アベノミクスが実施されてからすでに7年の歳月が経過しました。当初より、その目的や効果については様々な分析がなされ、また実際に、一定以上の効果が出ているように見えます。ここでは、会計学の専門家の観点から現在の日本政府の目的を推察しつつ、個人の資産を防衛する術を考察します。本記事は、『大学教授が考えた「科学的投資法」 株は決算発表の直後に買いなさい!』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

国債の買い支えがなかったら、今頃日本経済は焼け野原

それでは最初に、アベノミクスの本当の目的について書いていきたいと思います。アベノミクスは2012年12月に始まりました。2019年12月の時点で7年が経過しており、これまでに数多くの賛否両論が展開されてきました。私も、アベノミクスの本質について、ずっと色々な角度から考えてきました。ここでは、アベノミクスが「良いものか悪いものか」の議論はしませんが、アベノミクスの本質、というか、本当の目的について喝破したいと思います。

 

アベノミクスの本当の目的は、「国債の買いオペ(いや、実質的な『引き受け』)をすること」だと私は思うのです。実質的には、「国債の日銀引き受け」です。それによって、日本の国家財政を破綻させないようにすることがアベノミクスの第1番目の目的なのです。

 

今、日銀がやっていることは、実質的な意味では、日銀法で禁止されている「国債の日銀引き受け」です。表面的には、発行された国債は一旦、民間銀行が買いますが、すぐに市場に売りに出され、それを日銀が大量に買っています。これだと実質的には「国債を日銀が引き受けている」ということですよね。

 

政府はアベノミクスによって、日本の国家財政の破綻を回避するために、「国債の日銀引き受け」をしたかったのです。そうすると、日本経済においてマネーが溢れますから、結果として円安になります。円安になれば、企業業績が改善しますから、株価が上昇します。

 

でも、アベノミクスの第1番目の目的(真の目的)は、円安にしたかったのでも、株高にしたかったのでもなく、日本の国家財政を破綻させないようにしたかったのです。「そのために国債を買い支えたかった」というのが唯一にして最大の目的であり、円安や株高は結果でしかないのです。安倍内閣は「日本経済の破綻を回避する」ということを政治的な最優先課題にしたのだと思います。

 

それは国民を守ることですから、政治的正義でしょう。

 

アベノミクスは、「3本の矢」(金融政策・財政政策・成長戦略)を主張してきましたが、矢は1本しか放たれていません。第1の矢である金融緩和だけは大規模にやってきましたが、財政出動は最初だけ、成長戦略にいたっては、骨抜きもいいところです。これでは「結局、アベノミクスは、金融を大規模に緩和して国債を買い支えたかっただけだ」というのがバレバレです。

 

アベノミクスに関してはあまりにも色々な角度から分析が可能なので、これまでに色々な説が出回っていますが、この「アベノミクスは、日本の国家財政を破綻させないようにするために、『国債の日銀引き受け』をしたかったのだ」という本質論だけは、あまり大きな声で語られていません。これがアベノミクスの真の目的であることがばれてしまっては、市場が日本国債に過度な危機感を持ってしまい、国債が大暴落してしまうので、政府としてはこのことがわからないように色々と脚色しているのではないかとすら思えます。

 

アベノミクスは当初から「3本の矢」を掲げてきましたが、本当は「国債の買いオペ」という1本の矢を放つことが目的だったと私は考えています。

 

また、日銀(黒田総裁)は、「2年で2%のインフレ率」というのを目標として高々と掲げましたが、それも「(国債の日銀引き受けをすれば、)結果としてインフレになるだろう」というだけであって、完全に目くらましだと思います。

 

だからこそ、2013年4月の日銀バズーカから2年経った2015年4月の時点で、インフレ率が2%はおろか、ほぼ0%だったにもかかわらず、「そんなこと関係ない」といったような態度です。本音では、インフレ率なんかは目標でもなんでもなく、どうでもよかったのです。政府は日銀と一緒になって、国債を買い支えたかっただけなのですから。

 

ちなみに、政府が日銀と協力して、2013年4月からアベノミクス政策を実施し、国債を買い支えていなかったら、今頃、日本は財政破綻となり、国債は暴落して日本経済と世界経済はパニックに陥っていた可能性が高かったのです。

 

しかし、アベノミクス政策による国債の買い支えによって日本は財政危機に陥らずにすんでいます。安倍総理は「アベノミクス、この道しかない」と言いましたが、まさに「この道しかなかった」のだと思います。アベノミクス政策による国債の買い支えをやっていなかったら、今頃、日本は経済的に焼け野原だったでしょうから。

 

財政破綻を延命するも、ハイパーインフレのリスクが…

しかし一方では、世界の経済史をひもといてみると、中央銀行による国債の引き受けを大量に行なった国は、例外なくハイパーインフレに見舞われています。ハイパーインフレになった例としては、第2次世界大戦後のドイツや日本、そして最近ではジンバブエ・ブラジル・アルゼンチンなどがあります。アベノミクス政策によって日本政府は、日本が財政破綻をするのを延命しましたが、その代わりにハイパーインフレになるリスクを採ったのだと思います。

 

それと、もうひとつ、アベノミクスの第2番目の目的は、インフレを起こさせることなのです。それによって、国家債務の実質的な価値を低減させられるからです。そして、日本で最大の債務者は、誰あろう「日本政府」なのです。

 

インフレになれば、資産価格は膨張しますが、債務残高は膨張しません。だから、債務を棒引きにしたければ、インフレにするのが一番手っ取り早いのです。実際に、日経平均株価も不動産価格も、かなり上がってきています。

 

近い将来、もしかしたら日本にも起こるかもしれないハイパーインフレについて上述しましたが、実は政府は、そのこともお見通しというか、むしろ、確信犯なのではないかと思います。「ハイパーな(=年率で100%とか1,000%とか、それ以上の超高率な)」インフレになると、経済も国民生活も混乱しますから望ましくはないのですが、「ハイな(たとえば数年で数十%~100%くらいの)」インフレであれば、政府は、「それを望むところだ!」といったところでしょう。政府としては、アベノミクスを続けることで、数年で数十%~100%くらいのインフレが起きてくれれば理想的で、できれば、数年で100%のインフレになってくれれば、200%に達している対GDP債務比率が100%にまで圧縮されるので、万々歳といったところなのだろうと思います。

 

しかし、これはかなり危険な綱渡りであると思います。一触即発、いつハイパーインフレになってもおかしくはありません。

 

ちなみに、政府は、「最悪の場合は、ハイパーインフレもやむなし」と思っているでしょう。ハイパーインフレになってしまった場合には、後述するように、「国民の財産を召し上げればいい」と考えているからです。

 

ここで、われわれ国民にとって重大な問題は、インフレ政策と同時並行的に粛々と施行された、「マイナンバー制度」です。政府としては、インフレ政策が失敗したときの尻ぬぐい策として、マイナンバー制度をやっておこうと考えているのです。そこで次回は、マイナンバー制度について書いていきます。

 

 

榊原 正幸

青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授

 

大学教授が考えた「科学的投資法」 株は決算発表の直後に買いなさい!

大学教授が考えた「科学的投資法」 株は決算発表の直後に買いなさい!

榊原 正幸

PHP研究所

買い時、売り時が一目でわかる! あとは科学的に導かれた「有望株」に投資するだけ。投資歴30年の会計学教授が出した、科学的投資法の結論を紹介。 日々、乱高下する株式市場、私たちは何を頼りに投資すればいいのでしょう…

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