相続税は、相続開始時点の現預金、株式、家屋、土地といった相続財産の評価額を算定し、その総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超える場合、原則、相続開始後10ヵ月以内に、税務署に申告を行う必要があります。相続財産のなかで、一番のウェイトを占めるのが「土地」です。土地は、評価がとくに難しいために、担当する税理士により評価額が変わることも少なくありません。そのため、土地の評価額を適正に算定できるかが、適正申告のカギとなります。本記事では、2種類の用途地域にまたがる土地を相続した事例について解説します。

2種類の用途地域に広がる所有地

都内S区在住の倉田様(仮名)は、2ヵ月前にお父様を亡くされ、複数の不動産を相続されました。申告を依頼できる税理士を探していたところ、筆者の事務所を知り、申告業務をお任せいただくことになりました。

 

今回の申告でポイントになったのは、路線価54万円/㎡の道路に面した360㎡の土地です。駅からほど近い商店街の一角にあり、賃貸マンションの敷地として利用されています。この土地について役所調査を行ったところ、ある減額要素が見つかりました。

 

役所で都市計画図を確認したところ、倉田様の土地は「容積率」の異なる2つの地域にまたがっていることが判明しました。「容積率」とは、敷地面積に対し建築可能な建物延べ床面積の割合のことです。

 

それぞれの土地に対して適用される容積率は、都市計画により定められています。都市計画法において、市街地は原則として13の地域(用途地域)に分けられ、用途地域ごとに土地の使い方や建物の建て方などのルールが定められています。

 

例えば、400㎡の土地に指定される容積率が400%だった場合、その敷地に建築可能な延べ床面積は1,600㎡となります。

 

都市計画図によると、倉田様の土地は用途地域の境目に位置し、南側の240㎡は「近隣商業地域」(近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するための地域)で容積率は300%、北側の120㎡は「第一種中高層住居専用地域」(中高層住宅の良好な住環境を守るための地域)で容積率は200%でした。

 

つまり、1つの土地ではあるものの、2種類の用途地域にまたがっていたため、容積率に差があったのです。このような状態は、実務上、「容積またがり」と呼ばれます。

 

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建築基準法に準じた土地評価を実施

このように土地が容積率の異なる2つ以上の地域にまたがっている場合、土地の全体として実際に適用される容積率(基準容積率)は面積により按分計算して求めることと、建築基準法で規定されています。したがって、この土地の容積率は約266%となります。

 

一方、正面道路に付された54万円/㎡という路線価は、その道路に接する土地の容積率が300%であることを前提として定められています。したがって、300%の容積率を全て消化できない今回のようなケースにおいて、路線価54万円/㎡をそのまま適用するのは適切ではないといえます。この場合、その土地が、容積率の異なる地域にまたがる面積はどの程度か、そして、容積率がどれほど価額に影響を及ぼしているのかを考慮し、一定の減価を行います。私たちは、この考えに基づき申告書を作成し、税務署に提出しました。

 

今回の案件を、相続税があまり得意でない税理士にお願いした場合、容積またがりを考慮せず評価を行っていたかもしれません。その場合、この土地の評価額は、筆者の事務所による評価額より約860万円上がり、約260万円も余計に相続税を支払っていた可能性があります。

 

[図表]容積率の異なる2以上の地域にまたがる土地の評価
[図表]容積率の異なる2以上の地域にまたがる土地の評価

 

現地調査のみでは、今回のような減額要素などまで把握することは困難です。そのため、適正な土地評価の実現には現地調査だけでなく役所調査も重要であるといえるでしょう。

 

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藤宮 浩

フジ総合グループ 株式会社フジ総合鑑定 代表取締役/不動産鑑定士

 

髙原 誠

フジ総合グループ フジ相続税理士法人 代表社員/税理士

 

 

 

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