相続税は、相続開始時点の現預金、株式、家屋、土地といった相続財産の評価額を算定し、その総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超える場合、原則、相続開始後10ヵ月以内に、税務署に申告を行う必要があります。相続財産のなかで、一番のウェイトを占めるのが「土地」です。土地は、評価がとくに難しいために、担当する税理士により評価額が変わることも少なくありません。そのため、土地の評価額を適正に算定できるかが、適正申告のカギとなります。本記事では、借地権設定契約を結んだ土地の評価事例を紹介します。

「借地権設定契約」は複雑

東京都K市在住の鈴木様(仮名)は、3ヵ月ほど前にお母様を亡くされ、土地や建物、お母様が代表を務める同族会社(※1)の株式等を相続することになりました。相続税の納付に不安を覚え、懇意にしている保険会社の担当者に相談したところ、筆者の事務所を紹介され、申告業務をお任せいただくことになりました。

 

鈴木様のお母様は生前、A土地についてご自身と同族会社(B社)との間で借地契約を結び、同族会社名義で建物(C建物)を建てて、テナント経営を行っていました。

 

(※1)同族会社…会社の株式または出資金額の一定割合以上を親族等、同族関係者が所有している会社のこと

 

他人の土地に建物を建てる場合、当該土地に建物の所有を目的とする賃借権、つまり「借地権」を設定し、建築を行う方法が考えられます。

 

借地権設定契約を結ぶと、貸主は、その土地を貸す対価として、「権利金」もしくは「相当の地代」(※2)の収受を借主に求めることとなります。

 

この契約で注意しなければならないのは、個人が貸主で、法人が借主の場合、当該土地について、権利金や相当の地代の収受がないと、貸主から借主に借地権が贈与されたものとして、借地権の価額に相当する受贈益が借主に認定課税されてしまう点です(借地権の認定課税)。

 

ただし、この場合であっても、当該個人と法人が連名で、将来、その土地を無償で個人に返還することを約した「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出している場合は、借地権の財産的価値はないものとして、借地権の認定課税は行われません(土地の無償返還に関する届出制度は、個人が同族法人の役員を務めるなど特殊な関係下において、当該個人と法人が借地権設定契約を結ぶことを想定して設けられました)。

 

鈴木様の場合、借地契約締結後、「土地の無償返還に関する届出書」を提出しており、この点はとくに問題ありませんでした。

 

(※2)「権利金」は、借地権の設定の対価として借主から貸主に支払われる一時金をいう。通常、権利金を収受した場合に底地権の対価として、固定資産税の3倍以上の地代を、借主は貸主に支払うことになる。これを「通常の地代」という。「相当の地代」は、権利金を一切収受せずに、土地全体を地代の支払い対象として、土地の更地価額に対して十分な運用利回りが確保されるよう設定される地代をいう。一般的に、第三者間では権利金方式、同族関係者間では無償返還の届出書の提出と通常の地代を組み合わせる方式が採用される。

 

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賃貸借か、使用貸借か?

「土地の無償返還に関する届出書」を提出した場合、その土地の借地契約が「賃貸借契約」「使用貸借契約」のどちらかで、貸主である個人に相続が発生した場合の土地の評価方法が変わってきます。

 

まず、「賃貸借契約」の場合、課税時期において、その土地は「貸宅地」として自用地価額の80%相当額で評価します。一方、「使用貸借契約」の場合は、自用地として評価します。

 

土地の使用貸借の定義について、「相続税関係個別通達」では、「土地の借受者と、所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないもの」と例示しています。

 

土地の公租公課とは、主に「固定資産税」「都市計画税」を指しており、この記述から、借主から貸主に支払われる毎年の地代が、その土地の固定資産税等の年額以下の場合は使用貸借契約とされます。

 

それを上回る場合、賃貸借契約であるかどうかは、明確な規定がありません。そのため、税務署に賃貸借契約と認めてもらおうと、毎年の地代を固定資産税等の年額の2倍から3倍程度に設定する例が実際には多く見られます。鈴木様の場合、B社がお母様に支払っていた地代は、A土地の固定資産税等を大きく上回る金額で設定されていました。このことから、A土地は「貸宅地」として評価することが適正と考えられました。

「株式の評価」を見直す

お母様は同族会社の代表であり、その会社の株式を所有していました。このお母様の株式を、同族関係者である鈴木様が取得される場合、同族会社の株式の価額は、当該会社の保有する総資産から負債等を引いた「純資産価額」を基礎として計算されます。

 

ところで、先ほど「土地の無償返還に関する届出書」を提出していて、借地契約の形態が「賃貸借契約」の場合、相続が発生すると、貸主である個人の土地は、自用地価額の80%相当額で評価することを述べました。その個人が役員を務める同族会社が、当該土地の借主である場合は、上述の評価と合わせて、同族会社の資産額に、当該土地の自用地価額の20%相当額を算入しなければなりません。

 

これは、B社の資産額、ひいては株式の評価額の増加となり、鈴木様の支払うべき相続税の増加につながりそうです。しかし、A土地の価額の減少幅と、B社の株式の価額の増加幅を比べると、前者のほうが後者よりはるかに大きく、「自用地」として評価した場合に比べ、相続税減額が期待できることが分かりました。以上を踏まえ、さらに現預金などの評価も行って申告書を作成し、期限内に税務署に提出したのです。

 

今回の案件を、相続税があまり得意ではない税理士に依頼した場合、A土地は「自用地」として評価され、B社の株式の価額も不正確なものとなっていた可能性が考えられます。この場合、評価額の総額は約2,400万円上がり、約1,000万円も相続税を余計に支払っていた可能性があります。

 

[図表]
[図表]借地権設定契約した土地の評価

 

個人が同族会社の役員を務める等、特殊な関係下において、その個人を貸主、同族会社を借主として結ばれる借地契約では、相続税法上の土地評価に注意点が多いです。相続税の払い過ぎも発生しやすいことから、気になる方はぜひ一度、専門家に意見を仰ぎましょう。

 

藤宮 浩

フジ総合グループ 株式会社フジ総合鑑定 代表取締役/不動産鑑定士

 

髙原 誠

フジ総合グループ フジ相続税理士法人 代表社員/税理士

 

 

 

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