不動産投資や賃貸経営において、目先の利益や断片的な情報に振り回され、適切な投資判断やシミュレーションなどの分析ができずに失敗するケースが多く見られます。本記事では、ベストプラン株式会社代表取締役・豊田剛士氏の著書、『徹底分析! 不動産投資・賃貸経営の成功戦略』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集し、不動産投資における適切な数値分析について解説します。

レバレッジに関しても「複利」で計算することが必要

不動産投資が有価証券などの他の投資と比べて優れている点として、借入をして投資をすることで、手元にある現金よりも規模の大きい投資を行うことができるという点があります。上手に使えば、借入がない時よりも収益性が上がります。これをレバレッジ(てこの原理)といいます。

 

ただし気をつけたいのは、使い方によっては収益性が下がるということです。借入をすれば全ての状況でプラスにレバレッジが働くのではなく、正のレバレッジの効果もあれば、負のレバレッジの効果もあります。そのため、正のレバレッジを効かせ不動産投資を行うためには、レバレッジの仕組みを正しく理解する必要があります。

 

本連載の「利益率」の自己資金配当率(CCR)の中で、利益率のレバレッジという話がありました(関連記事『「損益分岐点と負債支払安全率」で見る投資物件の健全性とは?』参照)。自己資金配当率(CCR)はあくまでも単年度の収益率なので、初年度の営業純利益(NOI)に対して、レバレッジがかかるか、かからないかという話です。

 

不動産投資を考える際には、複数年度、売却損益で考え、複利で計算することが必要だということを前回まででお話ししました。このレバレッジに関しても、初年度の収益だけでなく複数年度、売却損益で考え、複利で計算することが必要なので確認していきましょう。

 

[図表1・図表2]は、「利益率」の自己資金配当率(CCR)の例にある営業純利益(NOI)600万円を10年間一定にして、自己資金配当率(CCR)を計算したものです。初年度こそ自己資金配当率(CCR)は16.44%ですが年々値は下がり、10年目には5.86%になっていることが分かります。この変化は手元に入る収益しか見ていないと気づきにくいですが、年間負債支払額(ADS)の中の元金返済部分が借入残高から減り、自己資金が増えるとともに返済期間の減少によるローン定数が増加する場合、効率が下がってくるのです。

 

[図表1]
[図表1]

 

[図表2]
[図表2]

 

このように初年度の自己資金配当率(CCR)しか見ないと、良い部分を切り取って見てしまうような事態が起こります。初年度の収益に対する利益率だと、捉えるべきものが捉えられなくなるので、違う方法でレバレッジを考える必要があります。そのためには、複数年度で売却損益まで考慮した内部収益率(IRR)でレバレッジも考えることが必要です。

 

内部収益率(IRR)でレバレッジを考える時には、内部収益率(IRR)と金利を比べます。金利は、事務手数料などを考慮した実行金利を本来は使います。実行金利は、普通のローン電卓では計算することができず、金融電卓という電卓もしくはエクセルが必要になります。例えば、借入額9000万円、金利2%、返済期間30年の借入の時に事務手数料が16万2000円だと、実行金利は2.01%です。ここでは簡便に、実行金利でなく金利で考えていきましょう。

「安く買って高く売れば」より多くの利益が得られる

[図表3]は、先ほどの例で内部収益率(IRR)を計算したものです。このケースでは、借入をしない内部収益率(IRR)は6%です。金利は2%、内部収益率(IRR)のほうが金利を上回っています。このケースだと、上の借入をしていない状態の内部収益率(IRR)6%から、下の借入をした状態だと26.76%に上がりました。このように借入を上手に使うと正のレバレッジがかかり、利回りを飛躍的に上げることができるのです。

 

[図表3]
[図表3]

 

反対にマイナスのレバレッジがかかる例を見てみましょう。前回取り上げた例から[図表4]のマイナスの内部収益率(IRR)を考えてみましょう。再度、前提を整理します。

 

[図表4]
[図表4]

 

初期投資額 2億円

営業純利益(NOI) 800万円

売却価格 1億335万7951円

 

この条件で建物の総事業費1億円と同じ1億円の借入で考えてみましょう。

 

借入金額 1億円

金利 2%

返済期間 30年

年間負債支払額(ADS) 443万5433円

10年後の借入残高 7306万4172円

税引前キャッシュフロー(BTCF) 356万4567円

10年後の売却価格-借入残高 3029万3779円

 

が借入れに関する追加の情報です。

 

[図表5]が数字をまとめたものです。借入前の内部収益率(IRR)は、▲1.30%で金利2%を下回っています。そのため、借入後の内部収益率(IRR)は▲5.19%と借入前の内部収益率(IRR)よりも悪化しています。このように複数年度、売却損益を考えた内部収益率(IRR)と複利のレバレッジを間違えた方向で使うとマイナスのレバレッジがかかり、資産をより多く失ってしまうのです。

 

[図表5]
[図表5]

 

ここまでの説明で難しく感じた方も少なくないと思います。簡単にいえば、安く仕入れて高く売るということです。リンゴを安く農家から仕入れて、仕入れた金額よりも高く一般の顧客に売れば利益が出るのと原理は同じです。リンゴを安く仕入れるのが金融機関からの借入、一般の顧客に販売するのがキャッシュフローと売却損益です。安く買って高く売ればより多くの利益が得られるし、仕入れた金額より安い金額で売ってしまうと損をしてしまいます。

 

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豊田 剛士

合同フォレスト

不動産の基礎、購入から売却、ポートフォリオの考え方までこれ1冊で!不動産投資、賃貸経営を体系的に行うために必要な知識。

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