子どもが中学生のときに「総合口座」をつくった
子どもに金銭感覚やお金の使い方を身につけさせようと考えたとき、どんな具体策があるのでしょうか。まず思い浮かぶのが「こづかい帳をつけること」です。子ども向けのこづかい帳はたくさん売られています。
しかし、会社の会計実務では、過去の業績を表す決算書を「死亡診断書」と揶揄することがあります。「終わったことをとやかく言っても過去はどうにもならない」という意味で使われるのですが、まさにおこづかい帳もこれと一緒です。おこづかい帳は使ってしまったお金を記録しているだけ。もちろん、それをもとに無駄を洗いだし、お金の使い方を検証すれば意味がありますが、そこまでやっている親や子どもはまずいません。
手間のわりに効果のないおこづかい帳をつけるより、わが家では「お金は使うと減る」という感覚を身につけさせることに主眼を置いていました。具体的な方法は次のとおりです。
① 4人の子どもそれぞれが中学生になったとき、銀行で総合口座をつくった
② 5万円を定期に積み、普通口座はゼロにしておく。引き出し可能額は、定期預金額の9割(4万5000円)まで
③ 通帳は親、キャッシュカードは子どもが管理
④ おこづかいの額は次の通り
中学生は3000円、高校生が5000円、大学生が3万円(昼食代込み)お年玉は、小学生のときは年齢×100円、中学生のときは5000円、高校生のときは1万円
⑤ 本は無制限に買ってOK
⑥ 子どもが5000円引き出すと、普通口座に「▲5,000」と表示され、マイナスが増えていく。月に1回、妻が通帳記帳し、所定の額のお金を補充する
キャッシュカードなんて使わせなくても、親が必要に応じてお金を渡して、記録しておけばいい、しかもなぜわざわざ定期預金にするのか、と思う人もいるでしょう。
しかし、普通口座で1万円を引き出しても、5万円が4万円になるだけで、「1万円減った」ということを明確に意識できません。しかし、総合口座で管理すると、お金を引き出すたびに、使ったお金が「見える化」されます。1万円引き出すと「マイナス1万円が増える」というショックは強烈で、お金を使うときの意識が確実に変わっていきます。
この総合口座を使ったおこづかい管理法は、「お金を使うというのは、マイナスを増やすことなんだ」という意識づけができるシステムなのです。
自然と「収入の範囲内で暮らす」ことが身に着く
もうひとつ、この管理法のいいところがあります。それは「最大4万5000円まで」と、自分が使うことが許されているお金の上限が決まっていることです。そのことで〝予算感覚〞が身につきます。「友だちと遊びに行くから」「ほしい本があるから」と子どもにねだられるたびにお金を渡していると、親の財布から無尽蔵にお金が出てくるものだという感覚がしみついてしまいます。
しかし、この管理法なら「使いすぎたから今月はがまんしておこう」という感覚が自分のなかに定着していきます。予算感覚があると、小中学生のうちからやたらにおもちゃやゲームを買いあさることはないし、大人になってからも見栄を張って人におごったり、身の丈に合わない生活をして借金を重ねたりすることがないのです。
ただし、1万円以上引き出したときは、何に使ったのか親がチェックするようにしていました。
小額のお金の使い道はこまかく詮索しないのが、このシステムを長続きさせる秘訣です。子どもにある程度の裁量を認めながら、「ちゃんと親はチェックしてるよ」と伝えていけば、子どもは案外無駄づかいはしないものです。
大学生になったら、定期預金を大きく積み増して通帳も子どもに渡し、完全に彼らの管理にしてしまいました。ちなみに、高校時代はバイトよりやるべき重要なことがあると考え、アルバイトは禁止。大学時代は4人とも家庭教師のアルバイトをしていました。長男はやりたいことが多すぎてお金が足りないからと、居酒屋と家庭教師を掛け持ちしていたようです。
ちなみに、彼らに渡した預金がどうなったかといいますと……。
長男は、大学時代に定期預金をみごとに使い果たしました。次男も、20代のうちに全部使ってしまったようです。三男は、半分ほど使ったようです。四男は、親が最後に積み増した定期が、そのまま残っているそうです。
同じように教育したつもりですが、やはりお金の使い方も四人四様……という結果になりました。現在、4人全員が守っているのは「収入の範囲内で暮らす」「借金だけはしない」といったことでしょうか。どの子も親に「お金が足りないからお金貸して……」と言ってこないことを考えれば、このおこづかい管理法は間違ってはいなかったのではと思っています。
林 總
公認会計士林總事務所 公認会計士/明治大学特任教授