「あの子には内緒」の生前贈与が、後にトラブルに
「相続トラブルなんて、うちには関係ない」「うちには金はないから、相続トラブルなんて起きないよ」と思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、現実に、たくさんの相続トラブルが起きています。しかも相続トラブルの3割は、遺産額1,000万円以下といわれているので、一般の家庭でも、決して他人事ではないのです。
事情はそれぞれ異なるものの、相続トラブルには起きやすいパターンがあります。そのパターンを知っておけば、トラブルを起こさないように対応できるはずです。一つひとつ、見ていきましょう。
◆火種1 不公平かつ内緒の生前贈与
たとえば、長女と次女、2人の娘がいる場合のケースで考えてみましょう。長女は、結婚して家を建てるときに、両親から住宅資金として生前贈与を受けていました。しかし次女は、そのような生前贈与を受けていません。問題は、長女への生前贈与を次女には内緒にしていた……そのようなケースです。
「内緒の生前贈与なんだから、バレなければいいのでは?」と考えるかもしれませんが、過去の生前贈与はかなりの確率でバレます。
どのようなときに発覚するかというと、まずは、相続税の申告のとき。過去に生前贈与を受けたことがあるのなら、申告書に記載しなければなりません。そして内緒にされていた人が申告書を見て「この生前贈与ってなに?」と聞いてきて発覚してしまうのです。
また税務調査のときも、生前贈与がバレやすいタイミングです。税務調査官は家族の事情など知らないので、内緒にされている人の前で、「過去に生前贈与、受けていますよね」と確認のために聞いてきます。そして内緒にされていた人が「さっき、生前贈与っていっていたけど……」と発覚するわけです。
家族ごとに事情があるので、兄弟の片方には生前贈与をして、もう片方にはしない、ということはあるでしょう。その際には、生前贈与は内緒にしないことが、トラブル防止の第一歩になります。
◆火種2 亡くなった人との口約束
「もし私が死んだら、あの土地はあなたにあげる」と父親と約束をしていたとか、「孫が生まれたら生前贈与をする」と母親と約束をしていたなど、口約束だけして、約束をした相手が亡くなってしまうパターンです。
遺言書がなければ、本当にそのような約束がされていたかどうか、誰にもわかりません。「本当に、そんな約束したのかな?」と、他の相続人はいぶかしく思うだけです。また口約束だけでは法的な拘束力もありません。
このような口約束をするのであれば、まず、きちんと遺言書を残してもらいましょう。また生前贈与の約束をしたのであれば、約束だけでなく、実行してもらうようにしましょう。
◆火種3 遺産隠し
誰かが亡くなり、「悲しいけれど相続の話し合いをしましょう」、というときに、遺産を隠してしまうパターンです。
遺産隠しは大きく2パターンあります。まず、亡くなる前に預金からお金を引き出して、残高を低く見せるようにしたりとか、そもそも銀行口座を教えなかったりなど、「財産そのものを隠してしまう」パターンです。もう1つが、本当は1億円の価値がある土地を、「5,000万円の価値しかないよ」と低く伝えるような、「評価額を低く伝える」パターンです。
このように、亡くなった方に近い相続人が遺産額をいつわり、遺産分割協議を進めてしまうのです。
すべを鵜呑みにせず、遺産分割協議書にサインと押印をする前に、他に遺産がないのか、その評価額は適正かどうか、検討することも必要です。
介護、認知症…高齢化で増える、相続トラブル
◆火種4 親の介護をした子どもvs.親の介護をしなかった子ども
最近、特に増えているのが、このパターンです。親が認知症になってしまったケースや、在宅介護でがんばったケースなど、介護は本当に大変です。
しかし、法律的には、介護をしていても、していなくても、法定相続分は変わりません。「寄与分」という、「介護をたくさんした人は、たくさん相続できますよ」という制度はありますが、過度に期待をしてはいけません。寄与分として認められる金額は、実際に介護士にお願いした際の金額よりも、少し低い程度です。筆者が一度計算したところ、時給2,000円程度の換算でした。また、介護施設に入居している間というのは、基本的に、寄与分は認められません。
不公平感はトラブルのもとです。親に意思能力があるのであれば、多めに分けてもらえるような遺言書を作ってもらうとか、生前贈与で先に財産を分けてもらうなどして、不公平感をなくすようにすればいいでしょう。
◆火種5 認知症の方が残した遺言書
これも、最近増えているパターンです。たとえば、「遺産のすべてを長男に」という遺言書があった際に、次男が「いやいや、遺言書を作ったときには親は認知症だったじゃないか」と、遺言書の無効を主張してくるようなケースです。
遺言書には、自筆証書遺言と、公正証書遺言がありますが、後者のほうが無効になるリスクは低いです。しかし、公正証書で作っているから絶対安心というわけではありません。公証人立会いのもと作成した遺言書でも「本当の気持ちを反映していない」と無効になった判例はあります。
このようなトラブルが起きないように、遺言書を作成する前後、1ヵ月以内に、主治医から「意思能力がある」という診断書をもらっておくといいでしょう。
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橘慶太
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