ハイパーインフレ時に「財産税」を課すつもりか
マイナンバー制度の本当の目的は、財産税課税(=「お国のための財産拠出」)の準備ということにあります。また、通常の所得税や消費税の課税強化(課税の捕捉率の向上)ということも目的のひとつです。
マイナンバー制度の議論になると、必ず出てくるのは「個人情報漏洩に対する対策は万全なのか? それが確認できる前にマイナンバー制度を実施するのは問題だ」という意見ですが、これは技術的なことを懸念しているわけです。「個人情報漏洩が心配だから、マイナンバー制度には反対」といった意見は、本質的な議論ではありません。本質は、「なぜマイナンバー制度なのか」という目的論にあるのです。
マイナンバー制度というのは、「納税者番号制度導入の是非」という論題で、少なくとも30年以上前から議論されていたのですが、昔は技術的な限界がありましたし、富裕層からの根強い反対があり、導入されずに今日に至っているのです。それが、2015年に入って、いきなりというか、にわかにというか、粛々とマイナンバー制度の導入が進められ、国民的な是非の議論を行なわず、導入されることになりました。
日本政府は現在、アベクロ体制によってインフレ政策を推し進めています。比較的高めのインフレが実現すれば、国家の債務はインフレ率の分だけ棒引きにできますから、それを政府は狙っているわけです。
そして、もしこの一連のインフレ政策の舵取りを失敗して、ハイパーインフレになってしまったら、国民に財産税を課してハイパーインフレを収束させなければなりません。そのため、政府は慌てて、マイナンバー制度を導入することにしたのです。
正直、社会保険や年金の一元管理はどうでもよくて…
マイナンバー制度を導入することによって、国民一人ひとりの財布の中身は、国に対して丸裸にされます。所得税・法人税・相続税・消費税といった国税は徴収が非常に厳格になるでしょうし、国民に財産税を課すための基礎資料を国がしっかり把握することができるようになります。国家による管理経済ですね。
マイナンバー制度導入後には、徐々に国民の保有資産がマイナンバーに登録されていくわけです。個人の資産というのは、会計学上、概ね次のような項目が挙げられます。
主なものは、現金・預金・有価証券・貸付金・建物・土地・車両です。それぞれ次のようにしてマイナンバーに登録されていくと思われます。現時点ではマイナンバーの登録事項ではないものも徐々に範囲が拡大され、最終的にはこうなるだろうという予想に基づいて述べていきます。
新円切り替えを行ない、タンス預金をあぶり出します。現行のお札は旧札となり、交換比率は1対1とするが、切り替え後、旧札は無価値とすることにすれば、タンス預金は一旦すべて銀行預金にせざるを得ません。手元の旧札を銀行に持っていって、預金してから新札で現金を引き出すと、一旦、現金の有り高が通帳に記帳されるわけですから、現金の有り高は把握できてしまいます。しかも、新円切り換えの期間を、たとえば2024年6月1日から同年の8月末日までといった短い期間に設定してしまうでしょう。そして、その期間の通帳残高をチェックすれば、タンス預金がいくらあったのかを把握できるわけです。
銀行預金にはマイナンバーがふられて、金額がすべて把握されます。
すでに、証券会社の口座にもマイナンバーがふられており、保有する有価証券や預託金の金額がすべて把握されます。
貸付証書にもマイナンバーがふられて、金額がすべて把握されます。「マイナンバーがふられていないものは債権としては無効」とされれば、貸付金を持っている人は必死になってマイナンバーを割り付けるでしょう。
登記簿から情報を集約して、マイナンバーの登録事項にされます。
車検証から情報を集約して、マイナンバーの登録事項にされます。
以上のようなわけで、マイナンバー制度を導入すれば、国は比較的簡単に現金以外の財産や保有資産を一括で把握することが可能になります。マイナンバー制度を導入したうえで、新円切り替えを行なえば主だった個人資産はすべて国に把握されてしまうわけです。マイナンバーは第一義的には、納税の適正化のためのものですから、周知のように、すでに納税申告書にもマイナンバーがふられています。
なお、社会保険や年金もマイナンバー制度の下で一元管理されることになるでしょうけれども、政府としてはそれらのものはどうでもよくて、オマケみたいなものだと思います。とにかく、マイナンバー制度の本音の目的は「国民の保有資産額を把握すること」なのです。
そして、個人の負債(住宅ローン・車のローン・その他の借入金)を申告させれば、国民各人の「純資産」が明らかになります。この「純資産」こそが、財産税課税(=「お国のための財産拠出」)の対象額となるのだろうと予想されます。ここで、「純資産」の概念を説明するために、会計学上の貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)というものを簡単に書きますと、以下のようになります。
マイナンバー制度によって、国民が保有する総資産の額は丸裸にされ、国に把握されてしまいます。
しかし、「総資産」の額に対して財産税を課税してしまうと、総負債の多い人は納税原資がありません。極端に言えば、「1億円の家を持っているけど、全額ローンで買った人」は、総資産は1億円ですが、「純資産」はゼロです。総資産に対して課税すると、この1億円の家を全額ローンで買った人には、支払えないほどの重たい負担がかかってしまうので、純資産をベースに課税するしか方法はないはずです。
このように、負債の部分も把握してもらわないことには適正な課税はできないはずです。家を全額ローンで買ったとしても、固定資産税は減免されません。そこにさらに、財産税を総資産ベースで課税してしまうと、さすがに国民が悲鳴を上げて、暴動になるかもしれません。ですから、財産税の課税は「純資産」に対する課税ということになるだろうと予想されます。「純資産税」という名前になるのかもしれません。
榊原 正幸
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授