貧富の差がますます激しくなる日本。子どもが将来稼げる人になってほしい、というのは、親にとって切なる願いともいえます。しかし、子どもがお金に困らない生活を送るためには、ただ闇雲に教育するだけではいけません。子どものために、賢い「選択と集中」を続けていくことが大切です。そこで本連載では、公認会計士林總事務所・林總氏の著書『年収1000万円 「稼げる子」の育て方』(文響社)より一部を抜粋し、学歴だけにとらわれずに、令和時代を生きぬく子どもの育て方を解説します。

「見栄」に左右されるとひどいことになる

賢い「選択と集中」を妨げるのが、「見栄」の存在です。わが子を「幸せに稼げる子」にするために、資金を投入したい。そう心に決めていたのに、ママ友がブランドバッグを誇らしげに持っていれば、「私だって、お金がないわけじゃない……」と決意が揺らぎ始めます。

 

あるいは、知人の娘さんがピアノのコンクールで入賞したと聞けば、子どもの意思はさておき「負けていられない」と高いレッスン料を払っていい先生をつける、といったケースもよく見聞きします。

 

子育てに見栄が入り込みやすいのは、年齢で区切られた子どもたちが同じスタートラインに立ち、ヨーイドンで一斉に走り始めるからではないでしょうか。「同じ年齢の子どもがいる」という共通点があるだけに、親同士は経済状況のちょっとした差異が気になりますし、うっかりすると過剰あるいは異常なまでに、「ほかの子より優れた子になってほしい」という考えが芽生えてしまいます。

 

この「ほかの子(とその親)に負けたくない」「格下だと思われたくない」という競争意識が、見栄の正体です。

 

たとえば、1週間7日のうちすべて習い事で埋め尽くしたのに、すべてうまくいかなかったという家庭はごまんとあります。勉強に適性がなく、塾に通わせてもサボっている子、ただ椅子に座っている子もいます。それなのに、塾に通わせているのは「みんなが行っているから後れをとりたくない」という横並び意識ではないのでしょうか。ただでさえこらえ性がない子に、興味がないことを詰め込んでも無意味です。そのぶん、興味あることに集中させたほうが何倍も意味があります。

 

勝ち負けにこだわって中途半端にお金をかけても、なんの成果も得ることはできません。その事実をしっかり肝に銘じ、見栄に振り回され「選択と集中」に失敗していないか、一度立ち止まってよく考えてみてください。

 

親のエゴを押し付けていないか?
親のエゴを押し付けていないか?

やっかいな「劣等感」を子どもに持たせないために

つい見栄を張ってしまうのは、親自身の強すぎる優越感や劣等感が原因です。それは「負の遺産」として確実に子どもに継承されてしまいます。他人との比較で自分が優位に立つことにしか意味を見いだせない親のもとで育つと、一流大学に受かったから、自分がお金持ちだからと人を見下す優越感を強く持つようになります。

 

初対面で、相手(もしくは相手の夫)の勤務先や年収を聞き出そうとし、自分が勝っていれば悦に入り、自分が劣っていれば妙に媚こびを売ってきたり、無視をしたりするようなタイプです。

 

反対に、中学受験に失敗して公立に行ったからと劣等感を持ってしまったり、「どうしても子どもを医者にしたい」という親のもとで勉強漬けの毎日を送ったものの結果が出ず、引きこもりになってしまう子もいます。

 

医師ではなく看護師の道を選んだことで、親から「医者になれなかった子ども」という烙印を押され、持たなくていい劣等感にさいなまれている人もいます。「見栄っ張りの親をもって自分は本当に恥ずかしい」と、自分に劣等感を抱かせた親を憎み、親子関係がうまくいかないケースも見てきました。

 

劣等感をどういうかたちで表現するかは人によって違います。人をうらやんで自分を卑下し萎縮する人もいれば、能力のある人に嫉妬し張り合ってホラを吹く人もいます。

 

劣等感は誰にでもあるものです。ほどよい劣等感は、成長へのジャンピングボードになりますが、強すぎる劣等感は萎縮やウソというかたちであらわれてしまいます。過度な劣等感を子どもに抱かせないためには、親の教育が肝心です。

 

わが家では、人と比べて「負けるな、勝て」とは絶対に言いませんでした。負けることが恥ずかしいと思ってしまうからです。受験でもバイオリンでも、目標に向かって最大限がんばるけれど、難しいことに挑んでいるんだから、失敗するのはしょうがない、というスタンスでした。子どもたちによく話していたのは、「わからないことをわからないと言え」ということです。

 

子どもも大人も、「わからない」「知らない」と言えないうちは、まだ劣等感に支配されている状態です。

 

私自身も、ある時期までは恥ずかしくて言えませんでした。しかし、公認会計士試験に合格して入った最初の事務所は、みんな親切にわからないことを教えてくれる人ばかりで、「わからないと言っても大丈夫なんだ」と安心して劣等感を捨てることができたのです。

 

みなさんは「自分は子どもに劣等感を抱かせるようなことはしていない!」「見栄を張るようなことはしていない!」と感じたでしょうか?

 

見栄というのはきわめてやっかいで、そこまで競争意識を露骨に表していない親であっても、「うちの子だけうまく育てばいい」という思いが、日々の子どもへの言動のなかに、知らず知らずのうちに入り込んでしまうものなのです。

 

私自身のなかにも、見栄は存在しています。だからこそ、つい見栄を張りたくなったときは、ドラッカーのこの言葉を思い出し、自戒に努めていました。

 

「大きくなること自体に価値はない。よい企業になることが正しい目標である。成長そのものは虚栄でしかない」

(『マネジメント基本と原則』 P・F・ドラッカー著 上田惇生訳 ダイヤモンド社)

 

子どもが一流企業に勤めたり、お金持ちになること自体に価値はない。子どもが幸せに生きていくことこそが正しい目標である。いい学校に入ること、いい会社に入ること、高収入を得ることそのものを目標にしてしまうのは、虚栄(見栄)でしかないのです。

 

見栄を捨てましょう。子育てにおいては特に、見栄は禁物です。見栄を捨てて、子どもの幸せのために、限られたお金を価値あるものに集中させましょう。

 

 

林 總

公認会計士林總事務所 公認会計士/明治大学特任教授

 

年収1000万円 「稼げる子」の育て方

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文響社

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