すべての財産が「遺産分割の対象」になるわけではない
遺産分割を行う際、すべての財産が遺産分割の対象の資産に該当すると思っている方もいらっしゃると思います。しかし、それは誤解です。もちろん、預貯金や不動産、株式など遺産分割の対象となるものもありますが、実は相続人で分割することができない財産というものあるのです。ここでは、遺産分割を行う際に問題となりかねない資産について、いくつか紹介していきます。
●生命保険金
まずは生命保険金について説明しましょう。生命保険契約をしている方の大半は、保険金の受取人を指定していると思います。受取人として指定された人は、被相続人が死亡すると、死亡保険金を受け取れる権利が発生します。受取人は保険契約に基づいて固有の権利として保険金請求権を取得しますので、生命保険金は遺産分割の対象外となります。
しかしながら、保険金の受取人の指定をしていなかった場合や、保険金の受取人が被相続人よりも前に死亡した場合は、保険会社の約款等で受取人の規定が示されている場合を除き、被相続人に支払われるような扱いになるため、保険金請求権を相続人が相続したとして、遺産分割の対象となるのです。
以前、遺産分割の案件で、依頼者の妹であるAさんが、認知症で意思能力がないお父様に生命保険を契約させ、預貯金等の財産を全て引き出し保険料の支払いに充てたうえで、保険金の受取人として自身を指定していたケースがありました。
幸いお父様がご存命だったため、意思能力のないお父様に代わって財産を管理してくれる後見人の申立てをしたことにより、生命保険の解約をすることができましたが、亡くなったあとに発覚した場合は、裁判をおこし、意思能力がないうえでの契約が無効であることを争わなければならず、長期化は免れなくなっていたでしょう。
●死亡退職金
次に、死亡退職金について説明しましょう。死亡退職金は、被相続人が会社から受け取る予定だった退職金のことを言います。
ちなみに、死亡退職金は被相続人の生前の勤務状況によって呼び名が変わり、一般的な企業の従業員の場合は「死亡退職金」、企業の役員の場合は「死亡退職慰労金」、公務員の場合は「死亡退職手当」と呼ばれています。
〇死亡退職金、死亡退職慰労金
死亡退職金や死亡退職慰労金の場合は、生命保険と同様で受取人を指定している場合が非常に多く、遺産分割の対象外となる可能性が高いです。
また、血縁関係の有無よりも、働いていた人に生計を支えられていたか否かを重視する傾向にあるため、仮に受取人を指定していない場合でも、会社にて受取人の規定や順位が定められている可能性が非常に高く、この場合も受取人の固有の権利となるため、遺産分割の対象外となります。
しかし、規程等にも受取人の定めがない場合は、生命保険同様、死亡退職金の請求権を相続人が相続したとして、遺産分割の対象となることも十分に考えられるでしょう。
〇 死亡退職手当
死亡退職金の中でも、一般企業の退職金と違うのが、公務員の場合である死亡退職手当です。
死亡退職手当に関しては、国家公務員退職手当法によって定められています。この国家公務員退職手当法は、受給権者を遺族とした上で受給権者の順位等を法定しており、遺産分割の対象になることはありません。また、地方公務員に対する死亡退職手当も、国家公務員退職手当法と同様の内容で定めている場合は、対象にはならないのです。
●確定拠出年金(401K)
最後に確定拠出年金(401K)について説明しましょう。そもそも確定拠出年金とはどのようなものなのでしょうか。
確定拠出年金は、国や企業が将来もらえるであろう年金額を約束している確定給付年金(国民年金や厚生年金、企業年金)とは違い、加入者自身が資産を運用する年金です。
確定拠出年金の死亡一時金は、生命保険金や死亡退職金と同じく、あらかじめ受取人を指定していた場合、遺産分割の対象とはなりません。
受取人の指定が無い場合は、確定拠出年金法にて定められた受給権者の順位で受取人となります。
例えば、ある案件では、独身であった被相続人は受取人としてお母様を指定していましたが、被相続人が亡くなる少し前に、受取人であるお母様が亡くなられてしまいました。この場合は、確定拠出年金法の順位によって兄弟が受取人とされ、兄弟が死亡一時金を受け取ることができます。
受取人によっては「特別受益」と見なされることも
上記で解説した生命保険、死亡退職金、確定拠出年金は、状況によって遺産分割の対象となるか否かが変わってきます。
ちなみに、受取人は、特定の人物にだけ財産が支払われている事実を「特別に多くの利益」として見られてしまうと「特別受益」として扱われ、遺産分割の際に分配額を調整される可能性がありますので、注意する必要があります。
なお、確定拠出年金の死亡一時金は、被相続人の死後5年の間請求が行われなかった場合、受け取るご遺族がいないものとされて相続財産とみなされるため、遺産分割の対象となります。
さらには、生命保険は契約者の死亡から3年、死亡退職金は請求をすることが可能になった日(会社の規定による)から5年が過ぎてしまうと、請求権が消滅してしまうため、請求することもできなくなってしまうのです。
どちらにしても、受取人は早めに請求をするように心がけましょう。
稲葉 治久
稲葉セントラル法律事務所 弁護士
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