貧富の差がますます激しくなる日本。「わが子は稼げる大人になって欲しい」というのは、親にとって切なる願いともいえます。では、子どもの就職が決まったとき、親が取るべき態度とはいったい何でしょうか? 本連載では、公認会計士林總事務所・林總氏の著書『年収1000万円 「稼げる子」の育て方』(文響社)より一部を抜粋し、ステータスだけにとらわれずに、令和時代を生きぬく子どもの育て方を解説します。

「すばらしい価値観の刷り込み」が稼ぐ力につながる

公認会計士試験に合格した子どもを持つ親御さんや本人から、「どこの監査法人に入るべきか」という相談をよく受けます。「トップの監査法人」というのが、私の答えです。

 

この業界での最大手は、ビッグ4と呼ばれる、4大事務所です。これらは、新人のトレーニングプログラムが充実しており、3〜5年もいれば、ひととおりの仕事のしかたやロジカルな考え方を身につけることができます。

 

ビッグ4のような事務所にいると、たとえ22歳の若手であっても、会計監査に携わることで、売り上げ1兆円、2兆円規模の日本を代表する企業の財務諸表を見ることができます。

 

当時は、いまひとつピンときていませんでしたが、これは得難い経験です。大規模の会社を、会計を通して可視化していくわけですから、そこには通常の何倍ものさまざまなノウハウが詰まっているのです。最前線の舞台で、失敗や小さな成功を繰り返し、成長していけば、稼ぎは必ずあとからついてきます。

 

舞台が一流であればあるほど仕事のおもしろさや難易度が上がり、人生を楽しめるということを、子どもに伝えていきましょう。

 

ある医師が、「一流どころには一流の人間がいる」と話してくれたことがありました。確かにそう思います。しかし、「名前だけ一流」「給料だけ一流」「権威だけはある」のに、やる仕事に学びや実がなければ、そこに属する意味はありません。

 

医師になった私のふたりの子どもたちは、研修先に大学病院を選びました。最初に経験した環境がその人の価値観を形成しますから、この意思決定は私にとっても満足できるものでした。

 

なかには、高収入でラクな病院に入りたがる人もいるようです。最初にそういうところに入ってしまうと、価値観が固定され、その後の仕事に対する志が低くなってしまう恐れがあります。稼ぐ力を伸ばすには、最初が肝心なのです。

 

すばらしい仕事人の近くで、「すばらしい価値観」の刷り込みをしてもらうことが、それからの仕事人生を左右すると思います。

 

また、30代は経験を積む時期ですから、「自分よりできる人がたくさんいる」という環境に身を置くほうが意味があります。「自分よりすごい人がたくさんいる環境のほうがいいぞ」というメッセージを子どもに強く刷り込んでおくことが、「自分の成長を楽しみながら、いつのまにか1000万円稼げるようになっていた」という流れをつくりだし、スムーズに、「人間性」「教養」「仕事」の「カースト」の上にのぼっていける秘訣だと思います。

「就職イコール自立」ではない…「自活」を促すこと

「うちの子、やっと就職が決まったよ。ようやく自立してくれてひと安心だ」こんなふうに、安どの声を上げている人の話をよくよく聞くと、就職はしたけれど、実家でまだ親と暮らしている、ということがあります。就職イコール自立ではありません。自ら稼いだ少ない給料のなかでやりくりしながら、自分で炊事、洗濯をして、生活してこそ、はじめて自立したといえます。

 

そして、苦しい家計であるからこそ、「もっとがんばって働いて、お給料を上げたい」「キャリアアップしたい」と、「稼ぐこと」に対して、主体的に考えられるようになります。就職したら、家から出し、自活させるのがいちばんです。この機会を逃すと、結婚して家を出るまで自立が先延ばしになってしまいます。

 

就職したら自立する
就職したら自立する

 

いまは晩婚化が進んでいますから、自立が10年先、20年先になってしまうかもしれません。炊事や洗濯など、生活の面倒を親に見てもらっている状態だと、親から離れて仕事をしながら生活してお金を回し、やがては結婚して新しい家庭を築いていくのが、億劫になってしまう子どもも多いようです。

 

もちろん、実家が子どもにとっての安全基地であることには変わりありません。「もし何かあったら戻ってきていいよ」と伝えながら、仕事に就いたら家から出すことが大切なのです。

 

大学を卒業しても、すぐさま稼ぐためのスキルが身についているとは限りません。難易度の高い資格取得には時間がかかりますし、いったん就職したあと学校に通い直し、新たな道に進むという場合もあるでしょう。なかには、アルバイトをしながら俳優やアーティストを目指すというケースもあるかもしれません。この場合、実家で面倒を見続ける、あるいは家を出るにせよ生活費を援助するかどうか、親は思い悩むことでしょう。

 

もし、親の側に金銭的に余裕があれば、期間限定で面倒を見てもいいと私は思います。中途半端な状態で世の中に出すよりも、最低限稼げる力をつけさせるのが、親の務めだからです。とはいえ、親の生活や老後を犠牲にしてまで、やることではありません。

 

 

林 總

公認会計士林總事務所 公認会計士/明治大学特任教授

 

年収1000万円 「稼げる子」の育て方

年収1000万円 「稼げる子」の育て方

林 總

文響社

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