限定承認をしたら相続税が軽減できる?
「限定承認」という手続きを知っていますか? 被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合などに、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ手続きです。これは相続人全員で相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
メリットとしては、「限定承認」をした場合には、相続人が把握していない被相続人の債務の存在が後から判明した場合に、その債務の支払いは引き継いだ相続財産の範囲内で行えば済むことになります。つまり、被相続人の生前の契約関係に不明瞭な部分が存在する場合には「限定承認」をするメリットがあることになります。
ただし、このメリットは民法上のものとなります。「限定承認」をした場合には、被相続人の準確定申告における所得税の取扱いについても理解をするともに、それが相続税に与える影響についても把握する必要があります。
まずは、限定承認について、一つひとつ見ていきましょう。
まず、限定承認をした場合には、被相続人は相続財産を時価で相続人に譲渡したものとして、準確定申告を行う必要があります。つまり含み益がある資産を保有していると、ここで所得税がまず課税されることになります。ただし、ここで課税される所得税は被相続人に課される所得税ということになるので、相続税の計算においては債務として控除することができます。
また、相続人の視点で見た時に、所得税の観点からは相続人は被相続人の財産を当初の購入金額や時期についても引き継ぐことになります。つまり、被相続人が3000万円で購入した資産が相続時の時価で5000万円あったとします。これは含み益が2000万円ある状態です。
この資産を普通に相続すると相続人は3000万円で購入したものとして引き継ぐことになるので、相続後に5000万円で売却すると2000万円の譲渡益が発生します。この分の所得税は相続人が負担すべき所得税となります。
一方で、限定承認の手続きがされた場合には所得税は譲渡したものとみなすので、相続人は被相続人から財産を時価で購入したものとして取り扱うことになります。つまり、時価が5000万円であれば、5000万円で購入したことになりますので、相続後に5000万円で売却できたとして、相続人において所得税は発生しないことになります。
「単純承認」か「限定承認」か…相続税額を比較
実際に、限定承認により相続税の負担を抑えることができた事例を見ていきましょう。まず、相続の状況は以下の通りです。
[相続人]長男B氏 次男C氏
[相続財産]預金1億円、不動産:相続税評価額5000万円、取得価額2000万円、時価1億円
なお、不動産譲渡の際の所得税率は、便宜上20%(所得税15%、住民税5%)として計算します。
①通常の相続+相続人が時価で不動産を譲渡した場合
上記のケースで通常の相続があったものとして、所得税と相続税の計算をすると下記の通りとなります。
《相続税》
●課税価格 1億円+5000万円=1億5000万円
●基礎控除 4200万円
●課税財産 1億800万円
●相続税額 1840万円
《相続人の所得税》
●(時価1億円-取得価額2000万円-取得費加算600万円※)×20%=1480万円
※ 相続した財産を一定期間内に相続人が売却した場合には、相続税を相続財産した財産の取得価額に加算することができます。
相続税額1840万円+相続人の所得税1480万円で、合わせて税負担は3320万円となります。
②限定承認+相続人が時価で不動産を譲渡した場合
上記のケースで今度は限定承認があったものとして、所得税と相続税の計算をすると下記の通りとなります。
《被相続人の所得税》
●(時価1億円-取得価額2000万円)×15%※ =1200万円
※ 被相続人が亡くなられた年の所得には住民税が課税されません。
《相続税》
●課税価格 1億円+5000万円-1200万円=1億3800万円
●基礎控除 4200万円
●課税財産 9600万円
●相続税額 1520万円
《相続人の所得税》
●課税されないので計算を割愛します。
被相続人の所得税1200万円+相続税額1520万円で合わせて税負担は2720万円となります。
◆まとめ
上記の例では、限定承認をしたケースは通常のケースと比べて、600万円程税負担を軽減できたことになります。これは、実際にあった事例です。
ただし、逆に限定承認があった場合には、相続人が相続時に時価で不動産を取得したものとして取り扱うので、不動産を短期間で売却する場合は、「短期譲渡」に該当し、税率が高くなる可能性もあります。
他にも取扱いが異なる点もありますし、条件が変わると結果が変わることもありますので、必ずしも限定承認のほうがが税負担の上で有利ということではないことを、くれぐれも留意してください。
実際に検討される場合には、必ず税理士に相談されることをおすすめします。
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