認知症高齢者をそそのかして「遺言書」を…対抗策はあるか?

家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。もし家族が亡くなったあとに、あまりにも不自然で、疑念の残る遺言書が出てきたら…。なす術もなく、その内容に従うしかないのでしょうか? 本記事では、遺言書の内容に対抗する措置について解説します。※本記事は、稲葉セントラル法律事務所の稲葉治久弁護士の書き下ろしによるものです。

認知症の高齢者をそそのかし、利用する事例が多発

少子高齢化が問題視されている昨今、厚労省が発表した推計では、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者世代を迎える2025年には、65歳以上の高齢者のうち約5人に1人が認知症を発症するといわれています。

 

だれにとっても他人事ではなくなっている「認知症」の問題ですが、この病気であることを利用し、判断能力が低下して状況を把握できていない高齢者をそそのかし、相続人のうちのひとりが自身に有益なように遺言書を作成してしまう事案が増えてきています。

遺言書を出されたら「泣き寝入り」しかないのか?

「亡くなるまで、周囲の家族はだれもが遺言書の存在を知らなかったんです…」

 

相続案件では、このようなご相談をよく耳にします。


とくに独身の方の場合は、日々をともに過ごす家族がおらず、状況の変化に気づくことが遅れることが多いため、故人が亡くなるまで遺言書が作成されていた事実を周囲の親族が把握していなかったとしても、決して不自然ではありません。

 

ましてや、故人が認知症だった場合、遺言書を作成した事実や、だれかに作成を強要された事実を覚えていない可能性もあるため、常に一緒にいない限り、遺言書の存在をわかりようがないケースは多いと思います。

 

ドラマなどで、人が亡くなった際に、弁護士が印籠のように遺言書を持って登場するシーンがよくありますので、「遺言書=絶対」という印象を持つ方は非常に多いと思います。しかし、なすすべがないと思って泣き寝入りしてしまうと、故人の意思とは反した遺言書をもとに、今まで築き上げてきた財産が遺贈されかねないのです。

 

では、認知症の状態で作成した遺言書は無効にできないのでしょうか。


ここで重要なポイントとなるのが「意思能力」の有無です。認知症だから確実に意思能力がないとは言い切れません。遺言書を作成した時点で、遺言書を自分の意思として残せるほどの状態であったのかが問題なのです。

 

遺言書が無効であることを認めてもらうには、裁判を起こし、認知症の程度がどの程度であったのかを医師からの診断書を提出することで示したうえで、遺言書の内容を判断できるほどの意思能力がなかったことや、遺言書を作らせたとされる相続人との関係と内容との合理性等を主張し、「意思能力」がなかったことを証明する必要性があります。

 

ここで遺言書を作成した時点で意思能力がなかったことが認められれば、遺言書が無効であることが証明されるのです。

 

「遺留分侵害額請求権」もある

仮に、意思能力があったと判断されて遺言書の効力が認められてしまった場合でも、諦めるのはまだ早いです。

 

相続人には遺留分を請求できる「遺留分侵害額請求権」が残されています。遺言書の効力をもっても、遺留分を侵害することは出来ないのです。この事実は、法律上でもはっきり明示されています(民法902条1項)。

 

しかしながら、あくまでも遺留分侵害額請求権が優先されるというだけであって、遺留分侵害額請求をしなければ、遺留分を侵害する遺言が有効となってしまいます。遺留分侵害額請求権は対象になることを認識した日から1年間の間に権利を行使する必要がありますので、権利が消滅する前に対応するように注意しましょう。

意思能力があるうちに、公正証書遺言を残すのが確実

被相続人が、自分の意思のまま財産を分割するためには、

 

「意思能力がしっかりしているうちに、遺言書を残しておく」

 

これがいちばんの方法です。

 

しかし、ただ遺言書を残せばいいわけではありません。亡くなってからパソコンのなかに遺言書を見つけたなどというケースがありますが、この場合は自筆でなく、だれが作成したのかはっきりしておらず、遺言書の存在を保証するものもないため、残念ながら無効になってしまいます。

 

遺言書には大きく分けて、「普通方式遺言」と「特別方式遺言」があります。特別方式遺言は事故などで身体に危険が迫っているときに利用できるものとなりますので、ほとんどの場合に用いられる遺言書は普通方式遺言となります。

 

普通方式遺言には「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、今回はそのなかでも公正証書遺言について説明しましょう。

 

公正証書遺言は、2人の証人が立ち会いし、公証人が遺言者から遺言の内容を聴きながら作成する遺言です。

 

遺言者が自身で作成する自筆証書遺言や、遺言者が自身で作成した遺言を公証役場に持ち込んで遺言書の存在を保証してもらう秘密証書遺言にくらべて、専門家である公証人が執筆して作成する公正証書遺言は、内容に不備が生じる可能性が非常に低く、ほかの2つの方法にくらべて作成した遺言が無効になってしまう可能性が少ないのがいちばんのメリットです。

 

ほかの2つの方法にくらべて作成に時間がかかってしまいますが、作成した遺言書が公証人役場で保管されるので、偽造や紛失のリスクがなく、作成時に意思能力を確認したうえで作成をしますので、何かあった場合でも遺言書の有効性を示す大きな材料となります。遺言書を残す方法としては、いちばん確実な方法であるといえるでしょう。

 

相続の問題は、こじれてしまうと解決するまでにかなりの時間がかかってしまうケースもあります。家族ないし親戚が多く、相続人の数が多い場合はなおさらです。

 

残された家族や親戚が揉めることなく、自分の意思をしっかりと反映させて遺産を相続してほしい…。そう思うならば、遺言書の作成も含め、「終活」をしておくことが必要不可欠なのです。

 

 

稲葉 治久

稲葉セントラル法律事務所 弁護士

 

 

稲葉セントラル法律事務所
東京弁護士会 代表弁護士

1976年茨城県生まれ。江戸川学園取手高校卒業。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。青年海外協力隊員としてアフリカ・ジンバブエでボランティア活動。関東学院大学法科大学院卒業。平成24年弁護士登録都内大手法律事務所勤務。平成28年7月より稲葉セントラル法律事務所を開設。メディアへの出演・法律監修多数。

著者紹介

連載家族が集まる年末年始だから本気で考えたい!「相続」特集 ~2020

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