相続と聞くと、死を連想し、ネガティブなイメージを持つ人が多いことでしょう。しかし、亡くなったあとに大きなトラブルが発生してしまったら、後悔してもしきれません。そこで本記事では、相続をポジティブに考えられる「親族会議」を提案します。どのようなことに気を付けて開催すればよいのか、詳しく解説していきます。※本記事は公認会計士久禮義継事務所・久禮義継氏による書き下ろしです。

どうしてもネガティブなイメージが付きまとう「相続」

皆さんは「相続」という言葉から、どのようなイメージが喚起されるでしょうか? 考えられる側面を、少し列挙してみましょう。

 

●金銭面
・相続財産の分配(場合によっては、取り合い)
・相続放棄
・納税義務(相続税、贈与税など)

 

●関係者の感情
・喜楽:予想外のボーナス(相続財産)
・怒:策略にしてやられた怒りや憎しみ(争族)
・哀:金銭面ではなく、先立たれたことによる悲しみ(相続よりも大切な人を亡くした悲しみ)

 

●ビジネス面
・事業承継問題(後継者不足、廃業)

 

いかがでしょう。「予想外のボーナス」はプラスのポイントですね。しかし、全体的に見れば、ネガティブなイメージを持つ方が多いのではないでしょうか? 相続財産が人格を狂わせ、対人関係を悪化させてしまう…こんなことは、可能な限り避けなければいけません。

 

相続財産は、相続人にとって「最高のプレゼント」にも、「最悪のプレゼント」にもなりえます。ですから被相続人は、自ら所有する財産の “所有者責任”をしっかりと認識するべきなのです。
 

一般的には相続対策といえば、弁護士や税理士といった専門家が、法令の定めなどに従い、関係者の利害を調整していくものだと考えられていますね。ですが本記事では、ほかの専門家とは違った考え方を紹介していきます。

 

少しゆるいやり方ではありますが、相続がポジティブな方向へ進んでいくことを期待できる方法があります。それが「親族会議」です。相続が発生した際のトラブルを未然に防ぐ、予防的措置として考えてください。

 

相続をポジティブに捉える
相続をポジティブに捉える

「親族会議」を開く際のポイントは?

親族会議の目的自体は単純明快です。相続上、争いとなりかねない事象を整理し、可能な限り参加者間で合意することです。どこまで話が進むかは状況次第ですが、「被相続人の死後、遺産分割協議を開催すること」「相続放棄に関する合意の有無」「遺言書の公正証書化」など、相続にまつわる重要事項について合意に至ることも期待できます。

 

親族会議において重要となるのは「場の設定」です。人を集めること自体は取り立てて難しくありません。しかしながら、場をどのように作り込むかによって、結果が大きく変わることが考えられます。重要なポイントを簡単に解説していきます。

 

◆自然な形での場の設定

 

「親族会議」と聞くと、まるで『犬神家の一族』のワンシーンのような、得体のしれない思惑を感じるリスクがあります。そのため、参加することを躊躇わない大義名分があることが望ましいでしょう。たとえば、還暦、古希などの長寿祝いの一環として行うと、参加者に対する説明が容易で、参加することに対する納得感も高いと考えられます。

 

あるいは、「生前葬※1」などの名目で会を設けることも一案です。「生前葬」と説明すれば、遠い親戚であったり、あまり関係性がよくない縁戚者であっても、参加してくれることが期待できます(この場合、友人・知人を招待するのではなく、基本的には相続人だけに限るのもポイントです。友人・知人との生前葬は、必要に応じて、別途開催すればいいだけの話です)。

 

※1 「生前葬」とは、生きている間に自分の葬儀を行うことを指します。お世話になった家族や友人、知人を招き、立食パーティやカラオケパーティなど自由な方法で、直接感謝の気持ちを伝えられることが魅力です。

 

◆会の名称

 

本記事では、単純化するために「親族会議」という言葉を使っていますが、実際、このような味気ない表現はしないほうがいいでしょう。たとえば、「Aさんの喜寿を祝う会」、「Aさん 生前葬パーティー」、「A家一族の語らいの場」といった、ソフトな言い回しとすべきと考えられます。

 

◆ファシリテーターによるサポート

 

「被相続人が場をコントロールしている」と受け止められると、参加者が身構えてしまう可能性があります。そのため、会の進行をファシリテーターに依頼することが適切です。

 

なお、ファシリテーターには、顧問弁護士・税理士といった相続の専門家は避けたほうが望ましいです。確かに被相続人にとっては安心できる存在でしょうが、参加者にとっては逆に不安を抱かせたり、あらぬ憶測を招いたりするおそれがあります。

 

◆アジェンダ設定

 

アジェンダとしては、次のようにシンプルなものにしましょう。奇をてらう必要はありません。

 

1.ファシリテーターによる式の案内
2.被相続人の挨拶
3.被相続人による人生の回想
4.相続関係の手続き

 

◆具体的な進行イメージ

 

形式上「親族会議」と表現していますが、会議という形式は重視しないほうがいいです。この際、潤滑油となるのが会食です。会食を交えながら、お互いリラックスした雰囲気で進めましょう※2

 

※2 なお、「酔いのせいで正しい判断ができなかった」というような余計な争いを避けるべく、提供するアルコールは控えめにすることが望ましいでしょう(量を限定する、アルコール濃度が高くないものを提供するなど)。馬鹿げたようですが、大事なことです。

 

会食は、被相続人の挨拶の前後ぐらいから、早めにスタートすることをおすすめします。葬式のように形式にこだわる必要はまったくありません。会の最初から和やかに食事を楽しみつつ、その流れのなかで、被相続人による人生の回想を進行するのがいいでしょう。

 

また、被相続人による「人生の回想」では、プレゼンテーションビデオを投影するなど、視覚に訴える方法で情報発信することが効果的です。披露宴でよく見かけますよね。それと並行して、会の途中にエンディングノート※3を手渡すのも、心に響くことでしょう。

 

※3 「エンディングノート」とは、その名のとおり「人生の終末を記したノート」であり、その作成は「終活(自らの人生の終わりに向けた活動」の一環といえるものです。内容について決まりはありませんが、「卒業・就職・結婚・出産といったライフステージの振返り」、「家族や友人、お世話になった方への感謝の言葉」「思い出話」「最後に伝えたいこと」をはじめ、「共に過ごした時間が幸せであったこと」、「葬儀の方式(密葬、家族葬など)やお墓のこと」などを記載するのが一般的です。

 

なお、エンディングノートのメッセージは、情緒的な部分が多いですが、財産の引継ぎについて触れる場合も多くあります。しかし今回のケースでは、具体的な内容は書かず「身内で揉めることなく引き継いで欲しい」といった精神論に留めておくのが無難でしょう。

 

最後に、会の目的である相続関係の手続きとなります。ここだけは士業専門家も参加してもらい、粛々と進める努力をします。

 

この際、何をどこまで合意できるかは、様々な要素が関係していきます(被相続人と参加者との関係性、参加者間の関係性、相続人の人数、相続財産の内容・金額など)。ですから、署名押印といった手続きができなくても、「それはそれでしょうがない」と考えるべきです。

 

少なくとも、被相続人の想いというものは、会を通じて確実に伝わったはずですので、「親族会議を契機に関係性が改善する」といったポジティブな変化を期待できます。今後、実際の相続の場面において、手続きが比較的スムーズになるかもしれません。

 

以上、本記事では、相続にまつわる専門的な内容から、あえて外してみました。ちょっと小賢しい気もしないではないですが、揉めに揉めて取返しのつかない状態になるよりは、よっぽどマシです。一考の価値があるかもしれませんよ。

 

 

久禮 義継

公認会計士久禮義継事務所

代表

 

 

 

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