不動産投資や賃貸経営において、目先の利益や断片的な情報に振り回され、適切な投資判断やシミュレーションなどの分析ができずに失敗するケースが多く見られます。本記事では、ベストプラン株式会社代表取締役・豊田剛士氏の著書、『徹底分析! 不動産投資・賃貸経営の成功戦略』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集し、不動産投資における適切な数値分析について解説します。

空室でもキャッシュフローがマイナスにならない仕組み

前回、利益率では、投資した額に対していくらのリターンがあるのかという効率を見てきました(関連記事『投資物件の「表面利回り・実質利回り」を正しく比較するには?』参照)。今回は、リターンの効率ではなく、キャッシュフローの健全性を計る指標を見ていきましょう。

 

まずは損益分岐点(BE:Break-Even Point)です。(BER:Break Even Ratio)ともいいますが、ここではBEと表記していきます。キャッシュフローと聞くとお金が入ってくるイメージだと思いますが、入るのではなく出ていくマイナスのキャッシュフローもあります。プラスのキャッシュフローの場合は、入ってくるお金>出ていくお金、マイナスのキャッシュフローの場合は、入ってくるお金<出ていくお金、の状態です。ということは、入ってくるお金と出ていくお金のどこかに均衡点があります。それが損益分岐点(BE)です。全部空室になってしまい家賃収入が0円でも、固定資産税や光熱費、借入金の返済など、必ず出ていくお金があります。この必ず出ていくお金の合計が入ってくるお金に対してどのくらい比率を占めているかという指標です。

 

[図表1]
[図表1]

 

ここでは税引前のキャッシュフローを算出するまでの過程で考えます。[図表1]で、税引前キャッシュフロー(BTCF)を算出するまでに実際に定期的にお金が出ていく項目を確認してみましょう。総潜在収入(GPI)の箱の中にある実際に定期的にお金が出ていく項目は、運営費(Opex)と年間負債支払額(ADS)です。空室損失は実際にお金が出ていくものではなく、貸していたらいくら入ったという機会損失です。この運営費(Opex)と年間負債支払額(ADS)が総潜在収入(GPI)の中にどれだけ占めているかというのが損益分岐点(BE)です。式は次のとおりです。

 

損益分岐点(BE)=【運営費(Opex)+年間負債支払額(ADS)】÷総潜在収入(GPI)

 

損益分岐点(BE)は、運営費(Opex)と年間負債支払額(ADS)がどれだけ総潜在収入(GPI)の中に占めているかという比率なので、これを下回るとマイナスのキャッシュフロー、これを上回ればプラスのキャッシュフローとなります。例を見てみましょう。

 

物件価格 1億円

借入額(金利2%、借入期間30年) 9000万円

 

総潜在収入(GPI) 800万円

空室損失 50万円

実効総収入(EGI) 750万円

運営費(Opex) 150万円

営業純利益(NOI) 600万円

年間負債支払額(ADS) 399万円

税引前キャッシュフロー(BTCF) 201万円

 

損益分岐点(BE)=【運営費(Opex)150万円+年間負債支払額(ADS)399万円】÷総潜在収入(GPI)800万円=68.63%

 

この損益分岐点(BE)68.63%が表しているのは、総潜在収入(GPI)800万円を100%として、運営費(Opex)150万円と年間負債支払額(ADS)399万円を足した549万円が68.63%を占めているということです。ということは、

 

100%-68.63%=31.37%

 

は、空室になってもキャッシュフローがマイナスにならないということです。額でいうと、

 

総潜在収入(GPI)800万円×31.37%=251万円

 

です。251万円は年額なので月額にすると、

 

251万円÷12カ月=約21万円

 

月額約21万円ということは、総潜在収入(GPI)は月額にすると、総潜在収入(GPI)800万円÷12カ月=約67万円なので1戸83750円の部屋が8戸というイメージです。1年間、8戸中2戸空いた場合、

 

8万3750円×2=16万7500円/月

 

で約21万円を下回るので黒字です。8戸中3戸空いた場合、

 

8万3750円×3=25万1250円

 

約21万円を上回るので赤字ということが分かります。この指標は税引前キャッシュフローで考えており、実際は税金も考慮しなければいけないのでもっと短い期間となりますが、税引前の考慮すべき指標の一つです。

 

基本的には、総潜在収入(GPI)は年々下がるので、一度出したものがずっと使えるという比率ではなく、正確に考えるには算出をしたい年度ごとに計算する必要があります。

「営業純利益」にどれだけ負債を支払う能力があるか?

次に金融機関がよく見ている、年間負債支払額(ADS)を100%とした時に、営業純利益(NOI)が何倍かを表す指標の負債支払安全率(DCR:Debt Coverage Ratio)です。式は次のとおりです。

 

営業純利益(NOI)÷年間負債支払額(ADS)=負債支払安全率(DCR)

 

どれだけ負債を支払う能力が営業純利益(NOI)にあるかということを計ります。1.3以上が安全や、1.2以上が安全など、伝える方によって差がありますが、当初1.3以上ないとLTVが高い場合や後述するデッドクロス以降は、税引後キャッシュフロー(ATCF)がマイナスになるケースも多いので注意が必要です。この負債支払安全率(DCR)を前述の例で計算すると次のとおりです。

 

営業純利益(NOI)600万円÷年間負債支払額(ADS)399万円=1.50

 

営業純利益(NOI)が年間負債支払額(ADS)399万円の約1.5倍あるということを表しています。この負債支払安全率(DCR)は、不動産単体ではもちろんのこと、所有している不動産全体で考え、キャッシュフローは多いが売却益の少ない物件と、キャッシュフローは少ないが売却益が多い物件を組み合わせるなどの戦略等にも使えます。

 

この項でお話しした損益分岐点(BE)と負債支払安全率(DCR)は、いずれも単年度の分析に使用するものですが、一回不動産を購入すると単年度の繰り返しが最終的な結果となります。リターンに対する投資効率の攻めの要素だけではなく、損益分岐点(BE)と負債支払安全率(DCR)のような健全性という守りの要素を確認することでキャッシュアウトフローを防いだり、次の一手を考える材料となります。

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