損益計算とキャッシュフローの「黒字」の違い
本連載の第3回(関連記事『不動産投資のキャッシュフロー…「2つの流れ」とは?』参照)でも触れましたが、損益計算とキャッシュフローでは、含める項目と、含めない項目に違いがありました。損益計算には減価償却を含み、キャッシュフローには年間負債支払額(ADS)の元金返済が含まれているということです。
この減価償却と元金返済額は、年々数字が変わります。この減価償却と元金返済の関係を考えていない場合では、損益計算上は黒字なのに、キャッシュフローでは赤字という状況も散見します。この減価償却と元金返済の関係もしっかりと捉え、不動産投資を有利に進めましょう。
まず減価償却から考えていきます。土地は経年劣化で価値を失わないのに対して、建物は経年劣化により価値が目減りしていきます。減価償却は、損益計算上、不動産を土地と建物部分に分け、その経年劣化による価値の減少分を決められた年数で価値を目減りさせて、目減りさせた分は費用として計上しましょうというシステムです。
例えば、1億円の総事業費の建物があるとします。この1億円を決まった年数で費用計上していきます。まず、1億円を建物の部分と設備の部分に分けます。新築の場合、
建物7:設備3
で分けることが多いので、ここでも建物7000万円、設備3000万円で考えましょう。建物は、構造により耐用年数が違います。
構造別の耐用年数(住宅用の場合)は次のとおりです。
木造 22年
鉄骨造(S造)(骨格材の厚さ3㎜以下) 19年
鉄骨造(S造)(骨格材の厚さ4㎜以下) 27年
鉄骨造(S造)(骨格材の厚さ4㎜超) 34年
鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造(SRC造、RC造) 47年
今回の建物が鉄筋コンクリート造(RC造)だった場合の耐用年数は47年、7000万円を47年で減価償却していくということになります。設備部分は、大きく捉えると耐用年数は15年です。この設備部分の15年の減価償却は、現在は定額法という償却方法のみですが、以前は定率法という方法も選択できました。初めの何年かは定率法のほうが減価償却費の額が大きくなるので、定率法を好んで選択する方が多かったのですが、現在は定額法のみの選択となっています。
※定額法は、3000万円であれば3000万円を15年で割って同じ額を減価償却していく方法。定率法は、当初の3000万円という金額から減価償却をした累計額を引いたものに決まった率(償却率)をかけ、減価償却額を計算する方法。
次に元金返済は、借入を元利均等返済という方法で返済すると、返済額は一定となり、返済額の内訳の利息支払部分と元金返済部分の割合が変化していきます。[図表1]・[図表2]をご覧いただいても年間負債支払額(ADS)は一定なのに対して、元金返済の額が年々増えているのが分かります。
借入をすると最初は利息の支払いばかりで借金が減らないと聞くことがあります。最初は利息の支払いが多く元金の支払いが少ないので利息の支払いが多いのが悪いことのように聞こえますが、毎年のキャッシュフローで考えると、そうでもありません。同じ支払い額の中で利息が多いということは、損益計算上の経費が多いから税金が少ないということです。
そして返済が進むにつれて利息の支払いが減るので、損益計算上の経費が減り税金が増えるのです。税金は増えたり減ったりしますが、この間、年間負債支払額(ADS)は変わりません。ここが注意点です。実際に、お金を支払っていないのに経費に計上できる減価償却が年々減っていくのと、実際にお金を払っているのに経費に計上できない元金が増えていく現象が同時に時間の経過とともに起こります。そのため、空室の損失や運営費(Opex)が全く同額だとしても税引後のキャッシュフローは変化していくのです。
図表3のグラフは、設備が定率法の場合と定額法の場合の減価償却と元金返済を表したものです。減価償却は多いほう、元金支払は少ないほうが所得税の計算上有利です。当初は、定率法、定額法どちらの場合で見ても有利な状況にあるのが分かります。しかし、年々数字が変わり、減価償却と元金返済が逆転していきます。逆転する前の状況では、減価償却と元金返済の差が所得税の計算上有利で、逆転した後は不利になります。減価償却と元金返済の線が交わり、有利、不利の境が決まる点をデッドクロスといいます。
話がそれますが、よく「不動産は減価償却ができるから節税になる」という方がいます。その場合このデッドクロスの前の状況を節税といいます。ただし、節税といわれる減価償却で費用計上をした分は、売却の際は帳簿上の建物価格が下がり、帳簿上の土地と建物の価格と売却額の差が譲渡益となり、譲渡税がかかります。そのため、減価償却は節税ではなく、売却損益を含めたキャッシュフローの早い段階で税金を少なくする効果がある課税の繰り延べであって節税ではないということです。
話を戻すと、この減価償却と元金返済の関係を考慮していないと、収入を増やすつもりの不動産投資が、キャッシュフローがマイナスになり手出しをしなければいけない状況にもなりかねないので注意しましょう。設備部分の15年の耐用年数の前の12~14年位でデッドクロスは起こることが多いので、デッドクロスまでのキャッシュフローの蓄積がどのくらいで、そのキャッシュフローを再投資するのか、繰り上げ返済に当てるのか、大規模修繕の費用にするのか、いずれにしても計画的に使ったり、貯めたりすることがポイントになっていきます。
「不動産の稼ぐ力」を確認するためのポイント3つ
ここまでの連載では、不動産投資における利益率や利回り、レバレッジやデッドクロスなどを見てきました。ここで説明した内容が数字遊びになってしまってはいけないので、ここでしっかりと確認をしていきましょう。
まず、不動産投資、賃貸経営を考える際には、初年度の収益率ではなく、複数年度、売却損益を考慮し、複利の考えの内部収益率(IRR)で考えましょうという話でした。内部収益率(IRR)を計算する際にはまず借入前の内部収益率(IRR)を計算します。借入前の内部収益率(IRR)の途中の損益は、営業純利益(NOI)を使います。
営業純利益(NOI)は、年間負債支払額(ADS)や以降の数字と違い、物件が本来持っている稼ぐ力です。物件が持っている稼ぐ力の内部収益率(IRR)をまず出して、その内部収益率(IRR)と金利を比較して内部収益率(IRR)のほうが高ければ、正のレバレッジが、低ければ負のレバレッジがかかります。借入前の内部収益率(IRR)と金利を比較したレバレッジを確認してから借入後の内部収益率(IRR)、税引後の内部収益率(IRR)を確認します。
その過程では、構造や築年数によって減価償却の耐用年数や借入期間が変わり、デッドクロスはいつなのか、何年間所得税の計算上有利な期間があり、その間にキャッシュフローをどのくらい蓄積できるのかを確認します。
このように借入前の内部収益率(IRR)で物件に稼ぐ力はあるのか、プラスのレバレッジがかかるのかを踏まえ、税引後のキャッシュフローで内部収益率(IRR)を計算し、不動産投資の効率を計る基礎となっていきます。
では、この内部収益率(IRR)を計算する際の構成要素が分かれば、出発点である不動産が稼ぐ力が見えてくるということです。
内部収益率(IRR)を計算した図表4を見てもらうと構成要素としては、
①支出(初期投資額)
②営業純利益(NOI)または税引前キャッシュフロー(BTCF)などの途中の損益
③売却損益
の3つしかないことが分かります。要はこの3つの要素が、不動産の稼ぐ力を確認して購入の判断をしたり、既に持っている不動産のパフォーマンスを最大化するためにはどうすれば良いのか、それとも売却してしまったほうが良いのかなどの選択肢を考えることができる基礎ということです。