終活という言葉が広く認知されるようになり、遺言書をはじめとした相続対策をする人が増えてきました。「相続したくない親族」への対処法もさることながら、「財産を渡したい人に渡せなかった」という事態は避けたいものです。本記事では、大坪正典税理士事務所の所長・大坪正典氏が、トラブル回避のために必須といえる「遺言書」の書き方について解説します。

確実に配偶者へ財産を渡したいときはどうするか

相続では生前対策が何よりも重要になる
相続では生前対策が何よりも重要になる

 

◆相互遺言で相手の財産をカバーする

 

ある夫婦が、下記の事例のような形で財産を所有しており、不動産(自宅)に関して、相互に相手に相続させたうえで、夫婦とも最後にはそれを長男に相続させたいと希望している場合にはどのような遺言書を作成すればよいのでしょうか。

 

【事例】

 

財産(建物)……夫・内田隆雄名義

財産(土地)……妻・内田藤惠名義

子供(2人)……長男・内田宇彦、長女・三条翔子

 

このようなケースで、自分が先立ってしまった場合に、確実に配偶者が財産を受け取れるようにするためには、夫婦相互遺言を作成しておくことが最も効果的な手段となります。つまり、夫と妻が別々の用紙でお互いに「自分が先に死亡したら、自分の財産は残された相手(配偶者)に相続させる」という内容の遺言をしておくのです。そのような遺言があれば、残された相手(配偶者)の実印だけで、自宅の名義変更の手続きもできるため安心です。

 

ただし、夫と妻のどちらかが死亡した場合、残された相手の遺言書は、死亡した配偶者に相続させる内容となっているので無効となります。そこでそのような事態も想定し、あらかじめ「予備的遺言」を入れておくとよいでしょう。

 

予備的遺言とは、推定相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合に備えた二次的遺言のことで、例えば「遺言者よりも配偶者が先に死亡したときは、私の財産は長男に相続させる」といった内容が考えられます(ただし、遺留分の問題が発生する可能性がありますので、遺留分を考慮した遺言を作成するか、各相続人の理解を求める付言事項を記載するなどの配盧は必要となるでしょう)。

 

なお、夫婦相互遺言は自筆による遺言ではなく、公正証書遺言を選択するほうがより安全で確実です。

 

作成する際は、必ず公証人などの専門家に相談することをお勧めします。以上のようなポイントを意識すると、事例の場合には、夫、妻はそれぞれ【記載例①】のような遺言書を作成することが考えられます。

 

【記載例①】夫の遺言書/妻の遺言書

 

◆配偶者にすべての財産を残したい

 

子供はいないものの、配偶者以外に相続人が現れるようなケースがあります。例えば、両親が存命だったり、兄弟姉妹がいるような場合です。このようなケースで、配偶者にすべての財産を与えたいのであれば、遺言書にその旨を記しておくことが必要となるでしょう。例えば、夫婦間に子供がなく、夫の親はすでに死亡しているが、夫には兄弟姉妹が2人いるような場合には、次のような遺言書を作成すればよいでしょう【記載例②】。

 

【記載例②】

 

仮にこの遺言書がなかった場合は、配偶者(妻)の法定相続分は4分の3、夫の兄弟姉妹(2人)の法定相続分は4分の1となります。

 

一方、遺言書があった場合は、配偶者(妻)がすべての財産を相続できます。また、兄弟姉妹には遺留分がありません。したがって、遺留分減殺請求権を行使されることはありません。なお、被相続人の両親が相続人となり得る場合には、遺留分がありますので、それに関する配慮が必要になるでしょう。具体的には、遺言書の中で、遺留分の権利を行使しないよう求めることが必要になるかもしれません。

婚姻関係のない相手に相続させるには遺言書が不可欠

◆内縁の妻に相続させたい

 

法的な婚姻関係にない内縁の妻には相続権がありません。したがって、自分の死後、愛する女性に財産を与えたいのであれば、遺言書を作成することが不可欠となります。他に家族がなく、すべての財産を内縁の妻に与えるのであれば、以下のような文例の遺言書を作成すればよいでしょう【記載例③】。

 

【記載例③】

 

◆戸籍上の妻と内縁の妻に相続させたい

 

また、「本妻はいるが折り合いが悪く、別居中で事実上婚姻関係が破綻している。現在、実質的な配偶者に当たる内縁関係の妻と同居中である」という人もいるでしょう。このような場合には、本妻とさらには、その間にいる子供の相続権についても配慮して遺言書を作成する必要があります。

 

相続人は戸籍上の配偶者と長男の2人で、遺言者は内縁の妻に現在の自宅を渡したいと考えているようなケースを例にして、具体的にどのような遺言書を作成すればよいのか検討してみましょう。

 

まず、遺言がなかった場合は、戸籍上の配偶者(妻)、長男にそれぞれ2分の1の相続権があり、内縁の妻は法律上の配偶者ではないため、相続権はありません。一方、下記の遺言書があった場合は、遺贈により内縁の妻に財産を残すことができます。なお、遺贈については代襲相続のような制度はありません。

 

また、法律上の妻と子は遺留分を請求することができますので、その点についても十分な配慮が必要となります。遺贈はトラブルになりやすいため、遺言執行者を指定することが大事となるでしょう【記載例④】。

 

【記載例④】

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