東京地裁は「不動産鑑定評価額を時価とすべき」と…
令和元年11月19日の日本経済新聞朝刊に『相続財産の算定評価基準「路線価」否定判決に波紋』という衝撃的な見出しが出ました。令和元年8月末に東京地裁の判決で「路線価に基づく相続財産の評価は不適切」というものです。
そもそも相続財産の評価ついては「時価」が基準となります。ところが一般的に土地の評価については、この時価が一概に適正なものかどうかを納税者側が判断できるものではないため、国税庁が定めた財産評価基本通達に定められた方式に基づいて行ってきています。つまり、路線価がついている土地については路線価をもとに評価計算を行い、路線価がついていない土地については固定資産税評価額を基に評価計算をするというものです。
ただし、特殊な地形や利用状況から国税庁が定めた方式で計算すると高額になり不合理だという場合には、納税者側の判断で不動産鑑定評価額をもとにして相続税申告をするというのが従来の実務上の慣行でした。すなわち、鑑定価額を利用するのは路線価を下回っているような場合で、納税額を少なくする方向にするためのものでした。つまり、土地の評価については、まず国税庁方式ありきというのが従来の慣行です。
ところが今回の東京地裁の判決では、路線価方式で評価した金額と不動産鑑定評価額を比較すると、不動産鑑定評価額の方が路線価方式の評価額の4倍の価額(12億7300万円)となっており、不動産鑑定評価額を時価とすべきという、今までにはない考え方が示されました。
国税当局が抜いた「伝家の宝刀」で実務は困った状況に
今回のケースはどのようなものだったのでしょう。2012年に死亡した男性が購入した東京と川崎のマンション2棟の評価が問題となりました。2棟合計の購入価額は14億円弱、この路線価方式での評価額は3億3000万円です。おそらく銀行ローンを組んで購入しているでしょうから、土地などのプラスの財産額よりマイナスの負債などの金額が多いことになり、課税される相続財産はゼロということで節税を図ったということです。これらの節税方法は、従来一般的にとられてきたもので、納税者側もまったく疑問も抱かなかったことでしょう。
なぜ、今回のケースが問題とされたのかは明らかとなっていませんが、いろいろな事情が絡んでいるように思います。今回の判決では「特別な事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価することが許される」と指摘されています。「マンション購入した不動産取引が、近い将来に発生することが予想される相続で相続税の負担を軽減したり免れたりする取引であることを期待して実行された」と認定され、路線価方式での評価が否認されてしまったということです。
ただ、父親が高齢になってきて相続税の節税をしたい場合には、銀行ローンを組んで不動産を購入するという方法は普通に行われてきた取引ですから、今後の節税には注意が必要かもしれません。当然、相続人はこの判決を不服として控訴していますので、今回の東京地裁の判決が確定というわけではないということも頭に入れておきましょう。
国税当局は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という総則6項(財産評価基本通達 第1章総則6項)を適用したということです。そもそもこの規定は、税法や税務当局の通達が、当初想定していなかった悪質な租税回避行為を摘発して、課税の公平を確保することを狙ったものです。ただ、どのような場合にこの規定が適用されるのか納税者側には知ることもできないので、国税当局によって「伝家の宝刀」ともいえる規定を持ってこられてしまいましたので、実務的には困った状況が発生してしまったとも言えます。
ただ、考えなくてはいけないのは、この判決が独り歩きして単純に路線価方式での評価だけではだめなのかということです。今回は、路線価と不動産鑑定評価額が4倍のかい離があったということでしたが、3倍ならば路線価でもいいのか、相続開始のどのくらい前であれば路線価でもいいのか、など疑問が生じるところですので、今後の控訴審の判決の行方が注目されるところです。
梅田 泰宏
梅田公認会計士事務所 所長
税理士法人キャッスルロック・パートナーズ
公認会計士・税理士
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