいいとか、本当に経営者としてビジネスを考えていると評価されていれば、もう一度貸してくれることもあるでしょう。

 

みんなを仲間として巻き込んで仕事をしたほうがいいのと一緒で、不動産投資も「儲け」だけを考えるのではなく、ビジネスとしてお互いに気持ちよく動けるのが一番なのです。

 

また、実は投資家側にも借り換えのリスクはあります。借り換えるだけで、登記費用のほか、事務手数料といったコストがかかることは、盲点になりがちなのではないでしょうか。

 

金融機関にもよりますが、金利固定期間は解約にペナルティが設定されていることがあります。借りるときの条件で3年固定、5年固定というものがありますが、「その期間はがっちりつかまえておきたい」という金融機関側の気持ちがあるからペナルティをかけているわけです。

 

その期間が過ぎた後であれば、金融機関側も借り換えされても仕方がないと考えている部分もあるでしょう。それを越えてしまえば借り換えのペナルティもかからないわけですから、そこまで待つのもひとつの方法です。

 

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平山 智浩・渡辺 章好

幻冬舎メディアコンサルティング

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