不動産投資の利回りで使う「複利」の考え方
単年度の収益に対して価値を比較するのが利益率でした。利回りとは、初期投資額に対して、単年度ではなく複数年度、売却の損益まで考慮し、複利で考えたらどうなるという考え方です。
複数年度、売却損益を考慮しないと本来の投資効率は分からないということは前回まででお話ししましたが、ここで複利という考え方が出てきます。利回りの話に行く前に、複利とは何か考えていきましょう。
投資には、単利と複利という考え方があります。銀行にお金を預けるというのも倒産のリスクがあるので一種の投資です。この銀行の普通預金や定期預金に表示されている金利は単利でしょうか、複利でしょうか。銀行の金利は、複利の計算です。例えば100万円を3%の単利で10年間預けた場合と、複利で10年間預けた場合を比較してみましょう。
[図表1]は単利で考えた場合です。100万円を預金すると1年ごとに100×3%=3万円の利息が足されていきます。10年後には、3万円×10=30万円の利息です。
[図表2]は複利の場合です。100万円を預金すると、1年目は、単利と同じように3万円の利息が足されます。2年目からは単利と違い、複利の場合は利息の3万円が足された103万円に対して3%が足され、106万900円になります。3年目以降も利息が足された後の額に3%が足されていきます。10年後には134万3916円となり、単利とは4万3916円の差が生まれます。
このように単利の計算と複利の計算では計算方法が異なるので、比較はできないことが分かります。不動産投資を検討する際に「銀行に預けても〇〇%にしかならないけど、不動産投資だと□□%の利回りになる」というようないい方で表面利回りや実質利回りという数字を使ったりしますが、複利の預金金利と単利の不動産投資を比べているので、同じ土俵ではないものを比較しようとしていることが分かります。
不動産投資を検討する際にも、預金金利と比較してリターンが良いから投資するという判断をするには複利の計算に直す必要があります。例えば、図表2で10年目の金利は、
100万円×(1+0.03)10=134万3916円
で、計算を行いました。
不動産投資の場合、この当初預金した100万円が初期投資額で、10年後に得られる利息と元本の134万3916円が得られるキャッシュフローと売却損益、求めたいのは投資効率は0.03(3%)という金利の部分が何パーセントになるかというものです。そうすれば金利と比べることができます。
この計算が利回りで使う複利の考え方です。
「売却を想定」した場合の価値を入れて計算する
利回りは、前項の複利の考えを用いたDCF法の内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)という方法を使って利回りの計算をします。式は、図表3のようになります。
前項で説明した金利でいう0.03(3%)の部分がrで、rが内部収益率(IRR)です。実際に計算をしてみましょう。第5回で太陽光発電と区分所有マンションの比較を行いましたが、この区分所有マンションの内部収益率(IRR)を計算すると、5.10%になります(関連記事『投資物件の「表面利回り・実質利回り」を正しく比較するには?』参照)。初年度に対しての収益率は6%でしたので、数字が下がりました。家賃と売却価格の下落を考慮したので、数字が下がったのです。このように初年度に対する収益率だけでなく複数年度で売却損益まで考えると、見えていなかった投資効率が見えてきます。
もう一つ土地からアパートやマンションを建築する例で考えてみましょう。
土地価格 1億円
建物の総事業費 1億円
合計の初期投資額 2億円
営業純利益(NOI)800万円
*新築から10年間は、営業純利益(NOI)が年間で1%下落するダウンサイドリスクを想定。売却時は、投資家が7%で購入するエリアと想定。
図表4に数字をまとめています。このケースでは、内部収益率(IRR)は▲(マイナス)1.30%です。累積の額を見ても分かりますが、10年間では初期投資額の2億円を稼ぎきることはできないと分かります。▲1.30%だったら、銀行がいくら低金利でも銀行に預けていたほうが効率が良いことが分かります。1億円の総事業費の建物を建築して、銀行の金利より低いどころか▲1.30%という投資効率ということが最初から分かっていれば、違う投資を選択したほうが良いことは明白です。
今回は、10年後に売却する計算で行いましたが、実際に売却をしなくても売却を想定した場合の価値を入れて計算をすることで投資の効率を見ることができます。
このように複数年度、売却損益を考慮することで、大きなマイナスを見過ごすことなく、複利の計算をすることで銀行の金利と比べて有利な選択なのか、不利な選択なのかという比較ができるようになるのです。
内部収益率(IRR)は、金融電卓やエクセルで簡単に求めることができます。